トリと一緒にお宝探し

にゃべ♪

水の都でお宝探し

 私は相良水穂。どこにでもいる普通の中学2年生。ある日、帰宅したら丸っこいぬいぐるみの鳥のようなトリって言う謎の生き物が現れた。トリは「一緒に宝探しをするホ」とか言って、無理やり私を自分の目的に突き合わせる。

 おかげで平和だった私の日常はどっか行っちゃった。これからどうなっちゃうの?


 私達は水の都の水路を舟で移動している。漕いでいるのは10歳の女の子。地元の子なので迷いなく上手に操船している。おかげで私は安心して街の景色を楽しむ事が出来た。

 ああ、こんな旅をずっとしてみたかったんだよね――。



 発端は私が読んでいた雑誌だ。部屋で寝転がってイタリアの風景が載っているページを眺めていたら、そこにトリがぬうっと覗き込んできた。


「何?」

「いい景色ホね」

「ああ~旅行したいなあ」

「行けばいいホ」


 トリがそう言った瞬間、またしても景色が変わる。自室から野外に来た事で、目が慣れなかった私はまぶたを押さえた。


「ンモー! また勝手に転移するー」

「善は急げホ」


 しばらく休んで気持ちが落ち着いたところで、私は改めて周囲を見渡す。そこは、さっきまで雑誌で見ていたイタリアの風景にそっくりだった。

 私はトリをバンバンと叩きながら、この状況に浮足立つ。


「イタリアに来ちゃった? すごいじゃん」

「違うホ。この国の名前はイルシィって言うホ」

「なーんだ、異世界かあ。残念」

「きっとこの街にもお宝があるんだホ!」


 ガッカリする私に対して、トリはむちゃくちゃ鼻息が荒い。本当にお宝にしか興味がないんだな。本物のイタリアでない事はショックだったけど、このイルシィって街もイタリアに負けないくらい美しい。イタリアと勘違いするくらいそっくりなのだ。

 なので、私は割り切ってこの街を楽しむ事にした。


「折角来たんだし、色々歩いてみよっか」

「そうだホ。お宝を探さなくちゃホ」


 お宝目当てのトリをうまくなだめて、私は観光を決め込む。お宝探しの体であちこちを歩き回った。小腹が空いたらアイスを買ったり、美術館みたいなところで美しい芸術作品を鑑賞したり。

 歩きまわって疲れたらレストランで食事。メニューをお任せにして運ばれてきたのは、これもまたイタメシっぽい感じの料理だった。


「うんまうんま」

「お宝の手がかりが全然見つからないホ」

「そうだね~。残念だ~」

「全然残念に聞こえないホ」


 トリの嫌味をスルーして、私は日本ではまず見られないヨーロッパっぽい建物をじっくりと眺める。ああ、いいなぁ。素晴らしいなあ。

 たっぷり食べてお腹もいっぱいになったので。私達はまたお宝探しと言う名の観光を再開。トリは料金を払って後から付いてきた。


「トリはさ、なんでお宝が欲しいの?」

「冒険が好きだからホ」

「冒険にはお宝が必要?」

「当たり前だホ! 対価のない行為ほど虚しいものはないホ!」


 トリの力説を私はまたスルーする。だって今の私のお宝はこの旅自体だもん。異国情緒こそが心の栄養、思い出と言うお宝なのさ。ただ、きっとトリには理解出来ないと思うので、この考えは黙っていた。

 街をあちこち回って満足した私は、廻れ右をして後ろからついてきていたトリに向き合う。


「じゃあ満喫したし帰ろっか」

「は? 何言ってるホ?」

「ん?」

「お宝をまだ見つけてないホ!」


 どうやら、まだトリはお宝をあきらめきれないらしい。私は、そんな相棒の態度を見て口を尖らせる。


「いいじゃん別に」

「よくないホ!」

「私は別にお宝なんてさあ……」

「あのっ、地図を買ってくださいっ!」


 私達の口論に割って入って来たのは幼い感じの女の子。突然別角度からの情報を差し込まれて、私達は一瞬沈黙する。そしてすぐに女の子に注目した。


「あの、お宝が欲しいんですよね? このお宝の地図買ってください。この街にあるお宝が載ってます」

「こ、これだホー!」


 降って湧いたようなこのイベントにトリは大興奮。私に相談もせずに速攻で女の子に硬貨を手渡す。早速地図を広げたので、私も覗き込んだ。


「これがこの街の地図? 複雑でよく分からないね」

「困ったホ、徒歩で行けない場所のようだホ」


 地図音痴の私と違って、トリはしっかりお宝の場所を把握しているようだ。とは言え、今のままでは辿り着けないらしい。トリは飛んで辿り着けるんだろうけど、私も同行させたいんだろうな。

 とにかくその場所に行けないと困っていたところで、私達の視線はまだそこにいた女の子に注がれる。


「良かったら案内してくれないかな?」

「いいよ」



 こう言う経緯で、私達は水路を進んでいたのだ。水上から観る景色は、地上とはまた違って中々に趣が深い。スマホを持ってきていたら写真を撮りまくるんだけど、今手元にないのが本当に残念だ。記憶のカメラにしっかり保存しなくちゃ。

