第19話 ヒーローは遅れてやってくる

悠夜と和葉は、無事に塀を越えて工場跡地に着地した。

すぐさま悠夜に引っ張られ、和葉は走り出す。


「ゆ、ゆうちゃ〜ん!何?なんか出たっ!?あれ何!?」


「蛇結茨っていう植物だ。」


「へぇ〜そう...。って、違う!!

植物の名前聞いたんじゃないよ!?

悠ちゃんの指からなんか出たことについて、説明して!!」


悠夜の美和子ゆずりの天然マイペースぶりが炸裂した。

親切に和葉に植物の名前を教えてあげたのだが、そうじゃない。

ここは、神徒の力についての説明をすべきところだ。


「あー、うん。なんか、俺の親父が、人間じゃなかったらしくて。

こないだ、親父が植物を操る力を伝授してくれたんだ。」


「んんっ?ちょっと待って。

植物を操る力もびっくりだけど、お父さん生きてたのっ!?」


「あー。うん。生きてた。」


「そっかぁ!!よかったね!」


和葉は、素直に悠夜の父親が生きていることを喜んだ。

パァっと、輝くような笑顔を悠夜に向けた。


さんきゅっと、悠夜はボソリとお礼を言う。

なんだかむずがゆく照れ臭かったのだ。


ふふ、と和葉は笑う。

そんな不器用なところも幼馴染ゆえに分かり合える。


「それで、指から植物が出るのは、お父さん由来の力なの??」


「あー、そうだ。親父は神徒しとっていう種族らしくて。神様から依頼されて動く御使様みたいなもんだった。

和葉のような樹の巫女を守ったり、さっきのバケモンを封印したりする。」


「へぇ〜。すごい人だったんだねぇ。」


「すごい...、のかもな。」


悠夜は、素直に感嘆することは出来なかった。

こないだ会った時の明夜の振る舞いが、尊敬しうるものではなかったからだ。


「なに?そんな微妙な顔して、凄くないの??」


「力はすごいし、やってることも偉いのは、わかってるんだが。

いかんせん、親父の性格が、なんていうか...。」


「なに?なに?」


「行き当たりばったりというか、感覚派で。俺とは180度違くてな。相入れなくて、ツッコミまくった...。

それに、神徒は子育てしない種族らしくて、ちょっとクズだ。」


「え?そうなの?だから、悠ちゃんと住んでないの?」


「それもあるが、和葉みたいな樹の巫女のそばで夜の間ずっと護衛してるらしくって、帰ってこれないそうだ。」


「でも、日中は帰ってこれるでしょ??」


「だよなぁ〜。俺もそう言ったんだよ。

だけど、一緒には暮らせないってさ。

見た目が、大学生くらいで止まってるからだって。」


「美和子さんだって、若いじゃん!」


悠夜と同じことを和葉も言う。

やはり、幼馴染考えることは一緒だった。



「和葉!右に曲がるぞ。」


先がT字路だったので、悠夜は和葉に指示を出した。2人は角を勢いをそのままに曲がる。

すると、目の前に緑の壁が!


蝕妖が待ち構えていた。


「うわっ!!」


悠夜たちはタタラを踏む。

急には止まれない。


「『ディッキア!』」


悠夜は瞬時に反応し指を前に突き出す。

放射状に伸びる刺々しい硬質な葉っぱをもつ植物を巨大に展開し盾にした。

盾を目の前の壁にぶつけて、クッションにする。

緑の壁と盾がぶつかり、悠夜たちは接触を免れた。


「もう、見つかったのか!くそっ...。

戻るぞ、和葉!」


くるりと踵を返して、蝕妖から逃げる。


しかし、状況がマズイことになった。

さっきまでは、お遊びのように気まぐれに蝕手を出して威嚇していた蝕妖が、まるで違う個体かのように動きが激しくなったのだ。

悠夜が神徒の技を使えることがバレたため、蝕妖も本気になったようだ。

蝕手が、和葉を捕食しようと常に攻撃してくる。


「『サンスベリア!』」


指を振るって、長剣のような長さの鋭い葉っぱをシュバっと顕現させる。

程よい長さまで伸ばし、片手で握る。

浄化を司る剣である。


和葉を自らの前に走らせ、後ろから迫る蝕手を斬って牽制する。

切れた蝕手は、煙を上げて消えていった。

その煙が、今まで喰べた人間の精神なのだろう。


『グギャッ!!』っと、蝕妖が短い悲鳴をその度に挙げる。


効いてる!

