once in a lifetime chance

尾岡れき@猫部

once in a lifetime chance


 出会いがあれば別れがある。それは当然のことだ。

 頭では分かっている。


 一期一会。

 千載一遇、後生一生――。


 英語で当てはまるとしたら、”once in a lifetime chance”に当てはめることができるだろうか。またとない機会、二度とない。一生に一度しかない。今日の卒業式で先生が言っていた言葉が、私に突き刺さる。


 無為に過ごしてきた。

 ずっとこの時間が続く、と。


 それが当たり前だと思っていた。

 あなたが、私の隣にいることが。


 とくん。とくん。


 心臓の音が鳴る。静かに。でも早く。さらに早く。もっと早く。私の鼓膜を震わす。


 出してしまった言葉なら、もう引っ込めることができない。

 でも、後悔なんかしていない。


 神様は気まぐれ。仲が良かった二人が疎遠になることは、こんなにも簡単だった。

 小学校はずっと同じクラス。

 あんなに一緒だったのに。


 でも中学校からは、違うクラス。どんなに願っても、想っても結局三年間、一緒になることはなかった。


 同じ小学校のよしみ、すれ違えばバカ話をする程度。委員会活動で一緒になっても、話こめるほどの時間はない。あの時のように、バッドを振って、ボールを投げて駆け回るほど無邪気でもいられない。


 そして、あの時代には戻れない。

 どうせ、戻れないのなら。


 勇気を出して、踏み出す。


 今日、卒業式を迎えた。

 あなたと同じ高校に行く。


 がんばった。

 本当に頑張ったと思う。


 でも、だからと言って以前と同じように、じゃれ合う可能性なんかない。

 知ってしまったのだ。


 私と、あなたは小学校の時に出会って。でも無邪気に走り回る時代はもうサヨナラをしてしまったから。


 ぐっと拳を握る。

 どんな答えが出ても、耐えると決めたのに。


 私の目から、ポロポロポロポロと感情が流れ落ちる。

 私はこの感情に出会った。そして今日、甘ったれた過去の私に別れを告げる。


「――遅かったのかよ」


 彼は絞り出すように、悔しそうにそう言った。






■■■





「俺から、言いたかったのに……」


 涙で視界が滲んでも、彼の悔しさと嬉しさが入り交じる表情は見てとれた。私は泣きながら、多分、満面の笑顔を浮かべていると思う。


 バカみたい、と思った。


 遠慮して。後ろ向きで。誰かに笑われたらって、ずっと他人からの視線ばかり気にしていた。

 でも、出会いと別れ。それは一期一会。


 ”once in a lifetime chance”


 二度とない。二度目はない。今しかない私たちの時間。私は歯痒くて、思い通りにいかないこの感情に翻弄されていた。だって痛感したんだ。私の気持ちは私だけのモノだから。


「言い訳はもうしたくないの。ずっと、そう思っていたから。小学校の時からずっと、そう思って――」

「待って。そこから先は俺に言わせて」


 あなたは、頬を紅潮させながら、でも真っ直ぐに私を見る。

 友達という時間を終わらせても。


 幼馴染と一般的には言われる、私たちの関係を終わらせても。

 かけがえのない、あなたとの時間を欲している。


 だって。

 溢れ出るこの感情に出会ってしまったから。


 これまでの時間に別れを告げることを躊躇わない。

 放っておいても、言い訳をしても。きっとこのキモチから逃げられない。


 だったら――。


 二度とない。二度目はない。一生に一度しかない。今しかない私たちの時間。傷ついても、派手に転んでも。


 手をのばしたい。

 あなたに。


 私だけを見て、笑って欲しい。

 あなたの言葉が欲しい。


 かすれた声が私の鼓膜を震わせる。この感情に出会って。そして、幼い頃の感情に、もう戻れない。でもそれで良い。あなたの声が私を囚えて離さない。離してくれない。戻れない。あの頃に戻れない。戻りたくない。絶対に離さない――そう、自分の感情を抱きしめて。

 




「――好きだよ。ずっと好きだった」

「好き。君がそう思ってくれた、多分ずっと前から」


 この気持ち。とっくに前から、溢れてる。


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