第4話 第1ゲーム:弐歯嶋浩之(にしじまひろゆき)
1人を爆殺しておきながらも、とびっきりの猫耳美少女が平気な顔でルール説明をしている。そんな異常な状況にも関わらず、彼・弐歯嶋浩之(にしじまひろゆき)の感情としては、「戸惑い」よりも「怒り」の方が大きかった。いちおうルール説明に耳を傾けながらも、脳の半分ではその「怒り」の感情が渦巻いていた。
何が「Mahjong Handle」だ。麻雀歴は長いけれどそんなゲームは見たことも聞いたこともない。どこの誰が勝手に考えたゲームなんだ。どうせこの主催者が勝手に考えたゲームだろ! ウザイ! そいつだけが楽しいと思ってる誰もやりたくもないゲームを「ほら、面白いだろ?」とばかりに強制してくる奴全員ウザイ! 麻雀は麻雀のままだから楽しいんだよ。そりゃ赤五とか後から付け足されたルールもあるよ。そういうルールにはあって、このMahjong Handle ?とかいうゲームには無いもの、それは知名度だよ。知名度が無いんだよ。まだ広まっていないゲームは面白くないから広まっていない、そういうものなんだよ!
あらゆる物事についてまず「怒り」の感情が湧いてくる性分の彼に、辛抱しなくてはいけない機会も多い麻雀というゲームが向いていたのかどうかは分からない。ただ、彼も場の空気を弁える能力はそれなりに持ち合わせていたようで、猫耳美少女ゲームマスターの話を遮ったらまたもや爆死させられるかもしれないという懸念から、怒りの感情は心の中に留められていた。それどころか、彼の感情の比率が大きく変化して、「怒り」よりも「驚き」と「期待」の方が上回る出来事がやってきた。それが、彼女が賞金を発表・公開した時だった。
「まぁこんな感じに、お金ならけっこうあるから安心するニャ。」
「「「「「うおおおおおおお!!!!!!」」」」」
弐歯嶋も雄叫びを上げた大勢の参加者のうちの1人だった。友人達と徹夜麻雀をした帰りに、メシ屋か電車かバスかいったいどこで寝てしまったのかすらもよく覚えていない。何が何だか分からないままデスゲームに巻き込まれてしまったらしいことは理解はできたが、そんな現実感が無い状況を受け入れきれてはいなかった。しかし。金! 金! 金! 本物の金だ。その圧倒的存在感。バイトでなんとか食い繋ぐ苦しい生活をしているからこそ、普段あまり見慣れておらず日常的に渇望していたからこそ、彼の金への執着は人一倍強かった。大量の舞い降りる壱万円札を、夢や幻と疑う目を持ちながらもその真贋をしっかりと見定めて、現実に存在する本物の大量の壱万円札であると確信していた。
「それじゃあ、先着で1回10人の参加者を募集するニャ! 我こそはという子はスマートウォッチの参加ボタンを押すニャ!」
左手首に見知らぬスマートウォッチが付けられていることに気が付いたのはそう言われた時だったが、それでも彼は迷わずに参加ボタンを連打していた。これが人生で初めてのチャンスだと。クソみたいな人生から抜け出すことができるドリームであると。
「参加決定の子は、そこの個室に入るニャ!」
弐歯嶋は司会の猫耳超絶美少女に促されるままに個室に入る。すると、参加の意思を翻すことのできないようにガチャリと強制的に鍵が掛かる。不穏ではあるが、今の弐歯嶋にとっての最重要事項はゲームをクリアして1億円を手に入れることだ。鍵のことはあまり気にせず中に置いてあるタブレットに目を向けて、ルール説明を反芻する。
うろ覚えだけど、たしか『麻雀の和了形を6回以内に推察する』だったか? こんなのな、俺が一発で当ててやるよ。ヒントなんかいらないね。こんなデスゲーム?の主催者なんてのはだいたい馬鹿なんだよ。馬鹿か、もしくは単純。自分の欲望を制御できない。だから、金の力でこんなわけの分かんないゲームをする非合法の場所を作って、欲望のままに人の死ぬところを見ようとしている。そんな本能直結野郎が考える最初の牌姿なんてのは、どうせ萬子の一通とかの単純なやつなんだよ。そうに決まってる。
「じゃあ第1ゲーム、開始ニャ!!!」
開始の号令とともに、タブレットに【場風:東 自風:東 ロン 1:00】という表示が追加される。タブレットの表示はいたってシンプルなため、直感的な操作ですぐに牌姿を入力できた。
【一二三四五六七八九東東東南 南】
よし、と。こんなものか。他には萬子の九蓮宝燈とか国士無双とかそのへんも怪しいか。まぁとりあえず萬子の一通だろうな。
「第1ゲーム、1手目の制限時間終了ニャ! では答え合わせだニャ!」
【一二三四五[六七八]九東東東南 南】
ん?? 全然違ったか。えーっと、たしか萬子→筒子→索子→字牌の順番に『完全理牌』だって言ってたか? ということは、【六七八】がまず最初に来るということか。じゃあ分かった、萬子じゃなくて筒子か索子の一通だ。単純バカは一通が好きだから、あと3面子あるなら一通か三色が来るに決まってる。こうしてこうして、と。で、待ちは字牌単騎だろうな。とりあえず西にしておくか。
【六七八①②③④⑤⑥⑦⑧⑨西 西】
よし、これでいい。さあ、どうだ!
