出会いのビールと別れのシャンパン

出っぱなし

出会いと別れ、そして過去は現在から未来へ

 僕は現在(2022年3月時点)、世界中で旅をしながらワインを学んできたエッセイ『神の血に溺れる』を書いている。

 そのため、幸か不幸か、出会いと別れに関してはかなりの数を経験してきた。


 本編で語られることのなかった、第二部の前日譚を一つ語ろうと思う。


 僕は『神の血に溺れる』の旅が始まる前、様々な国々を放浪し、KAC20224『お笑い/コメディ』で面白い友との出会いについて語った。

 その後『神の血に溺れる』第一部でのフランスの旅、そして第二部で世界中のワイナリーへと修行の旅があり、その間の語られなかった物語がある。


 その友は当時、埼玉県に定年退職した父親とともに二人で暮らしていた。

 複雑な家庭環境であり、離婚した母親とは会うこともなく、妹は大病を患い若くして亡くしている。


 僕は『神の血に溺れる』以前、彼らの住む家に旅の途中で初めて立ち寄った。


 僕がマレーシアのボルネオ島から帰国し、成田空港から友の家の最寄り駅へと降り立った。

 駅前は東京近郊の地方都市であり、それほど特筆することもない街で友と再会した。

 

 この当時、実際に合うことは実に三年ぶりだった。

 僕たちはすぐに昔のように再会を喜んだ。

 そうして、友の家へと案内され、やってきた。 

 

「おお! よく来たな、ビールでいいか!」

 

 友の親父さんは気さくに出迎えてくれた。

 僕も遠慮することなく、ビールで美味しく乾杯をした。

 友はすでに親父さんに僕のことを話してくれていたようで、僕たちはすぐに打ち解け夜を飲みながら明かした。


 次の日、友は仕事があったのですぐに出かけていった。

 オーストラリアでの経験を買われ、某大手広告代理店の営業マンになっていたのだ。

 人生は何が起こるのか分からない。


 さて、残された僕と親父さんは、ふたりで浅草へと観光に出かけた。

 浅草寺や下町をブラブラと歩き、もんじゃ焼きを食べながら昼からビールを飲んで楽しく過ごした。

 親父さんはちょっと飲みすぎて足元が覚束無くなっていた。


「あの、お父さん大丈夫ですか?」


 店の店員は心配そうに話しかけてくれたが、実は親子じゃないんですけどね、と笑いながら返したが、店員は苦笑いだった。


 そうして、僕は彼らと別れ、一度実家へと帰り、次の旅に出た。

 そして『神の血に溺れる』の冒頭へと話が繋がるわけである。


 フランス編、オーストラリア編が終わり、僕は次の旅への準備のために某大手ワインショップで働いた。

 友もまた、某大手ビール会社に転職し、着実にキャリアを積み重ねていた。

 僕のいたワイン会社と友のいたビール会社がグループ企業になった時は笑い合ったものだ。

 

 その後、僕たちは何度か会い、友の仕事の合間に親父さんとは様々な場所へと遊びに行った。

 スカイタワーが建設途中の時には二人で見に行ったり、ビール工場でも二人で見学した。

 実の親以上に親孝行のようなことをした。


 しかし、別れの時も突然だった。


 訃報が届き、親父さんが亡くなった。

 大動脈解離、突然のことだった。


 年末の繁忙期だったが、僕は休みをやりくりして飛んでいった。

 葬儀には間に合わなかったが、遺骨に焼香をあげることはできた。


 友も精神的に参っており、僕たちは親父さんの遺影とともに河川敷でキャンプをした。

 暖炉を持って火を焚いて暖を取り、ルイロデレール社のブリュットを開けた。

 酒好きの親父さんへの送り火ならぬ送り酒、僕らなりの弔いだった。


「おお! こいつがか! うめえなぁ!」


 と、親父さんの遺影が笑っているように見えた。


 そうして、僕たちは新たな道へと進み出した。

 友はさらにステップアップし、世界有数の大企業で働き始めた。

 現在のコロナ禍ですら、現地国に請われて技術指導員として特別に招かれている。

 もちろん様々な感染対策を受け、生活にも困ることもない。


 そして、僕は一念発起し、ニュージーランドのワイン醸造・栽培コースのある専門学校へと入学することにした。

 当時すでに30歳は過ぎていたが、必要となる英語検定試験IELTSを受けるため、英語を勉強し直した。

 仕事の通勤時間の電車の中や昼休憩をすぐにすまし残り時間を勉強時間に費やした。


 その甲斐もあってか、無事に最低ラインを超えるスコアを取ることが出来た。

 入学し、卒業、そして『神の血に溺れる』第二部の始まりとなる。


 僕にとって、親父さんとの出会いと別れは人生の中で大きな出来事だった。

 現在、未来へと続く道を進むための大きな力となった。

 

 僕は親父さんとの出会いと別れに感謝し、そして、ご冥福をお祈している。

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