グッと、心の中で拳を握って歓喜する。

でも、斬っても斬ってもキリがない!

次から次へと伸び迫ってくる蝕手の多さに、こっちの体力の方が先に尽きそうだ...。


そして、いよいよ体力が落ちて、悠夜は迫り来る蝕手を斬り損ねた。


やばいっ!


「和葉っ!!」


「キャアっ!!」


和葉の足に蝕手が絡まり、走行が止まる。

チッ!と舌打ちをして、悠夜はすぐさま蝕手を切断しようとするが、蝕妖も待ってはくれない。

ここぞとばかりにドバッと大量の蝕手が襲ってきた。


斬りきれないっ!と悠夜は焦る。

バシバシと、苦し紛れにサンスベリアを振るい切断していくが、数が半端なく取りこぼしまくる。


そして、その間和葉は、ズリズリと蝕妖の方に引きずりこまれる。


「ゆうちゃん!助けてっ!!」


和葉が必死に手を伸ばして、抜け出そうとする。

「和葉ぁっ!!待ってろ!」と叫びながら、悠夜も細く伸びる蝕手を必死に斬っていく。


ザシュザシュ...、ザシュザシュ...

切れた蝕手が地面に落ちるたびに、煙を上げて消えていく。


しかし、斬りきれなかった蝕手が、くっつきものすごく太くなってしまった。

これが状況を悪くした。


あらかた細い蝕手を斬った悠夜は、標的を、和葉を絡めとっている太い蝕手に定めて、救おうとする。

思いっきり上から振り下ろして、貫通させる。

しかし、剣の長さが足りず、少し切れ目が入るだけで、すぐさま再生してしまった。


どうしよう、このままじゃ意味がない。

サンスベリアをもっと長剣にすれば、一太刀で斬れるだろうか?


何度剣を振るっても、蝕手の中程までしか届かないし、すぐさま再生してしまう。連続で速い動きで下から振り上げてみても間に合わない。

蝕手の集合体は、もはや土管のように太くて強靭になっている。


悠夜は、くそぉ〜と悪態をつきながら手に持っていたサンスベリアを本体に向けて投げつけた。

今のままでは、どうやっても切断できないので、あっさりと今持ってる武器を捨てることを選んだのだ。ついでに、本体に刺されば触れたところが少なからず浄化されるはずという打算もあった。


そして、ザンっと、サンスベリアが本体に刺さると、蝕妖が『グギャァっ!!』と一層大きく叫んだ。その結果、和葉を引き摺る力が少しだけ弱まる。


その隙に悠夜は特大の長剣を出すイメージを固めて、叫んだ。

指を頭上に掲げて、一気に神気を流す。


「『サンスベリア!』」


ドンっと、葉っぱが伸びて大剣になる。それを両手で掴む。

これならば、端まで刃を入れることが可能だ。


しかし、重くて体がふらつく。

これじゃ振り下ろせない...。

たとえ振り下ろせても力が入らない一撃では意味がないだろう。


ギリっと歯噛みして、悠夜はその場に大剣をすぐさま放り捨てた。


使えなければ意味がないからだ。

すぐさま自分が扱える大きさのサンスベリアを出して、削ることにシフトすることにした。


悠夜は、新たに自分に合ったサンスベリアを出した。

しばらくソレで、新たに伸びる蝕手を斬ったり、太い土管大の蝕手の表面を削ったり奮闘する。

途方もない作業に、背中に冷や汗を垂らしながら焦る。


しかし、それも和葉が急に苦しげな声を出し始めたことで状況が変わった。

ちまちましている場合じゃなくなった。


「ゆうちゃん...なんか...変。ど..どうしよう。」


見ると、和葉の顔面が蒼白になり、血の気がない。

どうやら、本体に吸収される前から精神を少しずつ吸われているようだ。


和葉の意識が朦朧としてきている。


「和葉!意識をしっかり持て!少しでも足を前に動かせ!!」


くそっ!!やばい!やばい!やばい!

和葉は、樹の巫女だぞ!

喰われたらヤバい!厄災だ!!

親父っ!何してんだっ!!こっちの巫女の方がヤベェぞっ!!


悠夜は、剣を振るいながら片手で首元のペンダントのギミックを弄り、鏡を出す。

しかし、光ってない。


「ちっ、使えない親父だな!!