「第1ゲーム、2手目の制限時間終了ニャ! では答え合わせだニャ!」
【{六七八}①②③④⑤[⑥⑦⑧]⑨西 西】
チッ、三色かよ。まあそうか、馬鹿は三色も好きだもんな! 【⑥⑦⑧】と入れてと、残りの字牌は……白と中にしておくか。よし、と。これでいいか。
【六七八⑥⑦⑧678白白白中 中】
待ちは中単騎。こんなよく分からないデスゲームとかやる奴はマトモな性格をしているわけないんだよ。ということは、待ちも字牌単騎待ちにするに決まってる! 異常者は待ちを選べる時は必ず字牌単騎にする!
「第1ゲーム、3手目の制限時間終了ニャ! では答え合わせだニャ!」
【{六七八⑥⑦⑧}678白白白中 中】
「えっ? えっ? なんで?」
わりと状況を楽観視していた弐歯嶋も、3手目で全く進展が無かったことには流石に焦りを見せる。一通でも三色でも無い和了形なんて麻雀では全く珍しいものでもないのだが、人一倍思い込みと偏見の強い彼には完全に想定外のことだった。慌てて索子の下を探索しようとするが、
【六七八⑥⑦⑧123456發 發】
字牌単騎という思い込みを拭いきれていないため、役無しの和了形のため最後に「Enter」キーを押しても「Error」と表示されてしまう。焦りに焦って、制限時間ギリギリで【發】待ちで手役を作って入力を終えられた。
【六七八⑥⑦⑧11234發發 發】
「第1ゲーム、4手目の制限時間終了ニャ! では答え合わせだニャ!」
【{六七八⑥⑦⑧}11[2]{34}發發 發】
10-11枚目に【34】が確定したのは大きな情報だ。【1】を使っていない上に9枚目が【2】ではないことから、【234】の一盃口の形にも気付くことができた。しかし、一盃口という日本麻雀においては数少ない2面子だけで作れる手役の存在に気付いたのは、弐歯嶋にとっては不幸なことであった。重ねて言うが、彼は思い込みが強い性分だったからである。
【六七八⑥⑦⑧223344北 北】
分かった! もう完全に分かった! 【234】の一盃口で、待ちは北単騎だ! 性格が悪い奴らが選びそうな待ちだ!
「第1ゲーム、5手目の制限時間終了ニャ! では答え合わせだニャ!」
正解を確信している弐歯嶋は、エレベーターに乗る時はいつも「閉」ボタンを連打するタイプでもあるため、答え合わせがされる前からもう鍵が掛かった扉をガチャガチャと開けようとしている。しかし、単騎待ちだという確信は事実としてはただの思い込みであり、弐歯嶋の入力した5手目は不正解であった。
【{六七八⑥⑦⑧22334}[4]{北} [北]】
12枚目の【4】と14枚目の和了牌【北】が位置が違う、つまり、待ち当てを間違えたという結果だった。ハッキリと結果を見せられては、流石の弐歯嶋も己の思い込みであったことを理解して、【4】待ちとなるよう牌姿を修正して入力した。
【六七八⑥⑦⑧22334北北 4】
「はーーーい!!! 第1ゲーム、最後の6手目の制限時間終了ニャ! まだけっこう残ってるニャ~。さっき説明した通り、この6手目が外れたら死ぬことになるニャ。覚悟するニャ。」
死ぬだと? ふざけるな! こんなことで死んでたまるか! いいからとっとと答え合わせをして賞金をよこせ!
