第26話 同棲=結婚
「グラルド開けろ!」
──ドンドンッ
朝っぱらから騒がしい。いったいなんだ。
ドアを開けるとモルちゃんがいた。
「遊びに来てやった。感謝しろ!」
「来なくていいぞ。それじゃあ」
ドアを閉めようとしたが、モルちゃんはドアに足を挟んで対抗してきた。
「中々いい家だな。うんうん」
「勝手に入るな。何しに来たんだ」
「ご飯だ。ご飯をくれ」
こいつもご飯をたかりに来たのか。
飯くらい自分でどうにかしようという考えはないのか。食べ物なんてどこにでもあるのにな。玄関に生えているキノコとか、河原に生えてる草とか。
「はあああああ!はわわあああああ!」
モルちゃんが悲鳴をあげている。
悲鳴をあげるモルちゃんの目線の先にはリモが倒れていた。
「早速を女を連れ込むとは不埒なやつだ!恥を知れ!」
「勘違いするな。お前の同類だ」
「同類?こんな貧相なやつと一緒にするな」
「飯をたかりに来たんだ。仲間だろ」
「わたしのご飯をこいつにやったのか?私のご飯はどうなる」
「キノコならあるぞ。食うか?」
「食えるのかそれ?」
「俺は食べた。旨いぞ」
モルちゃんがキノコに手を伸ばした時、ドアがノックされた。
「グラルド、いるの?入るわよ」
アイシャとシエラがやってきた。
「あら、モルちゃん。ここにいたの?」
「エリザとはぐれてさ迷ってたらグラルドの家を見つけた。今ご飯をたかってたところだ」
「そんなキノコ食べたらお腹壊すわよ。今ご飯用意してあげるから待ちなさい」
アイシャは両手に食材を抱えていた。
どういつもこいつも何故人の家に当たり前のように入ってくるのだろう。
「グラルド、その人は……?」
シエラが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
倒れているリモを指さしている。
「空腹でこの世に未練を残して死んだ霊だ。そのうち成仏するから気にするな」
「生きてる人見えるけど……この子もお腹空いてるの?」
リモがピクリと動いた。
「ご飯の臭いがする」
そう言ってリモはむくりと起き上がった。
「今からご飯を作るけどあなたも食べる?」
「食べる!」
「わたしのご飯を奪うつもりか?いい度胸だな!」
「なんだお前は。わたしは三日もご飯を食べていないうえに毒入りシチューを食わされたんだぞ。わたしにはマトモなご飯を食べる権利がある」
「そんなこと知るか!わたしのご飯だ!」
リモとモルちゃんは喧嘩を始めた。
「静かにしなさい二人とも!大人しくしないとご飯あげないわよ」
アイシャが怒鳴ると二人は静かに食卓についた。
アイシャはそのまま料理を始めた。
「二人して何しに来たんだ?」
「へライオスさんがグラルドを呼んで来てって。ついでにどうせロクな物食べていないだろうから何か食べ物をって」
へライオスは気がきくやつだな。流石へライオス。流石だ。
「そうか。朝食を食べたら城に行くとしよう」
「それから、私とアイシャが交代でこの家に住むことにしたからよろしくね」
シエラはにこっと笑って言った。
意味が分からない。年頃の男女が同棲する。それは最早結婚みたいなものではないか。あまりにも過程が省略されすぎてはいないか。未だ手を繋いでもいないのに。
「グラルド一人じゃ心配だからそうしてくれってへライオスさんが。迷惑じゃない?」
へライオス。気が利くのはわかったが、これはあまりにも気を利かせすぎではないか。
あとは若い人同士でとかそういうあれなのか。これだからおじさんは……。
「……迷惑ではないが、俺の部屋には入るなよ」
「わたしもここに住む。魔法使いだからこういうジメジメした家の方が性に合う」
モルちゃんが意味の分からないことを言い出した。
「わたしもここに住む。グラルドのせいで家がなくなった」
リモも意味の分からないことを言い出した。
人との距離感がおかしい。いや、世間ではこれが普通なのか。世の中のカップルは簡単に同棲するしな。日本じゃシェアハウスなるものも流行っていたし気にしすぎか。いや、しかし、おかしい。やはりおかしい。
ちなみにこの家は3LDKの二階建てだ。住めないことはないが……問題はそこではない。
「賑やかになりそうね。よかった」
シエラはニコッと笑った。
シエラが楽しいならまあ良いだろう。
俺の聖域さえ守ればなんということはない。
ここは家ではなくアパートだ。
そう思えばなんとかなりそうな気がしてきた。
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