第20話 バケモノ覚悟しろ!

「みなさん、なにも聞かないんですか?」


悠夜は、とうとう我慢できずに聞く。

みんながみんな自然に受け入れていることを不思議に思う。


「ん?鮫島が信じるって言ったら、信じられるでしょ。

それに悠夜の人となりだって、もう俺らは知ってる。お人好しの悠夜なら、バケモノ相手にでも対処法があれば無視しないんじゃないかな?

その不思議な能力は気になるけど、普通じゃなさすぎて、言いづらいものなんじゃないかと思ってさ。

悠夜が話してくれるって言うなら、聞くよ?」


みんなが、うんうんと同意する。

どうやら、みんなは鮫島と悠夜を信じてついてきてくれるみたいだ。

じんと胸が熱くなる。

後ろから蝕妖が迫ってきている状況だが、泣きそうなほど感激した。


だけど、天綺さん。

流石に買い被りすぎです...。

蝕妖に見つかるまでは、俺なにもするつもりありませんでした...。

ヘタレなんです。


「実は、俺の死んだと思っていた親父が、生きてまして。

それも、人間じゃなかったみたいで。びっくりですよね。ははは...。

この力は、親父から教わりました。

どうやら、俺あのバケモン、蝕妖っていうんですが、アイツの餌として上物の俺が狙われてて。逃げてたら、和葉に会って。

そしたら、和葉が巫女になってて...。

巫女っていうのは、子宮にバケモンのパワーが厄災級になるじゅっていうものを持ってる大人の女性のことなんですが...。

それで、今はなんとしても和葉を守らなくてはいけないんです...。」


順を追って話そうと、悠夜はするが、走りながらなので、なかなか上手く話せない。

おおよそのことは、説明できたと思うが、これだけじゃわからないだろう。

だが、みんなはなんとなく理解してくれたようだ。

細かいことは、後で説明するとする。


鮫島は、悠夜の拙い説明でもなんとなく理解できた。


「ふーん。そうか。親父さん、人間じゃなかったのかぁ。ふーん...。

それにしても、和葉さんは巫女だったのか!さすが俺が惚れただけあって、普通じゃないなっ!

