【備忘録】『おそろしの森』1周年を前にして思う事

赤木フランカ(旧・赤木律夫)

今後とも『おそろしの森』をよろしくお願いします!

 現状、私がカクヨム上に投降した小説の中で、『おそろしの森』が最も高い評価を得ている。もちろん、多くの人に私の作品を読んでもらえるのは嬉しい事だが、読者の反応に一喜一憂して物語を“破壊”してしまったことを後悔する気持ちもある。


 第一章のあとがきでも語っているが、『おそろしの森』は兄との決闘のために制作した作品だ。同じく物書きである私の兄は、常々私の作品について「描写が薄い」「感情が描けていない」「映像が浮かばない」とさんざん貶してきた。堪忍袋の緒が切れた私は「文句言うなら自分でやって見ろよ!」と言った。こうして、私がファンタジーを書き、兄が空戦モノを書くということになった。


 決闘に当たって兄は「見たことの無い世界観」「丁寧な情景描写」「美味しそうな料理」「※覚醒度の低い物語」という条件を提示してきた。世界観については後述するとして、残りの3つは一発で合格をもらった。特に意識した場所もなく、手癖で書いたのにも関わらず……


※「覚醒度」とは心理学の用語らしいが、兄は「興奮の度合い」といったニュアンスで使っていた。幻想的かつ心温まる物語が覚醒度の低い物語で、フウウウウウィイイイイ!! アイゲットワン!! スプラッシュザバンディッツ!! な物語は書くな、ということだったらしい。


 一方、兄が書いてきた空戦モノは、私の基準では酷いモノだった。専門用語の誤用はもちろんのこと、凝った表現をしようとして世界観とミスマッチを起こしていた。さらに、兄が書いてきた作品は某フライトシューティングゲームの二次創作だったのだ。私が今までやってきた努力をすべて否定するような態度で舐めプしてきたのだ。しかも、そのFSGの世界観に対する理解が低く、ファンである私からしたらゲームに対する侮辱にも感じた。


 こういった経緯があるため、私は『おそろしの森』に対してあまり良い感情がなかった。兄に認められたのは嬉しかったが、結局は兄が考える「正しい小説」の範疇にハマっただけだったのだ。この戦いの決着はまだついていない。


 カクヨムに投降したのも、作品の供養という意味合いが強かった。しかし、意外にも高評価をもらい、コメントまで書いてくれた読者もいたのだ。今までPVや応援こそついたが、言葉で感想をもらったことのなかった私は、完全に天狗になってしまった。


 調子に乗った私は、『おそろしの森』の続編の制作を開始する。だが、ここで問題にぶち当たる。読み切り短編と考えていたので、世界観の作り込みが甘かったのだ。


 『おそろしの森』の世界観を作るとき、私は兄があまり詳しくない地域をモデルにしようと考えた。同時に、安易に中世ヨーロッパにもしないようにした。その結果、クラリスの家はヨーロッパ風なのに、彼女が住む「おそろしの森」は日本の山奥にあるような「おそろしどころ」や「天神様の細道」のような禁域で、森の外にはアイヌ民族(北海道先住民)をモデルとした狩猟採集民が住んでいるというしっちゃかめっちゃかな世界観となった。また、生態系についても北海道の固有種であるシマエナガと、アラスカに生息するワピチやグリズリーが共存しているという混沌としたものになってしまった。


 また、歴史的な経緯についても全く考えていなかった。クラリスとその祖母が「おそろしの森」に暮らすようになった経緯について明かすつもりはなかったので、詳しく設定はしていなかった。狩人たちが松前藩のような政治体と交易を行っているという設定も考えたが、「覚醒度の低い物語」という要求から、幕末の動乱を連想させるような要素は排除することになった。


 このため、『おそろしの森』に登場する国家や地名は固有名詞が設定されていない。「西の国」だとか「南の街」といった風に、最低限の方角しか考えていないのだ。


 続編の制作にあたって問題となったのは設定の杜撰さだけではない。より根本的な問題として、キャラクターの物語が終わってしまったので、これ以上動かしようがなかったのだ。

 基本的に、私は世界観・テーマをベースとして物語を作る。キャラクターは世界観・テーマを伝えるためのロボットに過ぎず、基本的に使い捨てだと考えている。ブーメランは武器だ。戻ってくる必要はない。


 『おそろしの森』においては、「一人ぼっちの少女に家族を与える」というテーマがあり、それはクラリスとアテルが結婚することで達成されてしまった。第一章の時点で彼女たちの物語は完結しており、用済みだったのだ。どれだけ世界観に謎が残されていようと、同じキャラクターでもう物語を作ることはできない。


 続編を書くには新しいキャラクターを投入するか、既存のキャラクターに「IF」の可能性を付与して再始動する必要があった。その結果、第2章でエミリーとソフィーという新キャラが登場し、アテルが結婚という選択について問い直しをしていくという展開になった。


 作者の気まぐれで閉じたはずの物語を再び動かしてしまった事は、今でも後悔している。再始動させた以上は、彼女たちの物語を結末まで描き切らなければいけない。それが私のケジメである。


――以上――

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