第28話 英雄

 城に行くと、ヘライオスが待っていた。

 ヘライオスはとびっきりの笑顔で俺を出迎えてくれた。

 導かれた先の会議室にはビバルとジョイスもいた。


 「ヘライオス。話しとはなんだ?」

 「まあまあ、座ってください。話はいっぱいあるのですが、一つずつ話しましょう」

 「なんだ、ご機嫌だな。何か良いことあったか?」

 「ええ、まずはこの百万バルの請求書について説明してもらうましょうか」


 ヘライオスはあくまで笑顔だったが、頭には血管が浮き出して手はプルプルと震えていた。

 完全に怒ってるな。


 「それはな、魔封の壺を買ったんだ。ユグルの平和を守る為には必要な出費だった」

 「魔封の壺……?そ、そんな怪しい物に百万バルも……?」


 ヘライオスはさらにプルプルと震えて顔を真っ赤にした。


 「そうだ。魔封もできて幸運も呼べる素晴らしい壺だ」

 「……いいでしょう。そのゴミは後程鑑定に回すとして、次にそこで寝ている酔っぱらいですが、あいつはどこから連れてきたんです?」


 呑んだくれのおじさんは椅子を並べた上に横になって眠っていた。

 どうして会議室で眠っているのかは分からないがすっかり城の生活に馴染んだようだ。まるで城の一部のように自然体だ。


 「説明しただろ。家を交換したんだ。そのおじさんが誰かは知らない。ただの酔っぱらいだ」

 「……でしょうな。この件についてはジョイスとビバルから説明してもらいましょう」


 ジョイスはテーブルの上に剣を置いた。


 「グラルド殿が先日置いていった鎧と剣。これには聖ラグナの刻印が入っていた」

 「聖ラグナだと!?」


 俺はテーブルを叩いて勢いよく立ち上がってみせた。聖ラグナが何かは知らない。

 立ち上がった勢いで然り気無く帰れないかと思っただけだ。


 「いや、ご存知ないでしょう。何ですかその反応は。座ってください」


 すかさずヘライオスが突っ込んできた。


 「聖ラグナ教会というのは、この大陸で絶大な力を持っている宗教だ。その聖ラグナの刻印が入った剣と鎧は、かの英雄オッドが闇の魔女シカバを倒しに行った時に聖ラグナ教会から授かったものなのだ。神に祝福された、謂わば聖剣だ」

 「英雄オッドの話は知ってる。俺も大好きな話だ。つまりなんなんだ?」

 「そこの酔っぱらいが英雄オッドかもしれないということだ」


 ジョイスはおじさんに目をやった。


 「この呑んだくれおじさんが?それは無いだろう」

 「いや、俺は英雄オッドの愛人だったって婆さんに会った事がある。伝え聞いた姿はまさにあの酔っぱらいだ。オッドの伝説からもう百年近く経つが、何でも魔女の呪いで年を取らないらしい」


 ビバルまでそんな事を言う。

 年を取らない呪いなんて、いくら魔法の世界でもそれは無いだろう。オッドが生きているのなら、もう百歳を超えているという話になる。

 それ以前に闇の魔女シカバが実在するという事にもなってしまう。世界を滅ぼそうとする魔女とかヤバいやつだろ。


 「闇の魔女シカバか。おとぎ話だろ。子供の頃に聞いたから知っている」


 俺がそう言った瞬間、呑んだくれおじさんが起き上がった。


 「シカバ!?シカバがおるんか?」

 「落ち着け。シカバはいない」

 「ああん?誰だあ、お前?なんでえ」

 「俺はグラルドだ。よろしく」

 「おお?おお。お前は俺と知り合いか?俺はお前みたいな若造知らねえぞ」

 「俺だって知らない。おじさんはオッドなのか?」

 「おお、おらあオッドだ」


 話が進まないことを懸念したのか、ヘライオスが話に加わってきた。


 「オッドさん、あなたはかの英雄オッドですか?」

 「ああ、英雄オッド……そんな風に呼ばれてた時代もあったなあ……それが今じゃただの呑んだくれよ。どうしてか分かるかあ?若造にはわからんだろうなあ……」

 「いったい何があったんです?」

 「そうさなあ、英雄色を好むって言うだろ?おじさんはねえ、シカバに×××を取られちまったからもう色を好めないんだよ。おじさんにはもう英雄になる資格がないんだよ」

 「何を言ってるんだ、お前には聖剣があるじゃないか。ナニはなくても剣は握れるだろ。お前が英雄なら立ちあがれ」


 子供の頃によく聞いた英雄のこんな姿は見たくない。

 俺が聖剣を差し出すとオッドは剣を払いのけた。

 剣は床を転がりガチャリと虚しい音を鳴らした。


 「×××と剣は一心同体なの!×××が無いと剣も握れないの!シカバ、俺の×××返せ!ちょいっとかわいいからって調子のりやがってこんちくしょう」


 シエラもいるというのにとんでもない事を連呼するやつだ。

 公共の場だという意識がないのか。


 「酒飲ませたらシャキッとするんじゃないか?」

 「いや、しばらく酒を与えないでおきましょう……とりあえず今日はここまでということで……」


 へライオスが解散を言い渡しようやく解放された。

 まさか英雄オッドがこんな近くにいたとは驚きだ。

 今度お手合わせ願おう。

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狂王グラルドの異世界恋活 ~転生したら最強だったから世界征服する。あと彼女が欲しい~ 日出而作 @poponponpon

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