だがたとえ和葉さんが、巫女じゃなくても、俺は命をかけて和葉さんを守るぞ!俺の愛は、そんなもんじゃないからな。

そして、悠夜も守るぞ。

たとえ、悠夜が人間じゃなくても、俺たちの仲間には変わらないからなっ!」


鮫島は、グッと親指を立てて悠夜を安心させる。

そして、他の仲間たちも同様に頷き、指を立てる。


「そうだね、悠夜は悠夜だよ。」

「ギャハハ!仲間のピンチには、当然駆けつけ闘うのが当たり前じゃ〜。」

「悠夜は〜☆元々、変だったから、あんまり衝撃的じゃないよね☆

きっと、普段からの斜め上の思考は、人間じゃなかったからかな〜☆納得ぅ〜。」

「...悠夜は、ずっと普通じゃなかった...。

...問題ない...。

...それより、バケモノに集中...。」


みんながみんな、悠夜を受け入れた。

悠夜は、何度目かわからないが、再び胸が熱くなった。


俺は、幸せだ。

和葉のおかげで、鮫島さん達に出会えて良かった。

みんなの真っ直ぐな力強い視線が嬉しい。


ならば、あつかましいけど、お願いしてみよう。


悠夜は、グッと一度食いしばると、顔をあげた。みんなを見渡し、お願いを伝える。


「なんとしても、俺は和葉を守らなくてはなりません。

もちろん、あのバケモンを強くさせないためでもありますが、和葉は俺の大事な幼馴染なんです。見捨てられません。

でも!俺、喧嘩弱いし、動きのキレも皆さんよりないし...。

だから...。俺ひとりじゃ和葉を守り切れる自信がありません。

お願いします!俺と和葉を助けてください!」


悠夜は、必死の形相でみんなに伝えた。

途中、自分の不甲斐なさに胸が苦しく言葉尻が小さくなったが、みんなを信じてる。


本来なら、みんなは悠夜と和葉を放っておいてもかまわないのだ。

見捨ててくれれば、みんなは確実に助かる。

好き好んで、蝕妖に対峙しなくて良いのだ。

でも、悠夜は自分の力量を知っている。

自分一人では守れないことはわかってる。

みんなの優しさにつけ込むようなものだけど、協力を仰ぐ。


そして、みんなは、笑顔で快諾してくれた。


「おう!任せとけ!」「もちろん。守るよ。」

「ギャハハ!仲間を助けるのは当然じゃ!」「悠夜は、真面目〜☆お願いされなくても、助けるに決まってるじゃーん☆」「...俺も頑張る...」


悠夜は、鼻がつんとするほど涙が出そうになった。


この辺で敵なしの不良チームであるみんなが協力してくれるなんて百人力である。

なんとかなるような気がしてきた。


そして、そろそろ目的地の小学校である。


悠夜達は、学校のフェンスをヒョイっと越える。

普段なら悠夜は、ヒョイっと越えられないが、蔓蛇を使って華麗に飛び越えた。


「やるじゃん☆」と、チャラに褒められた。

「へへっ。」と照れ笑いをする悠夜。


しかし、悠夜は、神徒の力でどうにかするしかなかったが、鮫島達は持ち前の運動神経でフェンスに一瞬足をかけて跳ぶことで越えて行った。テッペンに手をかけ腕の力だけで体を持ち上げる...そして難なくフェンスの向こうに跳んでいったのだ。

すごすぎる。


ちなみにこの時ばかりは、鮫島さんが和葉を運んでいた。人一人背負って、飛び越えられるのは鮫島さんだけである。

まじ、ゴリラである。


校庭の真ん中で和葉をそっと鮫島はおろした。

和葉を見つめる目は、優しい。

本当に惚れてるのだとわかる。

ここだけ美女と野獣の世界だった。


「律、チャラ。お前たちは和葉さんを守れ。」


「はーい☆」

「...了解です...。」


「さて...。

悠夜、その力ではなにができるんだ。あのバケモンをやっつける事は出来るのか?」


鮫島は、蝕妖をサンスベリアで倒すことが可能かを、悠夜に問う。


「倒すことはできません。倒すつまり滅消することは、神徒が何人もいないとできないそうです。

俺ができるのは、蝕妖のバケモンを切り刻んで、取り込まれた人間の精神の解放をするまでです。

蝕妖の体が透明になれば、全ての人間の精神は取り戻せたってことになります。

その後なら、クズ高にある祠を封印することが可能になるみたいです。

まだ俺は、封印することはできないので、親父からはとにかく逃げながら削れと言われてます。」


「なるほど。さっき結構削ったもんな。だからか...。あそこでバケモンが止まってるのは。」


そうなのだ。こんなにゆったりしているのは、泥状の蝕妖が壁に阻まれるかのように、少し離れたところで止まっているからなのだ。

ギリギリ移動範囲から外れることができたようだ。


『グギャグギャ!!巫女を寄越せぇ!』


蝕妖が、叫んでいる。

人がいないところに誘導したのは正解だった。

周りに人が居たら取り込んで、距離を増やされて襲ってきていただろう。

しかし、このまま見ているだけではダメだ。

後ろでは、和葉が精神を少し吸われてしまってぐったりしている。

削らなくてはならないだろう。


どのくらい削ればいいだろうか...?


「悠夜。日の出までここにいてもいいけど、それだと明日以降も逃げなくちゃいけない。

それは、非建設的だよね。

こないだは、触れも出来なかったから逃げるしかなかったけど、今回は違う。

触れるし、削っていける。だから、ここいらであのバケモノをやっつけないかい?

透明になるまで削れば、親父さんが日中封印してくれるんじゃないかい?」


「天綺さん...。」


「じゃな、じゃな!

ここは、わしらが迎え討つのがええじゃろう。和葉嬢の意識も戻るけぇ。」

「そうだよ☆ちょっと正義のヒーローみたいで最高じゃん☆」

「...やろうよ...。」


「よしっ!決まりだな。

悠夜、やろうぜ。俺に木刀くらいの葉っぱをよこせ。細切れにしてやる。」


ニッと不敵に笑って、鮫島は自信を漲らせる。


「わかりました。では...『サンスベリア!』」


悠夜は口元に指を添えて息を吹きかけるように神気を纏わせた。

そして、鮫島が言った木刀くらいの大きさの葉をシュンっと手を払うように振って具現化させた。

思った通りの長さのサンスベリアに満足し、はい、どうぞと悠夜が渡すと、鮫島は片手で早速素振りをした。

ブオォンと風を切る音がし、力強さが半端ない。


「じゃあ、いっちょやるか。」


鮫島が、軽い口調でサンスベリアを構える。


これからバケモノ退治が始まる。

バケモノ、覚悟しろっ!!








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