わがままな在り方

鶴崎 和明(つるさき かずあき)

出会いと別れ

「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる、出会いと別れの酒場よ」


 今回のテーマを目にした瞬間、ルイーダの酒場が浮かんだ私は、果たして三十四という歳を自称していいものだろうか。


 人生というのは出会いと別れに彩られている。

 歳を重ねていく度にその実感を強くしているのだが、酒場というのはそれを凝集し蒸留し精錬したものであるのかもしれない。

 もう飲み歩きを初めて十数年になるが、その間に繰り返した出会いと別れは数知れず。

 一つ一つがロックグラスに――などと格好のいいようなものではなく、突き出しの柿ピーのように私の心の戸棚に仕舞われている。

 時に取り出して口にするとこれまた酒が進んで、よい。


 昔は出会いだけが続き別れがなければよいものをと思っていたのだが、そのように都合の良い人生など何の旨味もないと気付いたのはいつ頃の話であろうか。

 それこそ身体が酒に浸かるようになってからではないかと思うが、悪い心地はしない。


 とはいえ、死別というのはこれと全く異なる。

 耐えがたいものであり、これを前にして平然としていられるほど私はできた人間ではない。

 学生時分、ダイビング中に急逝した学友の葬式の後、後輩が慰めようと思ったのか軽口を叩いた際、

「殺すぞ」

と同輩がどすを利かせて答えたのは今でも鮮烈に記憶している。

 私もまた、口にこそ出さなかったものの酷くこわばった表情をしていたそうである。


 出会いだけが続くような都合の良いことはないと言ったものの、行きずりの旅は正に出会いばかりが並んでいる。

 別れがないわけではないのだが、それが非常に軽い。

 だからこそ、出会いも別れも少ない日常に身を置いていると、訳もなく旅への思いが募っていくのだろう。

 無論、それは物質的な側面もあるが、人との出会いも色濃く存在する。

 今はなかなか叶わぬところではあるが、落ち着き次第、酒瓶を片手にまた徘徊の徒となりたい。

 なに、それがいずれは終着を迎える自分へのせめてものはなむけになるのだから。

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わがままな在り方 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru

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