神徒ならどうにかしやがれぇぇぇぇっ!!!」


悠夜は、絶叫した。

怒りに任せて、剣を振り下ろすが、やはり切り込みが中程まで入るだけだった。

絶望感が襲ってくる。


しかしその時、ザンっと鋭い音がして蝕手の土管が折れた。


えっ?と驚愕する悠夜。

いったい何が起きたのか?

折れた箇所を見ると、さっき悠夜が捨てたサンスベリアの大剣を振るい、蝕手をザクザク切断しまくってる鮫島さんがいた。

驚愕する悠夜は叫んだ。


「さ、鮫島さぁぁんっ!?」


「俺の和葉さんにぃ...、なにすん、っだぁぁっ!!」と鮫島さんが叫びながら、大剣を軽々と振るっている。

さすがゴリラだ。

あの重さの剣を、布団叩きのごとくひょいひょいと扱っている。


どういうことだと困惑していると、いつもの優しい声が後ろから聞こえてきた。


「悠夜!無事かいっ!?」


振り向くと天綺さんが、こっちに向かって駆けて来ていた。


え?天綺さんもいる?

天綺さんの後ろには、みんなの姿も見える。


悠夜は困惑しながらも蝕手に解放されて倒れ込む和葉を支えた。

そして、追いついた二人が、手を伸ばす。


「ほら☆和葉っちを、こっちに渡して。」

「...うん。僕たちが運ぶよ...。」


悠夜は、和葉を運ぶ体力がなかったので、ありがたく二人に和葉を託した。

チャラが、和葉を背負う。


「行くぞ!鮫島!」


それを見た天綺が、大剣を振り回す鮫島に声をかける。


「わかった!!とにかく、拓けた場所に行くぞっ!

行け!」


ダッと一斉に走り出す。

鮫島さんが、殿で走り出した。


「ギャハハ!それにしても鮫島は、すごいのう!野生の勘じゃけぇ。」

「ほんとそう☆」

「...うん、すごい...」


どうやら、俺と和葉の危機を察知したのは鮫島さんらしい。


どういうことかと言うと、俺が帰った後しばらくみんなはそこに留まり喋っていたが、急に鮫島さんが反応したそうだ。

曰く「和葉さんに危険が迫ってる!!」といきなり叫び、走り出したそう。

みんなも、何が何だかわかんないまま、面白そうだから鮫島さんについていった。

鮫島さんは、何かに惹きつけられるように右へ左へと迷いなく走り、気づけば蝕妖に襲われていた悠夜たちに行き当たったというわけだった。


なにそれっ!鮫島さん、凄すぎないっ!?


「鮫島は、そういうところあるよね。

勘がいい。

今だって拓けたところに向かってるけど、多分、巻き込む人が少ないところがいいって本能的に感じてるんじゃないかな。」

「あー、それはあるかもしれんのぉ。

誰かを守りながら、バケモンに対処するのは、骨が折れるけぇのぉ。

じゃけぇ、そんなことは鮫島は考えてなかったじゃろうがのぉ。」

「そうだよねぇ☆知らない人でも、バケモノに喰べられるのは見たくないよね〜。」

「...うん、同感...。」


ちなみに今向かってるのは、田園地帯にある小学校の校庭だ。

蝕妖の移動範囲外なら、それはそれでよし。仕切り直して対策を立てれる。

範囲内だったとしても夜明けまで逃げきるのには最適だと言うことになった。


「つーか、この葉っぱなんなんだ?

