第21話 起死回生
まず、鮫島さんと俺が前衛だ。
辰さんが、俺の護衛になる。斬りこぼした蝕手から俺を守ってくれる。
天綺さんは、後衛。
後ろから、サンスベリアナイフを本体に投げて、怯ませる。
最後にチャラ☆さんとリッくんさんは和葉の運搬と護衛の役目だ。
以上の役割を決めて、全員で蝕妖に向かうことにした。
ここまで来たらやるしかない!
蝕妖の体を削ることで、移動可能距離が狭まりクズ高に近づくはず。
そして、たえず和葉には危険がない距離にいてもらえば安心である。
それを見極めるのは天綺さんだ。
天綺さんは、グーグ◯マップを開いて、現在地とクズ高の直線距離を把握しながら進むってわけだ。
「行くぞ。悠夜。」
「はいっ!」
ダッと走り込み、蝕妖にサンスベリアを振り下ろす。
蝕妖は『グギャァァ!』と叫び、ズルズルっと後退する。
それを追って、鮫島と悠夜は再び何度も襲いかかった。
そして、悠夜たちが攻撃するために近づいてきたことで蝕妖も負けていない。
『馬鹿めっ!そこは、私の間合いだぁぁ!』
と、叫ぶと、蝕妖の蝕手が勢いよくドバッと伸び、悠夜たちを襲う。
悠夜は、自分に迫る蝕手を下から上に振り上げて、切断した。
いくつか取りこぼした蝕手が、悠夜を絡ませ吸収しようとするが、背中に張り付いていた辰がそれを阻む。
拳と蹴りで、悠夜に近づく蝕手を、パァンっと払い除けた。
「辰さんっ!ありがとうございます!」
「ギャハハ!いいってことよ。悠夜は、自分のことだけ考えりゃあええ。」
ザシュザシュと、悠夜が蝕妖を削り、パンっパンっと辰が邪魔な蝕手を払い、少しずつ前進していく。
見事な連携だ。
鮫島の方は、力任せに片手でサンスベリアを操って、片っ端から蝕手を切り刻み、逆側の手では蝕手を掴み引きちぎっていた。
切り落とす音の他に、ブチブチっというありえない音がする。
鮫島は、本当に人間なのだろうか。
野生味が凄すぎる。
天綺は、鮫島が斬りこぼしやすい足元の蝕手にナイフを投げて、援護していた。
見事に蝕手に挿さり、動きが止まったところを鮫島がすかさず斬り落としていった。
こちらの連携も素晴らしい。
さらに、天綺は戦うみんなと蝕妖の様子を観察して、移動限界範囲を見極めてチャラたちに指示も出していた。
チャラたちは指示に従って、前進したり後退したりする。
それを繰り返し、着実にクズ高に近づく。
そして、クズ高の校庭についたころには、蝕妖の体の濁りはかなり少なくなっていた。
だいぶ、取り込んだ人間の精神を解放できたみたいだ。
『巫女ぉっ!巫女ぉっ!』
相変わらず蝕妖の執着は、巫女である和葉だ。
蝕手は、真っ直ぐに和葉の方向に向かう。
しかし、天綺の見極めによりそれは届かない。蝕妖はイライラとしているのが、見てとれた。
そして和葉の精神は、依然として戻ってなかった。未だにぐったりとして、律とチャラに支えられていた。
もしかしたら最後まで和葉の精神は手放さないかもしれない。
悠夜は、そんなことを考えていた。
「おい!蝕妖っ!!いい加減和葉の精神を返せよっ!」
悠夜は、ザクザクと迫り来る蝕手を斬りながら叫ぶ。焦燥感に、怒りをぶつける。
そして、蝕妖は興奮してしまう。
『ヒャハッ!返さない!最後まで返さないぞぉぉ!
残りの精神を吸い付くし、それから樹を得るのだ。
私は神をも凌駕するのだ!!神も人間も、みーんな私にひれ伏すのだぁ!!
