最高のトモダチ

空本 青大

最高のトモダチ

僕の名前は理人りひと

この広い世界でひとりぼっちの小学生だ。


みんなは他のみんなと仲良く暮らしているのに、

どういうわけか僕とは仲良くしてくれない。


親がいるじゃんって思うかもだけど、親はいない。

でも親っぽい人はいる。


お父さん?みたいな人は、毎日お酒をいっぱい飲んで、どっかに遊びに行って、

帰ってきたら負けた!ちくしょーって言いながら僕をよくぶつんだ。


お母さん?みたいな人は、毎日スマホをいじって、してでかけて、

酔っぱらって帰ってくる。

よくわからないけど、どっかからお金をいっぱい持ってくるんだ。

ほとんどお父さん?が持ってっちゃうけど。


2人とも僕とは遊んでくれない。

いつも1人でどっか行って遊んできてずるいなぁって思う。

他の子のお父さんやお母さんは一緒に遊んでるのにな・・。

たぶん僕は2人の子供じゃないのかもしれない。

だから親っぽい人って心の中で思ってる。


ちゃんとした親も欲しいけど、今一番欲しいのは友達だ。


学校で作ればいいじゃないかって?

僕もそうしたい。

でも学校のみんなは僕のこと好きじゃないみたい。

お母さんはいつも自分のお洋服ばっかり買って、僕には買ってくれない。

だから毎日同じ服ばっかり着てる。

そのせいで服も靴もボロボロ。

よくクラスの子にいじられたり、バカにされる。

『汚い、近寄るな』

みんな僕にこんな言葉しかかけてくれない。


僕はこの世界に何か嫌なことしちゃったのかな?

