第05話 プラチナ色の魔力紋
「えー、次は、施設案内ですね」
「ええ、皆様の当分の仮住まいとなる宿泊施設からですわ……行きますよー」
「ふぁーいっ」
「どんな部屋か……楽しみですねー」
「最上階……希望」
女子5人の会話。
「……ふぁいっ」
サクラに倣い返事をし……5人にそそくさと付いて行く。何となくそんな気分だっただけで……他意はない。
事前説明では、近衛騎士専用の訓練場の一つとその周辺施設を急遽、勇者専用に充てたらしい……そのため準備が整ってないところは、現在進行形で改修中とのこと。
聞いた話では、想定より召喚数が多いらしい。嬉しい誤算のようだ。
宿泊施設……5階建ての宿舎を3棟ほど使用予定。
1階: ロビー、歓談用スペース、浴場
2~5階: 1人につき1部屋
今は、1階のロビー奥……パーティションでいくつも間切りされたところの一つで、服を作るため採寸中である。バスト、ウエスト、ヒップ、腰丈、……ありとあらゆるところをメジャーで測られている。
時間の経過と共に、下にいき……片眼鏡を掛けた爺さんが「ほーほーこれは、これは……」と言いながら、現在、股間の採寸中だ。
そこをそんなに測る必要があるのかは、素人の俺からは知る由もないため、爺さんを信じて身を委ねるしかない。そのため諦め半分、あと半分は……無我の境地。
若さ故の猛りは……半端ない。だから、理性で抑えることは厳しく危なかったが……どうにか耐えることができた自身を褒めてあげる。爺さんに反応させられる訳にはいかないからなー。セーフ。
採寸の終わりに、爺さんから要望の有無を聞かれたので、ざっくりと伝える。
「下はタイト気味。上は、ゆったりめの……ルーズ感、有りで」
「ほーほー……ほー」
股間を見ながら言う爺さんに不安を覚え、補足を付け足す。
「股間……もっこりピッチリ感は無しで」
爺さん、大丈夫だよなと思いつつも……取り敢えず、信じてその場を後にする。
待ち合わせ場所には、女子5人が揃っている。俺が最後のようだ。
「お、またせーっ!」
「ハル~」
「ハルー遅かったですねー」
「まった、ふんすッ」
クレームは、爺さんに言ってほしい。
ある意味……無事に合流を果たしたので、次は、本題の宿泊部屋である。
エレナの話によると、まだ埋まってない状態なので……自身で部屋を選べるらしい。
それと、過去に部屋を利用したことがあるリネンから、部屋の作りと眺めは、どこも似たり寄ったりだとアドバイスを貰う。
選べること事態が嬉しいようで、女子3人には好評……自然と歩く速度が上がってる気がする。
コトハ的には、最上階の5階が良いらしいが……。
1~5階まで……階段での上り下りを想像してみる……キツいなー。何より面倒だ。
サクラとヒナタも俺同様に回想したかどうかは分からないが、コトハ5階案を流しにかかっている。気持ち涙目になるコトハ。可哀想だが助け舟を出す訳にはいかないので、心を鬼にしてスルー。
俺的には、出入口に近い2階でも良いのが……女子3人の決定を静かに待つ。
サクラは、3階希望……理由なし。
ヒナタは、2階希望……俺と同様の理由だと思われる。
コトハは、5階希望……理由は、何より上が好き。
「いっせーのーせ、
「危ないですねー」
「あまいっ」
サクラ、失敗。
「次は、私ですねー。いっせーのーせ、
「ありゃー」
「むーっ」
ヒナタ、成功。
「いっせーのーせ、
「せーふ~」
「阻止、成功ですねー」
コトハ、失敗。
話し合いで決まらず……。
ジャンケンでも決まらず……。
現在、『いっせーのーせ』ゲームで勝敗を決めようと絶賛バトル中である。
ルールは、立てた親指の数を当てる。当てた人は片腕を下げる。一番早く、両腕を下げた人の勝ちである。
このゲームをする時点で、勝敗は決まってるが……。
「これで決めますねーいっせーのーせ、
「にゃはぁっ!……勝てない~」
「む、むー、負けた」
ヒナタが2回目の成功を決め、勝利。
サクラとコトハの性格と思考を把握しているヒナタからしたら、当然の結果だろう……イカサマのような気もしないでもない。結果に満足なので、敢えて触れないが……。
