第13話 7年ぶりの親子対面

 女将は千春に両親が来ていることを伝えた。

 だが千春は覚悟していたらしく分かりましたと女将に伝えた。手紙を出した時から覚悟していた。その時が来たのだ。何から話せば良いか分からないが、とにかく詫びるだけだ。千春はそっと襖を開けた。八年ぶりの対面だ。開けた途端に母が飛びついて千春に抱きついた。詫びる暇もなく母は泣き崩れた。千春も言葉が出ないまま母に縋った。それが五分ほど続いただろうか。やっと我に返った千春は母に土下座して詫びた。


「いいのよ千春、生きてさえいてくれれば」

「本当に心配かけてごめんなさい。私もまさか妊娠しているなんて思いも寄らなかった。お母さんにもお父さんにも合わせる顔がないと逃げてしまって」

「お父さんもいけないのよ。本当に名前の通り頑固一徹なんだから。確かにそんな事を聞いたらお父さんは貴女を張り倒していたでしょう。ただ聞いて、お父さんは貴女が可愛くてしょうがないのよ。その裏返しに怒鳴る事しか知らないから。私は何度も言ってやったのよ。時代の流れだから私達の時代とは違うのよと」

「それでお父さんは?」

「表で待たせてあるの。大丈夫よ、お父さんも分かってくれるって」

千春は後輩の仲居に外に居るお客さんを呼んで来てと頼んだ。暫くすると父が気まずい顔をして入って来た。千春は入ってくる前から襖の方に向かって土下座していた。いきなり父に張り飛ばせるか、ドヤさせるんじゃないかと思っていた。だが父は何も言わず千春を抱きしめた。口下手な父だから態度で、もういいと言っているのかも知れない。あれから八年長い冬が終わった感じだ。千春は再び詫びようとしたが父は顔を横に振って、もう過ぎた事だと言う。母の春子は抱き合う父と子の姿を見てまた涙した。やがて母は思い出したように千春に言った。


「それより千春、孫に合わせて頂戴。双子なんだってね。子育て頑張ったね」

「今更ながらお母さんの気持ちが分かるような気がして来ました。いま連れて来るわね」

「ねぇお母さん。お客さんの部屋に入ってもいいの。いつもお客さんの部屋に入っては駄目と言ってるじゃない」

「それが今日は特別よ。あなた達のおじいちゃんとおばあちゃんが来ているの」

「え~ 本当? あの鎌倉に住んで居るという」

「そうお母さんが生まれ育った所よ。本当はもっと早く連れて行くべだったけど御免ね」

「ほらぁまたお母さんのゴメンが始まった」

「じゃあ行こうか、キチンと挨拶出来るわね。もう小学一年生になるんだし」

 二人は母の後ろに着いて行く。だが少し緊張しているようだ。千春はニコッと笑って入るわよと即し。襖を開けて入ると二人は少し照れながら。

「おじいちゃん、おばあちゃん。初めまして私は小春です」

「僕は春樹です。宜しくお願いします」

「まぁ見事なご挨拶ね。男と女だけど本当に良く似ているわ」


「……はい、おじいちゃんです。今日は何も買って来なかったけど何か欲しい物あるかな」

「もうおじいちゃんったら、物で釣るつもり」

「いやそうではないが、そうだランドセルはもう買ったのか。勉強机も必要だろう。それから洋服も」

「もうズルい。私だって買ってあげたいのが沢山あるのよ」

 それから夕食を共にした。積もる話も沢山あるだろうが千春の両親は孫にばかり話かける。孫は目に入れても痛くないというが正にそれだった。親不孝な娘だが両親には二人の孫が何よりと贈り物だった。翌日千春の父と母は孫二人を連れてランドセルを買いに行った。

 千春は仕事があるし両親は孫と出掛けられるとあって嬉しそうだった


次回 最終話につづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春雷 千春の波乱の人世 西山鷹志 @xacu1822

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