ただ生きてるだけでなにもしてないはずなんだけどな。

なんか頭にくるし、なにより悲しい。


僕は公園のはしっこで遊んでる子達をじっと眺め続けた。

こうしてれば誰か誘ってくれるんじゃないかなって。

けどみんな気づいてくれない。


しょうがないから頭の中で友達を作って遊ぶことにした。

目をつぶってイメージする。

元気で明るくてゲームが得意で走るのが早い。

僕が困ってたらすぐ助けてくれる。

名前は・・“雄二ゆうじ”。

この名前は僕が好きな漫画の主人公のものだ。


僕は毎日雄二と遊んだ。

おいかけっこしたり、カードゲームをしたり。

一緒に駄菓子屋でお菓子を買って食べたり。

来る日も来る日も公園の端で体育座りして、

目をつむりながら頭の中の雄二と一緒にいた。


そんなある日のことだ。

雄二と遊ぼうと公園に行ったとき、会いたくない奴らに会ってしまった。

学校の休み時間になると、僕を人がいないところに連れていって、

嫌なことをいっぱいする。

こいつらと外で会いたくないから遠い公園に来てたのに。

どうやら僕の後をつけてきたみたいだ。

3人で僕を囲って体のあちこちを殴ってくる。

1発1発は父さんほどじゃないにしろ何回も殴ってきて痛い。

痛みで地面に倒れこんでもまだ殴ってくる。


もうやだ。


誰か助けて。


雄二・・雄二助けてくれ・・。


数分後—

どうやら気を失ってたみたいだ。

目を覚ました僕のぼんやりしてた頭がじわじわと動き始めた。

起き上がるとそこには地面に横たわるいじめっ子の姿が・・。

どういうことだろう?と不思議がってると後ろから声をかけられる。


『大丈夫か?理人』


振り向くとそこには1人の男の子がいた。

短髪のキリっとした顔立ち。

少し日焼けした肌。

僕が頭の中で想像してた”雄二”そのものだった。


『雄二!雄二なのか?』

『寝ぼけてんのか?当たり前だろ。おまえのトモダチの雄二だよ』


ニカッと白い歯を見せながら僕に笑いかける雄二。

呆気に取られていた僕の顔が瞬く間に笑顔に変わる。

その日から僕のつまらない毎日が生まれ変わった。


どこへ行くのも雄二と一緒。

学校でも。

学校が終わった後も。

一緒に家で遊んだりもした。


雄二がいるおかげか学校でいじめられることもなくなった。

家でもお父さんお母さんが近づいてこなくなった。

全部雄二のおかげだ。

君は最高の友達だ―


そんな楽しい毎日を送ってたある日、クラスに転校生がやってくる。


名前は真白ましろ


キレイな顔立ちで、勉強もスポーツの成績もクラスで一番いい。

瞬く間にみんなの人気者になった。


僕とは正反対だ。

ちょっと前の僕なら嫉妬してたけど僕には雄二がいる。

それに真白の笑顔はなんだろう?なんか変だ。

本当に笑ってるのかよくわからない。


真白は誰にでもニコニコしながら話しかけてくる。

真白のことが嫌いな奴はいなかった。

僕を除いては・・。


授業が終わり雄二と帰ろうとしたとき、真白に話しかけられる。

いつもの嘘くさい笑顔で、みんなと遊びに行くけど一緒にどう?って。

もちろん断った。

友達と遊ぶからと雄二のほうをちらっと見てから真白に告げる。

じゃあその友達も一緒にどうかな?ってしつこいから思わず、

お前の笑ってる顔気持ち悪いからヤダ!と言っちゃった。

逃げるようにクラスから飛び出し、日が暮れるまで雄二と遊んだ。


雄二と一緒に家に帰る途中、道の向こう側から真白の姿が見えた。

さっきのこともあって気まずいからそのまま無視しようとしたら、

ちょっといいかな?と呼び止められた。

スルーしようと思ったけどいつもの笑顔がなく沈んだ顔が気になってしまって、

思わずいいよって返事しちゃった。


近くの神社に連れてこられた僕達は真白と正面に向き合う。

さっきから思ってたけど普段と全然様子が変わってる。

明るさが無くてむしろ暗い。

まるで別人みたいだ。


なにか決意した感じで真白が僕に、友達にならないか?って言ってきた。

ちょっとびっくりしたけど正直意味が分からない。

なんで僕なの?君にはたくさん友達がいるじゃないって聞くと、

理人君は僕の笑顔が嘘だって見抜いたからと嬉しそうに真白は言う。

でも僕には雄二がいるからゴメンと言いながらその場を去ろうとすると、

真白が腕をつかんできた。

思わず痛みで振り払うと真白が尻もちをつく。

しまった!と真白のほうをみるとが目に入る。


真白のシャツの袖から大きな痣が見えた。

とっさに隠されたが間違いない。

とても見覚えのある痣だ。

それ殴られたんじゃないか?って聞くと、違う!と大きな声で否定された。

僕は来ていたシャツを脱ぎながら、いや絶対そうだと否定し返す。

僕がお父さんにつけられた痣があらわになると真白はびっくりしてた。


このあと真白が色々話してくれた。


真白のお父さんはすごい偉い人だったんだ。

だけど悪いことしちゃって偉くなくなっちゃったみたい。

偉くなくなったあとはいつもイライラして、真白や真白のお母さんをよく殴るんだって。

それでもって勉強でもスポーツでも1番を取れ、そしていい会社に入れってめちゃくちゃ厳しくされてるとか。

みんなの人気者になれば将来役に立つからって、友達をいっぱい作ることも無理矢理やらされたのか・・。


真白のつらそうに話す姿が僕みたいだなって思った。

傍から見たら僕とは真逆なのにな。


話を聞き終わった僕は自分のことも話した。

さっきの自分みたいに真剣に聞いてくれた真白は涙ぐんでた。

気づいたらすごい距離が近くなって、

仲良くなりたい気持ちがあふれてることに気づいたんだ。

僕は友達になることを承諾した。

嘘の笑顔とは違って優しい笑顔を見せる真白。

僕も自然と笑顔になった。


うれしいな。

また友達が増えた。

そうだ!真白に雄二を紹介しないと。

ずっとほったらかしにしてゴメンとそばにいた雄二に謝る。

さっきから一緒にいたのに自己紹介まだだったよなと真白に言うと、

ん?って感じの顔を僕に見せる。

僕は左にいる雄二を指差し、こいつ雄二って言うんだ!いいやつだからきっと俺達みんないい友達になれるよ!って高らかに声を上げた。


「何を言ってるんだい?」


真白が真顔でぽつりと漏らす。


僕は最初冗談を言ってるものだと思った。

だけど真白の顔は真剣そのものだ。


何ってここにいるだろ!

さっきからずっといたじゃないか!


僕は普段出さないような大声を張り上げた。


「ずっと君は1人だったよ?」


真白から思いもよらぬ答えが返ってくる。


混乱した僕は神社を走って後にした。

後ろから真白の止める声が聞こえたけどそれどころじゃない。

息を切らしながら僕が住んでいるアパートの1室に駆け込むように入る。


中にいたお父さんとお母さんに尋ねる。


「僕の横に雄二いるよね?」


2人は僕を気持ち悪いものを見るみたいな目をしていた。


「おまえ最近ブツブツ独り言言ってて気味が悪いから近づかなかったけど、とうとうイカれちまったか?」

「あんたどうしよう・・。この子もうだめだわ」


もしかして2人が近づいてこなかったのは、僕がおかしかったから?

じゃあ学校でイジメがなくなったのも同じ理由?

そもそも雄二は・・。


僕は横にいる雄二に尋ねる。


『おまえはここにいるよな?』

『当たり前だろ?俺はお前のトモダチだぞ?』


雄二はいつもの調子で答える。


するとお父さんがいいかげんにしろ!と怒り出した。


気持ち悪いんだよ!と言いながらいつもより強い力で僕を殴ってきた。

お母さんがやりすぎよ!と悲鳴のような声を上げながら止めに入ったが、突き飛ばされてしまう。


殴られ続け意識が朦朧とするなか僕は助けを求める。


『ゆ・・うじ・・助けて・・』


その言葉を最後に僕の意識は途切れた―


どれくらい時間が経ったかわからないけど、僕が目を覚ますと目の前にどういうわけかお父さんが横たわっている。

足には包丁が突き刺さり、頭の近くに割れた花瓶の破片が散乱していた。

そして遠くからパトカーのサイレンが家へと近づいてくる。


あれから数か月後—

僕は今、別のお父さんとお母さんのところで幸せに暮らしている。


あの日パトカーを呼んでくれたのは真白だったらしい。

僕を家まで追いかけてたら、お父さんの大声を聞いてそれで通報したのだとか。

あのあといろんな大人の人にお話しして、親とはお別れして、色々あって今は違う親の元で生活することになったのだ。

今のお父さんとお母さんはとても優しい。

真白とは今でもいい友達だ。


こうやって幸せな生活を手に入れられたのは”あいつ”のおかげだ。

みんなには見えないけどいつも僕の横にいる。

ありがとう雄二。

僕の最高のトモダチ―—



































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最高のトモダチ 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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