第27話 正しいお金の使い方
みんなとご飯を食べてから、城へ向かうことにした。
まずはアイシャが家に住むことになったのでアイシャとモルちゃん達はお留守番だ。
という訳でシエラと一緒に城に向かうことにした。
言うまでもないが、女性と並んで歩くのは人生で初めての経験だ。
これがデートイベントと言っても過言ではないだろう。
シエラは楽しそうに街並みを眺めていた。
「ずいぶん楽しそうだな」
「うん。私田舎育ちだから、こんな賑やかな街は初めて」
「シエラはどこで生れたんだ?」
「ハースタンと北のノラーン王国の間にある小さな村よ」
「そうか」
会話が弾まない。これはいったいどういうことだ。
いや、そもそも会話の仕方なんて知らなかった。特に雑談なんてものはな。
ここは英国流会話術で乗り越えるしかない。
「いやあ、今日はいい天気だな」
「そう?曇ってるけど。グラルドは曇りが好きなの?」
「ああ、曇り空最高だ」
「変なの。ふふ」
何を言ってるのだ俺は。曇り空が最高?晴れの方がいいに決まっている。
「みんな住む場所が決まったんだって。へライオスさん達とエリザは城に住んで、ビバルさんと傭兵の皆さんは兵舎に住むみたい」
シエラから話題を振ってきた。流石シエラだ。
「そうか。家の問題が解決したようでなによりだ」
「グラルドのおかげね。でも、無茶はしないでね」
「そうだな。気をつけよう」
「そこの兄さん!珍しい奴隷を連れてるな!」
屋台のおじさんが突然声をかけてきた。
「奴隷?どこにいる?」
「その色白な姉ちゃんだよ!イエスタ族ってやつだろ?高かっただろ」
「ユグルに奴隷はいない。知らないのか」
「え?けどその子どう見ても奴隷だろ。そんな成りしてるしな」
「お前は見た目でしか人を判断できないのか?」
「いや、そんな事は言ってねえけどよ……なんだよ。ちょっと声かけただけだろ」
「お前は挨拶がわりに人を奴隷呼ばわりするのか?正気か?」
「あんだよ!絡まないでくれ!誰かあ!誰か助けてえ!」
騒ぎを聞きつけて周りに人が集まってきた。
野次馬達がヒソヒソと話し始める。
「あれ、新しい王様じゃないの……?」
「いやねえ、屋台のおじさんに絡んでるわよ」
気のせいかもしれないが、まるで俺が悪いかのような囁き声が聞こえてくる。気のせいだろうけど。
「ちょっと、グラルド。絡まないで。行きましょう」
シエラが腕を引っ張ってきた。
侮辱されたというのにこんなおじさんまで許せというのか。
シエラの心は太平洋か。
「おい、おじさん。仕立屋の場所を教えろ。それで勘弁してやる」
「仕立屋ならここを真っすぐ行けばあるから、早くどっか行ってくれ!」
イラっとするおじさんだ。この世界の人は二言目には奴隷だなんだと、まったく倫理観を疑ってしまう。
俺はシエラと一緒に仕立屋に向かった。
「いらっしゃいま……せ」
仕立屋のおばさんはぎょっとした顔で出迎えた。
「グラルド様……ですよね?このような庶民のお店に何用でしょうか?」
「この子に合う服を見立ててくれ。出来合いのものでいい」
「えっ?ちょっと、そんなのいいよ。気を使わないでグラルド」
「気をつかってないから気にするな」
「あらあら、綺麗なお嬢さんですこと。そうね、たしかにそんな服じゃ折角の美人が台無しだわ。わたしに任せてください」
「え?え?ちょっと」
シエラはおばさんに引っ張られて奥へと連れ去られた。
「これを着てみてちょうだいな」
「は、はい」
おばさんは服を抱えて更衣室にいるシエラに手渡した。
シエラが着替えている間、おばさんはニヤニヤとしながら小声で話しかけてきた。
「彼女ですか?旦那も隅に置けませんね」
「そう見えるか?」
「それはもう。お似合いですよ」
「そうかそうか」
なかなか商売上手なおばさんだ。
思わず口車に乗ってしまいそうだ。
シエラがカーテンを開けて出てきた。
「ど、どうかな?」
「あら、お似合いですわ!ねえグラルド様!」
「そうだな」
とは言ったもののファッションのことは良くわからない。
かわいいかかわいくないかで言えばかわいい。
つまりバッチリだ。
シエラは少し照れ臭そうに微笑んだ。
「これを貰おう。それじゃあ」
「あの!?お金は?」
「城にへライオスという男がいるから彼に請求してくれ」
「はあ……」
何か言いたげなおばさんに見送られて店を出た。
シエラは新しい服に慣れないようで、何やらむず痒そうにしていた。
「お金無いのにこんな服買っちゃって大丈夫……?高いんじゃない?」
「お金なら城にあるだろ。多分な。いざとなったら城を売ろう」
「そ、そう……。それはみんなが困るからやめたほうがいいと思うよ。けど、ありがとう。大事に着るね」
服が新しくなったシエラはとても華やかに見える。
町娘達に負けない立派なシティガールだ。
心なしか表情まで明るくなったような気がする。
俺は今日、生まれて初めて正しいお金の使い方をした。
確信を持ってそう言おう。
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