混じりものっ、お前には私を滅消することなんてできないんだっ!邪魔するなぁぁっ!』
ドンっと、空気が震え、四方八分から隙間なく蝕手が飛び出した。
悠夜は、ギョッとした。
すぐさま手を前に突き出して、叫ぶ。
「『ディッキア!』」
悠夜たちを覆う大きさの盾を展開。
それを悠夜と鮫島と辰で、後ろから全身に力を乗せて押さえた。
あまりにも鋭く多い蝕手に、危機を覚えた。斬ることは到底不可能な量。
鮫島の背中が猫が逆毛を立たせるようにビリビリと痺れる。
滅多にないことだが、命の危険を感じると電流が走るのだ。
今が、その時である。
「辰っ!!もっと必死に押せ!」
鮫島の顔に焦りが見える。珍しい。
「ギャハハ!わかっとるけぇ!鮫島が焦った顔ひさしぶりに見たっちゃのぉ!
ぶちやばいのが、わかるがぁー!!」
辰も必死に支える。
ちなみにこの鮫島の勘は、当たっていた。
蝕妖もバカじゃなかった。
移動可能距離をずっと騙していた。実際には、和葉まで届いていた。
ここぞというところで和葉を吸収する予定だったのだ。
今は 渾身の攻撃を盾で防がれているが、引くつもりはない。
ゴリ押しで、このまま巫女まで蝕手を伸ばす予定である。
そして、悠夜たちもこのままではいられないことがわかってる。防御し続けても、蝕妖は止まらない。
何か起死回生の一手が必要になる。
「鮫島さん!タバコ貰えますかっ!!」
「は?悠夜、こんな時に何言ってんだ!?」
相変わらず発想が突飛で、鮫島は困惑する。
しかし、それでも悠夜を信じているため胸ポケットからタバコを取り出す。
背中を盾に預けて、押し支えながら、火をつけた。
「ほら。」と手を伸ばして、悠夜に渡す。
「すいません。ありがとうございます。」と、タバコを受け取ると、悠夜は盾の向こう側を見据えた。
そして続け様に指2本を盾を越えるように斜め上に伸ばして、唱えた。
「『ユーカリ!』『オシロイバナ!』」
指からユーカリの葉っぱが大量に射出され、蝕妖の上からひらひら降り注ぐ。
遅れてオシロイバナの黒い種の中身が、ブワッと一直線に放水のように向かった。
蝕妖の周りに、ユーカリの葉とオシロイバナの胚乳が舞う。
鮫島たちは、その様を黙って見ていた。
悠夜が何をするのか、皆目見当もつかない。
悠夜の奇行は止まらない。
急いで今度はさっき貰ったタバコに何やら細工をし出した。
タバコの真ん中に蔓をボール状に巻きつけている。
そして、「辰さん!これバケモンにぶん投げて!!」と、辰に押し付けた。
何が何だかわからないが、悠夜が焦りながら必死の形相で作業していたのだ。
辰は、「任せろ!」というが早いか、ぶん投げた。
信じなければ、仲間じゃない!
蔓の重しをつけたタバコが一直線に蝕妖に向かう。
そして....
ドゴォォォっと爆音が鳴り響き、火柱が上がった。
ものすごい火力で、一気に灼熱の熱波が悠夜たちを襲った。
蝕妖も『グギャァァっ』っと、断末魔のような叫びを上げて苦しみ出す。
「な、なんじゃぁ!!」
辰は驚愕の声をあげた。
「なるほどね。粉塵爆発...。」
天綺が、ボソリと感嘆の声をあげた。
悠夜は、蝕妖が火に弱いことを覚えていた。だから、ここで火力をあげて攻撃をすれば起死回生の一手になると思ったのだ。
ユーカリには油が大量に含まれている。
オーストラリアの山火事の原因の植物だ。
そこに、おしろい花の粉で粉塵をまとわせて、火種をつければ完成だ。
風を操れれば、自然にユーカリの摩擦で発火するがそうはならないから、鮫島のタバコが必要だった。
赤髪の優等生、覚醒しました!? 香 祐馬 @tsubametobu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。赤髪の優等生、覚醒しました!?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます