第06話 コラーゲンたっぷり、ガルフォイ

 外にまで香ばしい旨味を載せた……食欲をそそられる香が漂う中を縫うようにして、無事、食堂へ辿り着いた。


 扉はなく、そのまま中へ入って行くと……沢山の生徒達で賑わっており、思い思いのテーブルで食事しながら楽しそうに談笑している。当然、付き添い人もとい案内役と一緒である。


 「あっちの奥手前に行きましょう……沢山、空いてるので」

 「ええ、景色も見えますわねー」

 早速、どこに座るか話し合うリネンとエレナ。


 「あわーいいなぁ~……美味しそうだよ~」

 「サクラ、よだれが……仕方がないですねー」

 「お肉、食べる」

 「マジかー……デカ過ぎだろーその肉」


 サクラ、ヒナタ、コトハ、俺の順に感想を述べながら、指し示された奥のテーブルへ……擦れ違うテーブルの上の料理に目移りしながら……そそくさと向かう。


 途中、見知った顔もあったが……何と言うか皆、顔面偏差値が上がっているようで、完全一致しない。加えて髪色変化が顕著けんちょで、河川公園にある花壇を思い浮かべてしまった。


 それに個人差も当然あり、気持ち整った人、カッコ良さがアップした人、綺麗さがマシマシの人もいる。


 あるいは劇的な変化を遂げている人が……いるかもしれないが、判定不能である。本人からの自己申告がない限り、分かりません。

 

 特に女子だけのテーブルでは、終わりなき……褒め称え合戦が……巻き起こっているもよう。


 まあ、下がる訳でなく見た目が上がるのは、男女関係なく嬉しいよね。俺も嬉しい。


 そんな中、少なくない数の視線を気にするそぶりも見せず、進む彼女達に感心しつつ……遅れないように付いて行き、程なくしてテーブルへ辿り着く。


 上には、1枚ぺらのメニューが……。


 「ぶぅーどぅー、ブブドド~」

 「ファンタジー定番の、オーク?……豚肉でしょうかー」

 「ガルフォイ?……分かんない」

 サクラ、ヒナタ、コトハが感じたままの疑問を口にした。


 「ラビットは……そのまま、兎肉だよなー」

 誰も取り上げないので……残った兎に対して、突っ込んでおく。


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 <本日のメニュー>

  ① ランプとモモ肉のタタキ(ブブドド)

  ② 白ワイン蒸し(ホワイト・ラビット)

  ③ ヒレ肉のクリームシチュー(オーク)

  ④ 香草焼きキノコソース添え(ガルフォイ)

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 「えっと、……ブブドドは牛の魔物で……ホワイト・ラビットは兎の……オークは2足歩行の豚の……ガルフォイは小型な蛇の魔物ですね」

 メニューに使用されているだろう魔物について簡潔に説明するリネン。


 「どれもポピュラーな料理で……美味しいですわー」

 同意するエレナ。


 名前からして分かっていたが、説明されると実感が沸く、魔物が存在する世界だと。


 メニュー名と魔物が結びつかないが……ここに来るまでに、その他大勢が食べてた料理だよね。なら、問題なしだ。


 見た目的に美味しそうだし、食べないと言う選択肢はない。どうせなら、4種類とも食べてみたいから、シェアするのがベストかなー。


 「どれにしますか……どれもお勧めですが、フフフッ」

 「あちらのカウンターにスープ、サラダ、フルーツ、ドリンク……手前のテーブルには、主食のご飯とパンもありますわー」


 「ふぁぃ、ガルフォイ……いってみる~」

 「えっ、サクラ?!……蛇からですかー」

 「サクラ、勇者」


 蛇へ躊躇ちゅうちょなく突撃できるサクラを称賛しつつ……皆の顔を伺いながら提案してみる。

 「どれも興味があるから……シェアしない?」

 

