第07話 サクラ、『桜』推し

 柑橘系の汁を3滴ほど入れて……爽やかな香りと味わい広がるアイスティーを飲む。


 「ゴクゴク……ゴク……」


 うーん、美味い。


 因みに、彼女達3人も好みがあり、それぞれアレンジしながら飲んでいる。


 サクラは……砂糖たっぷりの甘め。

 ヒナタは……葉っぱを感じたいとストレート。

 コトハは……ミルク多めで砂糖ほどほど。


 食後の余韻に浸りながら、本題の『パーティー名』決めである。


 ヒナタが記入してくれるようで、用紙を目の前に置き、ペンを右手に書式を確認している。


 「えー、リーダーはハル……サブが私で……サクラとコトハは、何でしょうかねー」


 「ふぁぃ、斬り込み~」

 「全てを破壊」

 なんともアグレッシブな発言をするサクラとコトハ。


 「サクラが特攻要員で……コトハが破壊要員。はいはい、却下でー……残念ですねー……2人共、雑用係と。フフッ」


 「ほぇっ!斬り込みは~」

 「ガーン」


 3人のやり取りをスルーして、パーティー名を思案する。


 パーティー名が被った場合、もしくは、似ている場合は、先着順だと言っていたな。


 直近のゲームで、俺達4人用に作ったギルドの名称は、

 「……死屍累々ししるいるい


 4人共にアタッカーで、尚且つ、キルするのが好き……俺達が通り過ぎた後は、しかばねだらけ……的な感じの勢いで付けちゃったんだよなー。


 これはこれで、思い出すと恥ずかしい。記憶の片隅へ、ポイっと。


 「スマホゲームの『アバ戦』……そのまま使うのですかー」

 「んんう、使わないよー……ちょっと思い出しただけ、だよ」

 ヒナタからのツッコみを即座に否定。


 「どうしようか……多くの勇者がいるので『勇者』と言う単語は使いたくないなー」

 「そうですねー。でも、私達と同様の人が多くいるので……ある程度被るのは致し方なしと割り切ることも必要ですねー」


 「やっぱり、そうだよなー……絶対に被るよね」

 「ええ。それと固有名詞は……恥ずかしいので嫌ですねーフフッ」


 「『春、桜満開』は~」

 「『国士無双こくしむそう』……『天上天下てんじょうてんげ』……『唯我独尊ゆいがどくそん』」

 特徴あり過ぎのパーティー名を列挙するサクラとコトハ。


 「サクラ、自身の名前……固有名詞が入ってるからねー……うんで、コトハの四字熟語かー。うーん、無難ではあるけど……今回はパスで」

 「……ハル、何かイメージでもありますー」


 ん、イメージかー。そうヒナタに言われると……悩む。


 「んー、みんなの特徴や……共通した何かが入ってると、良いかも?」

 イメージが固まってないので、語尾が疑問形になってしまった。


 「ほぇ?」

 「あ、それ良いですねー」

 「『少女無双』」


 「ほぉーほぉー」

 「あ、それ良いですねーフフッ」

 「ふんすッ」


 「コトハ……俺、男だからね……それに、ゲームタイトルで既にありそう」


 「ハルー……綺麗だよ~」

 「美人度、アップしてますよーフフッ」

 「問題なし」


 サクラは自信満々にフォローしているが……そもそも、そう言う事ではないからね。ヒナタは面白がって、コトハは少しドヤ顔気味。


 彼女達3人は、キャッキャッと妄想を膨らまての会話に熱をあげる。


 『少女無双』……センスは良いと思うけど、男を辞めるつもりはないので、断固拒否するとして……。


 ん-、どうしようかねー。異世界の要素も入れることが出来たらベストだけどなー。


 魔法は、どうだうか。まだ実際には使ってないけど……異世界感があって面白い感じがするんだけどなー。


 火、水、風、土の基本属性が……4人、共通。うんうん、4種類ねー。


 「『よん』で、他の呼び方って何がある?」


 「ふぉ~」

 「カトル……でしょうかー」

 「クアドラプル」


 英語とフランス語……えっと、4倍だっけ?


