さくらばな

 春、寒さを乗り越えた生命が動き出す季節。それを祝福するかのように、さくらばなたちは美しく咲き誇る。そして、美しく散る。


 あと何度この景色を見れるだろうか。ふと考えるのは親戚のお葬式に出たからかもしれない。あまり関わりはなかったけれど、いい人だった。あの人もこのようなさくらを見ていたのだろうか。どのようなことを感じていただろうか。


 人の感性は歳を重ねるごとに進化するものだと思う。子どもの頃は無関心だった自然の美しさにいつしか感動で涙があふれるようになった。私よりもずっと長く生きたあの人は、どうだろう。私のように泣いただろうか、それとも、ただ微笑むだけだったのだろうか。


 友人に声をかけられてふと我に帰る。涙の跡を見て、心配されてしまった。大丈夫だと微笑んで見せると彼も安心したようだ。さて、ふたりで帰ろう。あと何度、こんなことができるかわからないけれど、だからこんな日常を噛み締めよう。


 ふたりで歩き始めたとき、急に突風が吹いた。さくらばなが、嵐のように私達を包んだ。ふたりで思わず立ち止まった。こんな美しい景色を見れたのは、初めてだった。初めてだけど、最後かもしれないと思った。


 さくらばなたちが、わたしたちのかけがえのない日常を、祝福してくれたんだ、きっと。いや、もしかすると、あの人の力かもしれない。さくらにも、あの人にも、友人にも、感謝の祈りを捧げて、私は、私達また、歩き始めた。

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だから僕はメガネをかける ゼータフロント @Maeda24kGN

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