第12話 ついに両親が千春の働く旅館に辿り着く

「とにかく今日は此処に泊まろう」

「じゃあ最初に私が入るわ。私なら会ってくれるはずよ」

「まぁそれがいいか」

 最初に春子が予約してないけど泊めて欲しいと申し込んだ。

「いらっしゃいませ。はい空いていますよ。おひとり様ですか」

「いいえ二人ですが連れは少し遅れて決ますので」

受け付けたのは千春の後輩の若い仲居だった。春子はドキドキして居る。バッタリ千春と鉢合わせになるのも気まずい。この若い仲居さんに聞こうか。それとも女将さんに先に会うべか迷った。


「あの~こちらの女将さんは」

「はい女将は間もなくご挨拶に来ると思います。小さな旅館ですが女将が挨拶するのがしきたりになっております」

「そうですか、それは丁度良かった」

暫くすると六十後半の女将がやって来た」

「ようこそ、いらっしゃいませ。何もない所ですが温泉と料理は自慢出来ますよ」

「あの~単刀直入に申し上げますが、こちらに秋沢千春がお世話になっているでしょうか」

「……あの~もしかして千春ちゃんのお母さん?」

「はいそうです。やはりこちらにお世話になっていたんですか、娘が大変お世話になって」


 すると女将さん床に頭を擦りつけ謝った。

「こちらこそ申し訳ありません。本来ならすぐ知らせるべきでしたが千春ちゃんはそれだけは止めて下さいと哀願するもので。たぶん親御さんに知らせたら、まだ何処かに行ってしまう気がして。私の姪の紹介なんです。咲子といいまして学生時代からの親友だそうで。身ごもっているからお願いと頼まれましてね」

「とんでもない。そんな娘を雇って頂き感謝しています」

「そう仰って頂くと肩の荷が降りた感じです。今では千春ちゃんが料理を除き旅館を切り盛りしているほどで助かっていますよ」

「いいえ女将さんの指導の賜物でしょう」

「今日は泊まり客も少なく千春ちゃんにはご両親と心行くまで話し合って下さい。……あの今日はお一人で?」

「いいえ、亭主は表に待たせています。なにせ千春は父が怖くて逃げるんじゃないかと」

「それはないでしょう。千春ちゃんはもう立派な大人であり二人の母親ですよ。あっまだお孫さんに会ってないんですね。では私、千春ちゃんが驚かないよう話してから来させましょう」

 春子は旅館の前で待っている一徹を呼んだ。

「貴方、やっぱりこの旅館で働いているそうよ。女将さんの話しでは今で旅館を仕切るほどなんだって」

 「そうか……まぁ俺の娘だから」

 「なにそれ? 千春を褒めているの。それとも自分を自慢しているの。さあ入ろう」

「いや待て、俺も気持ちの整理が付かない。あとで呼びに来い」


つづく

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