「結果発表だニャ!!!!!」
【{六七八⑥⑦⑧22334北北 4}】
14枚全てが{}に囲まれており、「Excellent!!」という表示がされる。それと同時に扉の鍵が開き、弐歯嶋はボックスから転がるように飛び出す。ボックスの中に居る時は他のボックスの様子まで見ている時間は無かったためあらためて周りを見回す。ボックスを遠巻きに眺めている今回の第1ゲームに参加していない奴らが、司会の答え合わせを聞いている。そして、まだボックスの中に取り残されている者もおり、不正解であることを嘆き悲しんだり、ただ呆然としていたりなど、この距離ではよく見えないが彼らにこのあと悲劇が訪れそうなことは察せられた。あいつらがいったいどうなるのか。まさか本当にさっきの奴のように……。ここへ来て、どっと大量の汗が噴き出してきた。
「お前らには死んでもらうニャ!」
ボックスの中に残っていた声のデカい参加者とのやり取りが少しあってから、罰ゲームが執行された。
ボン!!!!!!!!!
冒頭で爆殺されたチンピラの時のようにオープンな場所ではなく、ボックスの中で爆破が起こったためか、爆発はややくぐもった音だった。相当に丈夫な素材で作られているのか、それとも爆破のエネルギーが内側の人間の方へ向かう設計になっているからなのか、ボックスが爆発によって破壊される様子は全く無かった。
「クリアした子のスマートウォッチには、手数に応じて賞金が表示されているはずなので確認するニャ!」
そうだ、賞金だ! いったいいくらだ? たしか1手目だと1億円だったか。6手目クリアだといくらだ? こっちは命を賭けているんだ、1千万円は欲しいところだぞ。弐歯嶋はすぐさま左手首に付けられたスマートウォッチに視線を落とす。
「6手クリア:▲1000万円」
うおおお!!1000万円!!!?? ん?? 6手も掛かってるのに1000万円も払ってたらすぐに賞金が無くなるんじゃないか!? 単位が円じゃなくてウォンとかペソってことか? いや、ハッキリと「円」って書いてあるな。あ、「▲」が付いてるからマイナスってことか。なんだ、じゃあマイナス1000万円だ。マイナス1000万円!??
「マイナスイッセンマンエン!!!????」
弐歯嶋の驚きは、そのまま口から溢れ出て絶叫となり、会場中に響き渡っていた。
「そうだニャ♪ ルール説明でも言った通り、6手クリアは▲1000万円だニャ! 残念だったニャ~。」
司会の猫耳美少女は、そのトレードマークである猫耳をピコピコと動かしながら楽しそうに話す。(ん、あの猫耳、付け耳じゃなくて動くのか?)
「ま、死ななくて良かったんじゃないかニャ?」
「ふざけるな! そんな大金、どうやっても払えねーよ!」
「だよニャ♪ なので、お金が足りない子は……死祈(しおり)ちゃんチームの出番ニャ!」
第1話で麻生死祈(あさおしおり)とか名乗っていた司会の猫耳美少女は、猫のように肉球は付いておらず普通の人間っぽい手の指をパチンと鳴らす。すると、別室からゾロゾロと黒服にサングラスの男達が出てくる。
「第1ゲームで6手クリアだったのは、そこのチビ、お前だけニャ。これから借金を返してもらうために頑張ってもらうニャ。じゃ、別室送りニャ~。」
体格の良い黒服サングラスの男達が弐歯嶋を両脇から抱え込んで動きを止める。
「おい! やめろ! 離せ!」
言われてやめるわけがない。弐歯嶋も多少身じろぎはするが、本気の抵抗をするには二度にわたる爆殺が抑止力となっており振りほどけない。小柄な身体を両脇から抱え込まれて、さながらUFOから回収された小さいヒト型の宇宙人のようにズルズルと引きずられていく。
「クソ! こんなことしてお前らタダじゃ済まないぞ! デスゲームの主催者なんてのはな、どんな映画や漫画でも最終的に絶対全員破滅しているからな! お前らみんな絶対に警察に捕まる。警察に捕まり始めている!」
弐歯嶋は負け惜しみの言葉を矢継ぎ早に投げ続けながら連行されていく。
「やめろ! 離せ! 死にたくない!!」
そのまま別室へと続く扉を越えて引きずられていき、扉が閉まってその喚き声すらも聞こえなくなる。
「フフフ、そのうち自分から死にたいと祈るような目に遭うかもしれないけどニャ♪」
彼女は死祈(しおり)の名に相応しい不穏な言葉をボソリと漏らした。
To Be Continued……
麻雀デスゲーム ~Mahjong Handle Death Game~ いのけん @inoken0315
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