だから僕はメガネをかける

ゼータフロント

だから僕はメガネをかける

 僕は失敗してばかりだ。バイトでも、学校でも、どこでも。バイト先では僕と同じくらいに始めた人との能力の差が広がりその上皆に迷惑を掛けてしまう。学校ではいくつかの単位を落としてしまった。他にもサークルにせよ、趣味にせよ、なにもかも思うように動けないし、何ひとつ成功しない。


 自信を持てばうまくいく、なんて言われるが、無いものを持つことはできない。


 TVの中では輝かしい功績を残した人たちが努力は報われると言い続けている。たぶんそれは本当だろう。僕がこうなった原因は自信を持てないとか言って何も動かない自分にある。僕は報われるだけの努力をしていない。


 でも、疲れてしまったんだ。子どもの頃、周りのみんなができることができなくてできるようになろうと足掻いてみてもそうしてる間に周りはもっと進んでいた。それでもう、諦めてしまったんだ。このときか、自信をどこかに落としたのは。


 TVでスーパーヒーローの映画が始まった。冴えない青年が、ひょんなことからもの凄いパワーを手にし、正義の証であるコスチュームを身に纏い、悪党を倒していく。


 僕にもそんな力があれば、と考える。でも現実にはそんな力を得るきっかけはどこにも転がっていないしそんな力で倒すべき敵もいないし巨悪はそんな方法では倒せない。僕にはどうしようもない。


 スーパーヒーローは言った。大事なのは力じゃない、心だ、と。


 そんな高潔な心は僕にはもうない。それはもう昔に捨ててきた。


 スーパーヒーローは続ける。そしてもう一つ、重要なものはカッコいいコスチュームだ。何かカッコいいコスチュームを用意して、それを着ている間はヒーローになれる、そう思い込むんだ。戦っているとき、もうダメだと思うこともあるけれど、コスチュームを着ていると、自分がヒーローであることを忘れずに最後まで踏ん張れるんだ。別に悪党と戦うだけが戦いじゃない。日常や仕事の中でいろんな決断をするとか、そういったものも、いや、それこそが立派な戦いだ。みんなも、もし悩んだり、辛かったりするときは、こういう方法を試してみてくれ。


 妙に心に響いた。僕も何かコスチュームを決めてみようと思った。どういうものがいいだろうか。衣服は洗濯の関係で連続で着続けるのは無理だし腕時計は普段使いしすぎている。帽子は室内では被れない。何かないだろうかと部屋の中を探してみる。


 ふと、その辺に放置されていた、度なしでブルーライトをカットする機能があるメガネをみつけた。ブルーライトの効果とか、そういうものはどうでもいい。これは、コスチュームとしてとても良いように思えた。かけていれば、嫌でも目に入る。これがヒーローに変身できるアイテムだ、そういうふうに決めよう。


 そして僕は、バイト先や学校、時には家でもメガネをかけるようにした。もちろん、それで何もかもうまくいくわけではなかった。でも、心が変わった。根拠がなくても、揺るがない、自信を持てるようになった。少しの失敗でも、へこたれないようになった。


 そうか、どこかに落とした自信は、些細なきっかけでまた拾えるんだ。僕の場合は、それがスーパーヒーローとメガネだったんだ。


 今日もまた、学校やバイトに行かなければならない。また多くの失敗をしてしまうかもしれない。自信を失ってしまうかもしれない。でもそうならないためにメガネがある。だから僕はメガネをかける。

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