いえがらし

シルコ・シルラ

第1話

「やあ、Zさん、こんにちは」

 出会いは突然だった。帰宅したら、家の中にそいつがいたのだ。

「君、誰?」

「私はいえがらしです。妖怪いえがらしです」

「妖怪なの?」

「家を枯らす妖怪です」

 私は不吉な予感がした。

「出てってくれる?あまり関わりたくないな」

「ご心配なさらずに。この家にいるのは、そう長いことではありません」

「どういうこと?」

「私は引っ越しを司る妖怪です。私が来たからには、Zさんは一週間以内にこの家から引っ越すことになります」

 そりゃあ、こんなボロアパートは一刻も早く引っ越したい。でも、どうしてそれができないかわかりそうなものだ。

「引っ越すったって、そんなお金はないよ」

「ご心配なく。すでにこの私が手筈を整えております」

 それから本当に一週間もしないうちだった。

 たまたま出会った女の人と恋に落ち、トントン拍子に結婚することになった。

 その人はさる有名な代議士の一人娘で、私は養子に入ることになった。

「ありがとう。君のおかげだよ」

「いいえ、感謝されることではございません」

「これでお別れだね」

「ええ、お元気で」

 その後、私は義父の後を継いで代議士となった。

 何期か議員を務め、そしてついにこのときがきた。

「まさか自分がここに住むときがこようとは。ボロアパートにいたころとは大違いだ。思えば、あの妖怪に出会ったことで運が開けたんだな。なんていったかな、あいつは」

 私は期待に満ちて総理官邸に足を踏み入れた。

「やあ、Zさん、お久しぶりです」

 どうやら歴史に残る短命内閣になりそうだ。

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いえがらし シルコ・シルラ @warabizenzai

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