俺はトマトが大嫌い。
@sura02
8月31日は野(8)菜(31)の日。
うだるような暑さを扇風機で凌ぎながら日課であるオンラインゲームを深夜まで遊んでいた俺は、休憩がてらシャワーを浴びることにした。
風呂場に着き服を脱ぎ始める。が、しかし、首のところで何故か引っかかる。
無理やり服を脱ごうとすれば顔に激痛が走る。まるで皮膚が引っ張られて張り裂けるような感覚だ。何かがおかしいと思い服を脱ぐのをやめ、顔に何が起きているのかを確認するために鏡の前に立つと俺の脳が映し出した光景は現実とは思えなかった。
「「お、俺、俺の…俺の頭がトマトになっとる!?」」
驚きのあまりに腰を抜かしその場で派手に転びそうになる。瞬間、さっきの激痛を思い出す。皮が引っ張られて張り裂けそうな感覚。いくらトマトに変わってもこれは俺の頭なのだ。このまま成人男性の頭部の2倍はある大きさのトマトが床に叩きつけられれば、どうなるのかは容易に想像ができる。ただのトマトでさえ床に落とせば潰れるのにこのサイズで勢いよく何かにぶつかれば辺り一面はトマトまみれになって掃除洗濯は大変な事になるのは間違いない。世の中の子育て世代が見たら絶叫するであろうおぞましい光景だ。子供の悪戯でも度が過ぎている。いいや、世の中の子育て世代の掃除洗濯の苦労を思案している場合ではない。このまま想像の通りトマトが大爆発したら俺の生命活動はどうなる。仮にも頭が吹き飛んで生きている人間は居ないだろう。居たとしてもそれはもはや化け物だ。走馬灯代わりに駆け巡るトマトの大爆発を脳裏に再生しながら必死の思いでトマトを潰れないように受け身を取る。
なんとか生き残れた事に安堵するが、何も解決はしていない。なぜ俺の頭がよりにもよって大嫌いなトマトになっているのだ。そもそも何が起きた。意味が分からない。
俺は落ち着くためにその場で深呼吸をする。うーん、トマトの嫌な香りが鼻を抜ける感覚。気持ち悪い。そのおかげで冷静さを取り戻せたので現状を確認しよう。
1、五感は正常に作動している。2、耐久度はトマト。3、深呼吸するとトマトの嫌な香り。最悪だ。4、騒がしいのは俺だけ。つまり頭がトマトになっている人は他には居ない。
こんな状況で冷静になれる俺自身に驚きながら、水を飲む。あぁ、とても美味しい。ネトゲ仲間に何かおかしなことは無いかと聞いても特に返事がなかったので本当にこれは神の悪戯なのだろうと割り切ることにした。とりあえず不慮の事故に備えてクッションを増やして眠りについた。
朝を迎えるが、頭はトマトのままだった。寝て起きたら治っているような都合のいいことは無かった。寝起きのあくびでトマトの嫌な香りを味わいながら布団から出る。水を一杯飲みカーテンを明け、日の光を浴び気持ちが良くなったところで今後、どうしたものか考える。病院に行くべきなのだろうか。だが予約の電話では相手にされないだろうし救急車を呼ぼうものなら救急隊員にこの姿を晒し、驚かれて突き飛ばされでもしたら俺の部屋はトマトまみれになりそのまま俺の人生もそこまでだろう。とりあえず友人を呼んでみることにしよう。幼い頃からつるんでいるあいつになら俺の声はわかるだろうし事前に説明しておけば、見ず知らずの他人よりは驚かないだろう。
友人が来るまでに暇だから食事の用意でもしておこう。そして数十分後、インターホーンが鳴る。
「おーい、鍵開けてくれー。頭がトマトになったんだってー?写真まで送ってきてさ。」
「おう、今開けるー。」
鍵を開けて、ドアを開き友人の姿を目に捉えたはずだった。
「いやー、実はさー、俺も頭が変わっちゃってて困ってたからお前に相談しようとしてたんだよね」
扉を開けた先に居たのは頭がタヌキになっていた友人だった。
「うおおおおおおおおお!!お、おま、お前!?」
驚きのあまりまた転びそうになるがなんとか耐える。
「あは、びっくりした?でも、不思議な事にこの姿で出歩いても誰もお前みたいな反応はしなかったんだぜ。これが普通みたいな感じで」
「は、はぁ??それのどこが普通なんだよ。俺の頭もだけどさ」
「いやまあ、とりあえず中で話そうか」
「お、おう、、、てか、ビビらせんなよ。あのまま腰抜かしてたらどうなったことか」
「ごめんごめん、トマトになってるぐらいだし俺の顔見ても驚かないかなって」
「そんなわけないだろ!?」
「もー、謝ってるんだから許してくれよなー。ところで何か茹でてんの?」
「ああ、こんな朝早いと何も食べてないだろうから、パスタ茹でてたわ」
「気が利くねー。ソースは?」
「カルボナーラに決まってんだろ?」
「ミートソースとか無いの?」
「あるわけないだろー。俺がトマト大嫌いなの知ってるだろ?それなのに頭がトマトになって、目覚めにもトマトの香りが鼻を抜けて気分が悪くなるし。なんだってこんな目にあわ
突然、友人が背後から勢いよく俺の頭に嚙みついた。部屋にトマトの汁が盛大に飛び散り激痛が走る。
「な、な、何するんだよおま
「あ、ごめん。」
瞬友人は続けて口を開く。
「あまりにも美味しそうだったから我慢できなくなっちゃった。」
何を言っているのか理解が出来なかった。美味しそう??この俺が??何で?頭がタヌキになったショックで精神でもイカれたのか?でもさっきまでまともに会話をしていたよな?
「うん、やっぱり美味しい。写真で見たときから食べたくて食べたくて仕方が無かったんだ。」
飛び散った汁を舐め取りながらタヌキ頭の友人は近づいてくる。
とにかく逃げようと体を動かそうとするがうまく動かない。汁が飛び出したときにもともと脳だった部分も一緒に飛び出したのか?このままでは食われて死んでしまう。どうにかして逃げねば。そんな事を思っているうちにタヌキの頭は目の前に迫ってトマトを持ち上げて捻り体は動かなくなった。
「トマトソースパスタでも作って美味しく頂くとしよう。」
あぁ、俺の頭だったものが美味しく調理されていくのを感じながら最後の意識が途切れる刹那。
野菜、ちゃんと好き嫌いなく食べてればよかっー
俺はトマトが大嫌い。 @sura02
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