 「ん-、違う。何かあったはず、……あ、あれだ、演奏だっけ?!」


 「そろ~」

 「デュオー」

 「トリオ」


 「そうそう、で、その次よ」


 「「「かるてっと(カルテット)」」」


 「せーかい、それっ!」


 「共通の火、水、風、土の基本属性の4種類を……4人が『奏する』を『操する』で……カルテット」


 イメージ的には良い感じだ。まあ、多少の強引さはあるが……ご愛嬌あいきょ、ということで。


 『カルテット』は決まりで、あとは前か後ろに……。んー、後ろは、バランス的によろしくない。なら、


 「〇〇のカルテット……前に何かしらほしいなー」


 「ふぁぃ」

 「はい、サクラさん……どうぞっ」


 「『桜色』~」

 「んー、『桜』、好きですねー……『桜色』よりは、もうちょいオブラート気味に『春風』の方が良いかも……次っ」


 「そうですねー……なら、はい」

 「はい、ヒナタさん……どうぞっ」


 「特異属性からー……『聖闇せいあん』と『光影こうえい』」 

 「おっ、これは……特に発声的に『光影』が良いかも……次っ」


 「ふんすッ」

 「はい、コトハさん……どうぞっ」


 「『偽善ぎぜん』……『背信はいしん』……『叛逆はんぎゃく』」

 「ほーなるほど……全体的にどれも良いが……どれも斜めってるのが」


 サクラのは、完全に『桜』と言う文言に囚われてるので、残念ながらスルーで。

 ヒナタのは、悪くないような……でも特異属性が全面に出てしまうのが、ネック。

 コトハのは、格好良いけど、言葉のチョイスが俺達4人に全く関係ないんだよなー。 


 「ハルーは~」

 「ええ、聞きたいですねーフフッ」

 「ふんすッ」


 「『月明り』……『月光』かな……皆の髪のキラキラ度がアップした感があったから、そのイメージを持って来れたらと思ったんだけど……ピタッと来ない、難しいね」


 アイスティーを一口ほど飲み、一息つく。


 俺的には、ヒナタの『光影』とコトハの『偽善』が良いけど……しっくり感が足りない。もうちょい欲しい。


 「ハル、パッとしないなら……今、決める必要はないですよー……取り敢えず、『カルテット』だけ提出するだけでも良いのでは」


 「さんせ~い」

 「ん」


 そうだな。ヒナタの言う通り、今決める必要はないな。後で良いのが浮かんだら申請し直せば。よし、それで行こう。


 「うん、そうだね……ヒナタ、『カルテット』のみの記入で」


 「ええ、なら……それで書きますねー」

 再度、確かめてから用紙に記入するヒナタ。


 「この後、どうする?……入口前で用紙を提出してからだけどね」


 提出後は、自由時間だ。皆の思いを聞いておく。


 「魔法を使いたい~」

 「ええ、私も……試してみたいですねー」

 「ぶっぱ、ふんすッ」


 3人も俺同様にウズウズしていたようだな。記入も終わったようだし……それでは、


 「行きますかねー」


 「やっほぃ」

 「ええ、フフッ」

 「むー」


 同時に席を立ち、使用していたグラスを下げに行く。


 それから、パーティー名に被りはなかったようで、申請書を問題なく職員さん達に受け取ってもらった。その際に、認証カード4人分も一緒に提出。


 そして、戻って来たカードには、


 ……『カルテット』と、パーティー名が刻まれていた。


 名を指の腹でなぞり、肌触りを確かめてから【簡易ボックス】に仕舞う。


 気分は上々。


 逸る気持ちに押されながら……食堂から立ち去るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学級転移★レイヴィア繚乱記~勇者爆誕で異世界が大変なのです~ 雨垂れ @rain777drop777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