思わず道路に落ちてたから使ったが。

あのバケモノに触れたぞ?」


鮫島が最後尾から喋る。

鮫島はそれを肩に担いで走っていた。


「これが使えるのはわかるんだが、デカすぎて走りづらい。」


片眉をあげて不満をこぼす。

重くて文句を言ってるわけではない。

ただ単にデカくて邪魔らしい。

何度も言うが鮫島の馬鹿力、ゴリラ並。


「鮫島さん、それ捨ててもらってもいいですよ。使う時また出しますから。」


悠夜は、鮫島の力に苦笑しながら言う。

すかさず、天綺が言葉を拾う。


「出すって...。この大きな葉っぱ、悠夜が出したの?」


「はい。こうやって。」


悠夜は口元に指を持っていき、神気を吹きかける。

そして『サンスベリア』と唱え、指からナイフほどの大きさの葉っぱを生やした。


「「.....。」」


みんなが走りながら呆然と悠夜をみる。さもありなん。タネも仕掛けもないのだ。


そしてそんな空気をぶった斬ったのは、鮫島だった。


「ほぉー。じゃあ、これ要らないな。」


と言うと、肩から大剣をおろして、後ろの蝕妖に投げつけた。

後ろで『グギャア!』と、蝕妖が啼いた。

おかげで蝕妖の迫り来るスピードが落ちた。


「順応性、早いね。鮫島...。」


天綺さんが、苦笑する。


「ああ?悠夜が出来るって言ったら出来るんだよ!」


鮫島は、無条件に悠夜を信じた。

漢気あふれて、カッコ良すぎる。


「ふふ、確かに鮫島の言うとおりだ。

じゃあ、悠夜。それ、俺にくれる?」


天綺が、手を伸ばすので、悠夜は渡す。

サンスベリアを手に掴んだ天綺は、繁々と観察し、それが終わると手の中でくるりと回して、弄びだした。

ナイフのようにキレるにもかかわらず、余裕の表情でクルックルッ回している。


「これも、あのバケモノに効くってことでいいんだよね?

俺、ダーツ得意なんだ。

いくつか出してくれたら援護ができると思うんだけど。」


片目をパチンとつぶって、天綺はウィンクする。色気があって、そんな仕草が様になる。

天綺の飄々とした気負わない態度に、悠夜は頼もしく感じた。

なので、天綺にサンスベリアのナイフをいくつか渡すことにした。

その姿を見ていた辰は、すかさず自分もと提案する。


「悠夜!悠夜!

わしゃあ、拳が武器じゃから、なんかそのぉ不思議な葉っぱをな。手に巻きつけられないかのぉ。」

「辰っさん!あったま良い〜☆

悠夜、俺も、俺もっ!

手足につけられたら完璧じゃ〜ん☆」

「...じゃあ、俺も...。俺もあのバケモノ蹴っ飛ばしたい...」


うーん、手足に葉っぱをつけるかぁ...。

確かにそれならみんなも蝕妖に触れるようになる。

問題は、どんな風にどんな植物をつけるか?

みんなの腕を傷つけたくないからトゲや吸盤型の蔓は適さない。

若茎が巻きつくタイプが柔らかくていいか...。


代表的なものは、小学生の観察日記代表、“あさがお”である。

ベタつかないし、柔らかい。


悠夜は、口元に指2本を持っていき唱えた。


「『アサガオ』」


指からクネクネと茎がのびる。

それを、辰に向けて伸ばしていく。


アサガオが、シュルシュルと辰の手に巻きついた。

指一本一本にも丁寧に巻きついていき、手を開いても閉じても違和感のない絶妙な締め具合で巻かれていく。


「おおっ!ぶちええのぉ!

全く引き攣ったりせん。

悠夜、肘まで巻いてくれるかぁー?

防御なんか、わしゃ普段はせんがのぉ。バケモン相手には、そうも言うてられん。

捕まったら、廃人になるけぇのぉ。」


悠夜は、辰の要望通り肘まで蔓を伸ばした。

手と足のコーティングが終わった辰の出立ちは、戦隊ヒーローがロング手袋とブーツを装備した雰囲気になった。

ちなみに足底には、ゴム樹液を出して塗りつけ、滑り止め加工有りのハイスペック仕様にしてある。


同じ装備を律とチャラにも施した。


「おー☆良いね!!かっこいい〜☆」

「おお!われらも似合おうとるのぉ。」

「..けばトラ戦隊とチャラP戦隊だね...良いね...」


もちろん、背中にギンギラギンな虎を背負ったジャケットを着ている辰が、けばトラ。

ジャラジャラとアクセサリーをつけてパリP感満載のチャラが、チャラPだ。

2人とも一般人には見えない出立ちだったが、何故か着こなしている。ダサくない。

有名コスプレイヤーみたいにイケていた。

律の方も、なんとなくそんな人もいるよね?って言う感じくらいで済んでいた。

事故物件にはなっていなかった。


ちなみに鮫島も殴ったり蹴ったりしたいということで、アサガオを巻いてやった。

こちらは、まごうことなく事故物件だった。


「天綺さんは、どうしますか?」


「ははは...。ん〜、遠慮しとくよ。

俺は、肉体派じゃないから、これ(サンスベリア)だけで良い。」


絶対、嫌なんだろうなって顔で苦笑いをされた。

確かに、天綺が装備したら、おかしくなりそうだ。


それにしても、みんな説明全然求めてこないな?

なんで?

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