 女の子の名前はレイレちゃん。名前を聞いた時にキョドってたから本名かどうかは分からない。彼女はお小遣いが欲しくて、家にあった地図を売ろうとしていたらしい。


「でも誰もお宝に興味がなくて……」

「そっか~」


 私達が舟上で世間話をしている間も、トリは地図をにらみながらルートが正しいかどうかを確認している。この景色もあれじゃあ楽しんでないね。勿体ない。

 やがて、水路は行き止まりに辿り着いた。地図でも間違っていない。もしかして罠だった? しばらくすると、私達の周りに荒くれ共の乗った舟がいくつも現れる。


「よーし、ちゃんと連れてきたなあ、褒めてやるぜ」

「ちょ、やばくなってきたホ」

「あのくらい、何も怖くないじゃん」


 私は光魔法を炸裂させて舟を沈めてやった。荒くれ者共は顔を青ざめさせて泳いで逃げ去っていく。落ち着いたところで、私はレイレちゃんの顔をじっと見つめた。


「騙したの?」

「ううん、力を試したの」


 彼女はそう言うと指を規則的に動かした。すると、目の前の壁が動いて水が流れ始める。どうやら地下水路があったようだ。舟は、そのまま街の地下部分に向けて進み始める。

 この状況に、レイレちゃんは当たり前のような顔で船を漕いでいた。


「あなた、一体何者なの?」

「秘密」


 名前も偽名のようだし、彼女の裏は深そうだ。私が警戒する中、逆にトリの目は輝いていた。地下水路は独特の雰囲気を持っていて、まるで古代文明の遺跡のような感じだったからだ。


「すごいホ! この文化様式はタータルのものみたいだホ」

「タータル?」

「すごい文明を持っていたけど、戦争に負けて滅んだんだホ」

「詳しいんだね」


 舟はやがて水路の終着点に辿り着く。そこにある何かが見えてきたところで、レイレちゃんはつぶやいた。


「そろそろお宝に着くよ」

「待ってましたホー!」


 お宝と聞いて、トリの興奮がマックスになる。しかし、見えてきた何かかがハッキリしてきたところで私は首を傾げた。


「これが……お宝?」

「そう、エネルギー集積装置のゲイン。これを直しに来たの」


 レイレちゃんがゲインと呼ぶもの、それは古代の動力装置的な機械。中央には大きなクリスタルがはめ込まれていて、怪しい紅い光を放っている。何かヤバい雰囲気だ。

 私が身構えていると、レイレちゃんが叫ぶ。


「来るよ、ガーディアン。あいつに勝って!」

「えっ?」


 理解が追いつく前にそいつは現れた。全長3メートルくらいで足のない遮光器土偶みたいなやつ。フワフワと浮遊しながら近付いてくる。どうやらこのゲインを守るロボットのようだ。異世界モノ的な言い方をすればゴーレムかな。

 とにかく、私達はこいつに勝たないといけないらしい。


「なんちゅー強制イベント!」


 私は右手をかざして光魔法をぶつける。お約束のようにそいつは無傷だった。


「ならば、闇魔法!」


 今度は左手をかざして、光とは正反対の属性の魔法を放つ。普通ならこれでダメージを与えられるはずだった。けれど、ガーディアンは闇魔法すらスルーする。


「ちょ、魔法効かないんだけど!」

「逃げるホーッ!」


 トリは焦るものの、狭い舟の上で逃げ場なんてない。ガーディアンはある程度まで近付いたところでビームを発射した。狙いは当然私だ。さっき攻撃したからね……。


「キャアア!」


 私は速攻でしゃがみ込む。直後にビームのまぶしい光は感じたものの、肉体的なダメージは何も感じない。恐る恐るまぶたを上げると、レイレちゃんが私の前に立って両手を広げていた。


「良かった……無事で」


 無防備で勇敢な女の子はここで倒れる。それを見た私は、頭の中で何かが弾けた。


「こンのおおおお!」


 私はトリを両手で掴むと、そのくちばしをガーディアンに向ける。


「トリ砲、発射ーッ!」

「ホー!」


 トリの口から発射されたビームがガーディアンを貫通。勝負はあっさりとついてしまった。私はすぐにレイレちゃんの顔を覗き込む。


「大丈夫?」

「有難う」


 そう言うと彼女は気を失い、体から何かが抜けていく。それがゲインのクリスタルに吸い込まれると紅い光が青くなり、不穏な気配が消えていった。


「これが目的だったんホね」

「みたいだね」

「……ふあ?」


 ここでレイレちゃんが意識を取り戻す。けど、少し様子がおかしかった。


「ここは?」

「レイレちゃん?! 良かった。大丈夫?」

「レイレって誰? リサの知ってる人?」


 彼女からレイレちゃんの人格が消え去っている。どうやらリサと言うのが彼女の本来の人格らしい。私が説明に困っていると、ガラガラと壁が崩れ始める。


「リサちゃん、舟は漕げる?」

「うん」

「じゃあ、まずは脱出しよう!」


 こうして私達は何とか無事に地上に戻る事が出来た。もう夕方だったので、リサちゃんとはここでお別れだ。


「それじゃあお姉ちゃん、さようなら」

「うん、元気でね」


 見送って安心していたら、しれっと私達も元の世界に戻ってきていた。


「最後はヒヤヒヤしたけど、楽しかったからいっか」

「ちょ、待つホ」

「どしたん?」

「またお宝が手に入らなかったホー!」


 今回の冒険は色々謎も多かったけど、気にしても仕方がないので私は忘れる事にする。出来れば、今度はもっと普通の冒険がしたいなぁ。

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トリと一緒にお宝探し にゃべ♪ @nyabech2016

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