 「ええ、それが良いかもしれませんね……本当に全てお勧めなので」

 「賛成ですわー」


 「牛、兎、豚、蛇ー……食べる~」

 「シェアですかー……妙案ですねーフフッ」

 「全部、負けない。ふんすッ」

 皆、問題なく了承してくれた。


 サクラとコトハが若干、フードファイトっぽくなっているが……。


 「それなら、主菜4つとも大盛りにしましょうね。私、取ってきますが……手が足りないので……誰か……」

 「ふぁぃ!……私もいく~」

 「ん、負けない」

 メイン料理を取りに行くリネンの手伝いに、元気よく手を挙げながら席を立つサクラとコトハ。


 その後、エレナが副菜を取りに席を立ち、それにヒナタが付いて行ってしまう。


 残った俺は、当然、席番である。皆が帰ってくる場所を死守するため、キリっとした眼つきで周囲を油断なく見回す。


 ではなく、主食のパンとご飯をゲットしに遅れて席を立つ。


 辿り着いた先の楕円形のテーブルには、清潔感ある白色のテーブルクロスが敷いてあり……その上に細かな模様があしらわれたシルバートレイが並べられ……ご飯類が白い湯気を出しながら盛られてる。


 種類は、左から……炊き込みご飯、香りからしてバターライス、スパイスが効いた炒飯、チーズが香るリゾット、チーズとクリームソースのドリア。


 奥には、テーブルのふち沿ってバゲットと丸パンが大きさ毎に、順序正しく綺麗に並べ置かれている。


 ん-、種類が多い。一度では無理だから、素直に往復ですな。


 少し深めの中皿にモリモリっと盛り、せっせと運ぶ。


 「これー美味しいよ~」

 「もう、サクラさん、我慢ですよ……あ、えーっ、コトハさんもー」

 「モグモグ」


 リネンに指摘されながら、パクパクと摘まみながら運ぶサクラ。コトハは既に大物をゲットしたのだろう……頬が膨らんでいる。


 皆も同様に運んでいるので、往復する毎にテーブルの上が豪華になっていく。


 そんな中で、リネンが一番大変そうである。左の子に構っていると右の子が、その逆も然りで……違う意味で大忙し。でも楽しんでいるようにも見える。


 そして漸く、運び終えた。合計、5往復。


 蓋付きの透明なガラスのピッチャーの色彩豊かな色が映えるドリンクを眺めながらリネン、サクラ、コトハ同様に逸る気持ちを抑えながら座り待つ。若干2名ほど、口元にソースが付いてるが……。


 既にテーブルには料理、ドリンク、取り皿などが揃っている。あとは、取り分け用のトング、サーバースプーンで準備完了で、それをエレナとヒナタが取りに行ってくれてる。


 「お待たせですわー」「お待たせですー」

 2人が戻ってきたようだ。


 「わーぃ、頂きま~」「沢山、食べる」

 早速、サクラ、コトハが食らいつく。


 俺もそれに倣い、まずはミディアムレアで切られたタタキ……ブブドドと言う牛の魔物から、取り皿によそう。


 「ハルさんは、モモ肉からいかれるのですね。フフフッ」


 左隣に座っているリネンの何気ない感想のお陰で、モモ肉であることが分かる。何となくそうだろうなーとは思っていたが確証はなかった。と言うことは、奥がランプ肉ですな。


 まず、薄い赤紫色の包菜つつみなを取り、もう一つの取り皿に広げる。次にモモ肉のタタキを2切れ程その上に重ねる。


 ソースを小指でチョンっとして味を確かめる。うーん、うまい。


 肉自体にも下味がしっかり付けて有り、旨そうな匂いとスパイスな香りがしてくる。その上からピリっとする甘辛い濃いめのソースを掛け、柑橘類の汁で酸味を足す。


 最後に、包菜で軽く巻き上げて……完成。


 それを左手でそまま摘まみ上げ、一気に口の中に押し込み、溢れ出す旨味が零れないようにそのまま口元を左手で抑え込む。


 ……ゆっくりと咀嚼する。


 「う、う、う、……うー」


 「「うーぅー……ぅうー」」

 面白がって真似をするサクラとコトハ。


 「うぅ、ましっ!!……めっちゃ、うっま、これ!」


 右手の甲で口元を拭う。


 それにしても、これは、ヤバイ……肉そのものが旨いし、何より甘い。


 次は、肉のきめが細かいランプ肉を同様に包菜で巻いて食べる。


 「うめっ!」

 歯を使わずに喉で切れるほどの柔らかさにも驚いてしまった。


 「ハルさんの口に合って良かったです。フフフッ」

 「ブブドドは、後味が脂っこくないので女性にも人気の牛系の魔物ですわー私も好きですの」


 「ハルーこれも~」

 「フフッ、こっちもどうぞー」

 「うまし」


 サクラ、ヒナタ、コトハからそれぞれ盛られた小皿を順番に受け取る。


 「ハルー……あーん、あ~ん」

 フォークで尻尾から蛇腹じゃばらをパスタのように巻き、先端に突き刺さる蛇の頭部。満面の笑みで「食べて?!美味しいよ」と無言で突き出してくるサクラ。蛇の口からフォークの先っちょが出てて、危なくもある。


