十六ノ環・勇者と冥王のママは今日も魔王様と
冥界が消滅し、三界が滅亡の危機から救われて二週間が経過しました。
あれからいろいろありました。
まず、魔界に戻った私たちを待っていたのは魔界の人々の温かい出迎えです。
三界の危機を救った当代魔王ハウストは更に名声を高めたのです。私の存在も少しずつ受け入れられました。
でも歓迎の雰囲気はほぼ城外でのこと。
私とハウストの結婚に不満を持つ勢力や北と南の大公爵は、私の左手薬指に嵌められた環の指輪を見て卒倒しそうになっていました。ザマァ見ろです。せっかくなので左手薬指の指輪を見せつけてやりました。メルディナや彼らとは小競り合いが続くでしょうが一歩も引いてあげる気はありません。受けて立ってやります。
「まったく、うるさくて困りますよね。あなたもそう思いませんか?」
話しかけましたが返事はありません。
当然です。相手は青い卵。そう、冥王の卵なのですから。
でも聞いているのは知っています。イスラの時もそうでした。
卵を育てるのも二度目となると私もいろいろ慣れています。こうして卵に話しかけることも大切なこと。
だって、必ず生まれてくる筈ですから。
「ブレイラ様、失礼します。お時間になりました」
そう言ってコレットが部屋に入ってきました。
コレットは部屋の中にいた私を見ると、感嘆のため息をつく。
「よくお似合いです。魔王様やイスラ様もきっとお喜びになります」
「ありがとうございます。ゼロスも喜んでくれているでしょうか」
「それはもう」
「嬉しいですね」
そう言って私はケースに入れている卵を手に取りました。
両手で包むように持った私にコレットは目を細めます。
「お連れするのですか?」
「もちろんです。この子も参列者です」
そう、参列者。
今日は私とハウストの婚礼の儀が行われる日でした。
冥界の危機が去ったばかりですが、環の指輪が私の指に嵌められたのです。
正式な御披露目式典は後日落ち着いてからするにしても、婚礼の儀だけは急ぎ行なわなくてはなりません。その為、急遽今日に決まったのです。
私は純白の召し物を身に纏い、床に引きずるほど長いヴェールを頭に被せられる。
「では、参りましょう」
「はい」
コレットに連れられ、玉座の間に向かって歩く。
長い回廊を歩いた先にいたのはハウストとイスラです。
正装を着たハウストは凛々しくて素敵です。イスラもとても似合っていて、まるで貴族の令息のようですよ。
「お待たせしました」
「ブレイラ、とても綺麗だ」
ハウストはそう言って私の頬に口付けてくれる。
イスラも私の手を握り、「きれいだぞ」と褒めてくれる。
なんとなく似てきましたよね、この二人。
「行くぞ」
「はい」
ハウストに腕を差し出され、そっと手を置きました。
イスラは私の反対側の手を繋ごうとしましたが、青い卵を持っていることに気付いて我慢してくれる。
「イスラ、いいですよ?」
ハウストに卵を預けて手を繋ごうとしましたがイスラは首を横に振ります。
「だいじょうぶ。あにうえだから」
「イスラ、もうそんな自覚をっ」
少し感動してしまいました。
感心する私にイスラは誇らしげな顔になりましたが、その小さな体がひょいっと持ち上げられる。ハウストです。ハウストがもう片方の腕にイスラを抱き上げてくれました。
イスラは驚いたように目を丸めるも、次には照れ臭そうに顔を赤くします。
照れている姿が可愛いですね。
「良かったですね、イスラ」
私が二人に笑いかけると、ハウストは笑んで、イスラもはにかむ。
こうして三人と一つの卵で玉座の間に向かいました。
「それにしても、よく許してくれましたね」
歩きながらハウストに話しかけました。
少し心配していたことがあったのです。
「なにがだ?」
「冥王の卵ですよ。イスラの時とは違いますから、育てることを反対されると思っていました」
「ああ、それか。煩いのもいることは否定しないが問題ないだろう。すでにここには勇者もいる。それに俺のところに連れてこいと言ったからな」
「ハウスト、あなたはほんとうにっ……」
嬉しくて笑みが零れます。
かつてゼロスがゼロという名を名乗って私に近づいた時のことですね。あの時もハウストは呆れながらも認めてくれました。
「ありがとうございます。私は幸せですね。きっと、世界で一番幸せです」
「俺には負けるはずだ」
「なんですか、それ」
こうして軽口を交わしながら歩き、とうとう玉座の間に着きました。
荘厳な扉がゆっくりと開かれ、厳粛な雰囲気に満ちた婚礼の儀が始まる。
この婚礼の儀をもって私はハウストの伴侶となり、魔界の王妃になったのです。
数日後。何の変哲もない日常の中で卵が割れて冥王が誕生しました。
本当に何の変哲もない日、いつもの朝食の時間です。
いつも持ち歩いている冥王の卵をテーブルに置き、美味しい卵料理に舌鼓を打っていました。
イスラと「この卵料理、おいしいですね」「たまご、うまい」と言葉を交わし、ハウストが「他にも新しい卵料理を開発中だそうだぞ」と厨房情報を教えてくれた時のこと。
そう、卵料理は美味しいと会話に花を咲かせていた時のことです。
突如、
「びえええええええええん!!!!」
城内に響いた赤ん坊の元気な産声。
そう、卵がパカッと綺麗に割れたのです。
こうして魔王と私は、勇者と冥王を含めて四人家族になったのでした。
完結
小説を読んでくれてありがとうございました!!
とても大好きで書いているシリーズなので、それを読んでいただけてほんとうに嬉しいです。
感想などいただけると本当に励みになります!
今回の環の婚礼でハウストとブレイラが節目を迎えました。
ブレイラは魔界の王妃となりましたが、まだ魔族にちゃんと受け入れられたわけではないので王妃(仮)のような状態でしょうか。
まだいろいろありますが、ブレイラは立派な王妃になりますのでこれからもお付き合いください。途中どんな展開でもなにがあっても必ずハピエンです。
そしてイスラに弟ができました。赤ちゃんとして生まれ直した冥王のゼロスです。
イスラ「いくぞゼロス!」
ゼロス「あいっ!(ハイハイでついてく)」
みたいな兄弟ですね。楽しんでいただけると嬉しいです。
まだ続きますがどうぞお付き合いください。
とりあえず区切りがついたので今回の婚礼で完結にします。
次作は少し休んで準備ができしだい、新しい連載というかたちで公開していきますのでよろしくお願いします。
次作は『勇者と冥王のママは今日から魔王様と』です。
連載が開始したらまた近況ノートなどでお知らせしますね。
勇者のママは今日も魔王様と 蛮野晩 @bannoban
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