早速、3階に移動しての部屋決めである。他の棟の空き状況は知らないが、この宿舎の3階は、全て空いているので選び放題である。
部屋を覗きながら進むが……リネンの話通り。部屋の作りはどれも同じで、比べ
広さは10畳ほどで、シンプルなダブルベッドと2人掛けのソファーテーブルがある。壁側は、大中小の棚があり、色々と置けるようになっているが……所持品なしで【簡易ボックス】持ちの俺達には無用の長物なのではと思ってしまう。
「ハルーどれにする~」
サクラに聞かれ、改めて見るが……どれもどこも同じである。気持ち角部屋が少し広めだろうか。返答に言い淀んでいると、
「しょうがないな~」
「私達が決めましょうか……そうしますねー」
「ハル、どんまい」
「ならー角部屋~」
「ええ、それが良いでしょうねー……私達の部屋は要相談ですねー」
「ふんすッ」
俺の部屋は、さっき覗いたばかりの角部屋で決定らしい。日当たりは良さそうだし、問題ない。
その後、リネンとエレナを含め、女子5人で会合こと談合らしき話し合いが始まったので、俺は、
取り敢えず、俺の部屋になるだろう中に入り、ソファーで寛いで待つことにした。
しばらくした後、満足顔のサクラ、ヒナタ、コトハが呼びに来た。表情からして話し合いで良い結果を得ることが出来たのだろう。内容は分からないが……。
リネンとエレナは、俺の顔を見ると「任せてねっ!」的なことを言ってきたが……何も知らされていないので、サッパリである。
なんだかなーと思いながらも部屋は決まったので、次の施設への移動となる。
そこまで歩くことなく座学施設に到着……そして、現在、大改修らしく、慌ただしく作業中の職人らしきオッちゃんたちの荒々しい声が飛び交っている。
そんな中、ある程度、作業が進み形になりかけているところに案内された。当然、完成している訳ではないので、ここにも作業中のオッちゃん達がいる。
「わぁー広い~」
「これは……講堂ですかねー」
「階段教室」
俺達が通いなれた学校の教室……1クラス30~40人で勉強しましょう……的ではなく、大学にある講堂のイメージで間違いないだろう。
演台を取り囲むように半円状に広がり、平場には数列の長机があり、徐々に階段状になっている。それと
「椅子が?」
「まだ、搬入されていないだけですわ……流石に椅子がなくては……大変なことになってしまいますわ、フフッ」
俺の問いに周りを見渡しながら答えるエレナ。
「空気イス~」
「ええ、それは、サクラ一人で……頑張ってくださいねー」
「苦行、無理」
勝手に空気椅子をしながらプルプルしているサクラ。2人にツンツンされながらも耐え抜く姿に感銘は受けず……それはないなーと同様に思いながら、講堂をでる。次は、実技施設である。
――きゅーるーぐーきゅるるー
誰かの腹の
「フフフッ、ハルさん……実技施設の事務手続き……使用許可登録したら食堂なので、もう少しの辛抱ですよ」
「ええ、あと少しですわー……ハルさん……可愛い音で、フフフッですわー」
微笑みながら、優しく励ましの言葉を添えるリネンとエレナ。
「ハルー、顔が赤いよ~」
「音は……サクラも同じですよー……それに、私も鳴っていますねー、フフッ」
「激ヘリで、ペコペコ」
「ほにゃっ!えー聞こえてたのー隠してたのに~」
「隣ですからー……今も聞こえてますよーフフッ」
「ぐーぐーいってる……私も」
バレバレだったようだ。それに、サクラ、ヒナタ、コトハも同様に鳴っていたらしい。
激しく運動した訳ではないのだが……。考えられるのは、新たな身体になってから、一度も食べ物を摂取してないことだろう。ビックリするくらいの空腹感である。
一度、意識すると食べたいものをあれやこれやと思い浮かべてしまう。
和、洋、中……どれが良いかなー。
魚……ではないな。肉だなー……
辛め、甘め……どうしようかなー……甘辛かなー。
妄想グルメを膨らませながら、皆のあとを付いて歩いてると着いたようだ。あっという間だ。
実技施設……騎士達の訓練場の一つで施設全体が5mほどの鉄柵で囲まれている。室内と屋外の両方を兼ね備えた最新の魔導施設でもあるらしい。