 そもそも、一口で入りきらないサイズ。頭からは、……いやいや、無理っしょ。


 「ハルさん、ガルフォイは噛まないで、吸うんですよ。こんな感じで……チューっと。骨だけは食べれないので残して下さいね。フフッ」

 「チュー、チュー……コラーゲンも沢山ですわよー」

  目の前で食べ方の見本を見せてくれるリネンとエレナ。


 なるほど、そうやって食べるのね。……それでは、ゆっくりと口を近づけていき、頭から吸う。


 「チュー、……チュ、チュ、チューーーーっ!……うまっ!最高」


 キノコソースも美味しいのだが、蛇の肉自体がトロットロなのだ。だから、口の中にツぅルルンと旨味と共に流れ込んでくる。たまらん。


 当然、ラビットの白ワイン蒸し、オークのクリームシチューも味わい、堪能していく。


 どれも美味しいけど、ランプ肉のタタキが一番で、優しい味の炊き込みご飯と一緒に口の中へかっこむ。


 女性陣には、ガルフォイが好評のようある。蛇の白骨が凄い勢いで増え続けていき、2つの山が出来ている。


 既に、いつも食べてたであろう量の3倍以上は食べてるけど……満腹には至ってない。ビックリである。


 それに、リネンとエレナが気を利かせて、無くなりかけている料理を追加してくれている。有り難い。


 箸休めに、ピンク色の拳大のじょう……果肉一粒が特大サイズのフルーツを食べてみる。


 「お、美味しいっ!」


 甘いが、甘過ぎず……邪魔にならないので果物本来の旨味を堪能できる感がある。


 「フフフッ。それは、デデの実ですね……一粒でその大きさなので……果実自体はその3倍以上の大きさなのですよ」


 リネンの話を聞きながら、噛り付いたところから溢れ出してくる果汁をゴクゴクと飲んでいく。フルーティーな酸味で後味サッパリ。


 その後もちょいちょいフルーツを摘まみながら、タタキを中心に食べまくった。


 サクラとコトハは、ガルフォイ……蛇を次から次へと食べて、口元と両手がテカテカになっている。


 あーあ、と思い眺めつつ……程良い満足感、腹八分目くらいだろうか。


 しばらくして、全員が食事を終えたので……食器を下げ、テーブルを一旦綺麗にする。


 アイスティーを飲みながら、この後の話を改めて聞き……確認する。


 「えっと、この後は……パーティー名及びリーダー決め、ですね」

 「この用紙に書いて、食堂入口手前で控えている職員に渡して完了ですわ」


 話を聞く限り、まだ人数は確定してないが今回の勇者召喚は、大成功で過去最大になるようで、国としては個別でなくパーティーで管理していきたいと考えているらしい。


 人数が多いのであれば、当然、そうなるだろうなとは思う。


 それに無理強むりじいは、しないそうだ。仲の良い者同士でくっついて下さいね……その単位をパーティーとして扱いますとのことだ。1人で居たい人は、そのままでも問題ない。パーティー上限人数なし、いつでも解散、再結成……OKらしい。但し、その都度、報告はしっかり下さいねと。


 取り敢えず、代表して用紙を俺が受け取り、そのまま横に流していく。


 「それが終われば、本日これ以降は、自由時間になりますね」「食堂は、常に30時間利用可能ですわ。でも、時間帯によって、提供される料理に違いがありますわね」


 ん?1日24時間ではなく、30時間ってこと?後々、確認だな。


 「この後もご一緒したいのですが、近衛の業務がありますので、……残念ながら、私とエレナはお役御免となります」

 「書類仕事がありますの。残念ですわ」


 俺達4人の報告書作成がメインらしい……。「ガンバっ!」と心の中で応援をしておく。


 それぞれ、やるべき事が違うのだから、致し方無い。 


 寂しく思ったが、お互い同じ城内にいることもあり、それに勇者関連の業務にも携わる可能性が高いので……意外とちょくちょく顔を合わせることになるだろうとも言っていた。


 俺達をここまで丁寧に案内してくれたこと含め感謝の意を伝える。


 そして、また会うのだからと別れの挨拶を簡単に済ませ、笑顔で2人は食堂を去って行った。

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