門番の横を軽く会釈しながら、同様に鉄柵で出来た両扉の門を通る。
門内手前のロータリー横に事務手続き会場が特設されているようで、空いている長テーブルへエレナを先頭にスタスタ歩いて行く。
どんだけ広いんだろうか。横目に、等間隔の並木の合い間からグランドが広がっているのが垣間見れる。更に、奥には、ドームらしき巨大施設の屋根も見える。
サクラ、ヒナタ、コトハも俺同様に……感嘆の声が漏れている。
俺達4人に反応して、リネンが、
「手前のグランドが屋外訓練場で……地面を掘り下げて作られてます。ここからでは、見えませんが左側には、的当てもありますよ。
更に奥にあるのが……室内訓練場もといトレーニング施設ですね……遊技もありますが……」
ほーほーなるほど。室内はトレーニングで……ん、遊戯?マジですかー、記憶にメモっておく。
「事務手続き完了後は、自由に使用可能ですよ。それに色々と身体を動かすのに最適な空間でもあるので……食後に是非、活用して下さいね。フフフッ」
間違いなく、ウズウズ感が伝わっているようだ。だって、スキルを使ってみたいよね。夢想していた魔法が実際に使えるんだよー。
気持ちが見抜かれているようで、気恥ずかしい。
「次は、ハルさんですわー」
エレナに促されるまま、手を差し出す。目の前のテーブルの上にある手形のボード板に手を合わせるように……そっと置く。
……ん、何か一瞬、抜けていく感覚があったような。
「はい、これで事務手続きと……鑑定玉で登録しておいた魔力紋の照合確認……カード作成および発行、全部、完了ですわー……えっと……はい、ハルさん……これを」
渡されたカードには、俺の名前が明記されている。それに模様もある。なんだろう。親指と人差し指の腹で挟んで、傾きを変えながら不思議に思っていると、
「ハルさんのは……プラチナ色の魔力紋ですかー……髪の色と同じで綺麗ですねーフフフッ」
関心しながら……どこか嬉しそうに言うリネン。
「ハルー見せて~見せて~」
「ああ、なるほど。シルバーではなく……プラチナですかーフフッ」
「キラキラ、綺麗」
覗き込んでくるサクラ。俺の髪色にどこか納得するヒナタ。髪色と魔力紋の色合を見比べるコトハ。
立ち位置的に俺に光が多く差し込んでいるだけで、皆、同じキラキラだからね。
魔力紋……指紋同様に各々に違いが有り、諸々の認証に大活躍。これで、施設内の設備を手を
その魔力紋が描かれているカードは身分証なので、紛失には気を付けてほしいとのことであった。因みに、宿泊施設のルームキーにもなっているようだ。
なので、無くす前に仕舞うことにする。と言うことで突然の使いどころだが……ワクワク感を抑えて【簡易ボックス】を、
……お、使えた。
手に持っていたカードが消えてしまった。それに頭の中でイメージすると、リストが表示される。まだ、1行しかないが、
・魔力紋認証カード(ハル): 1枚
取り出す感覚で意識すると……先ほどまでカードを掴んでいた指にカードが再登場。
おお、これは、凄い。
凄いし、楽しいので、何度でも繰り返す。
これを、この気持ちを自慢したくて……サクラ、ヒナタ、コトハの前でもやって見せる。
「ほぇー手品だ~」
「これは……ハル、【簡易ボックス】ですねー……えっと、あ、できまたよー」
「私も……ふんすッ」
お互いに見せ合いっこしながらも……お腹はペコペコである。
施設同士は近距離……徒歩圏内なので利便性の高いことが分かる。腹の減り具合からも今の俺達にとって本当に有り難い。
「それでは、食堂に行きましょうか」
「私も恥ずかしながら……ペコペコですわー」
「はぁーぃ!お腹、すいたよ~」
「初の……異世界料理ー……楽しみですねーフフッ」
「なんでも食べる。ふんすッ」
それに使用する施設をコンパクトに纏めた方が勇者である俺達を管理し易いんだろうなーとも思い浮かべつつ、遅れないように付いて行く。
そして、歩く速度と食欲は……少しマシマシだろうか。5人一丸となって食堂に向かうのであった。
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