殺人交差
淡雪 隆
第1話
一 思い出
『早いもんだね、もう三回忌を迎え たのね』
『あぁ、お前の仕打ちは忘れられな いよ』
『何よ! それはお互い様でしょ』
『何てったって、今日は、三回忌で あり、俺達の結婚記念日だからな』
?・?・?・?・?・?
チャコ(佐久間久子)は、目の前にある位牌に囁いた。今日はチャコの夫リョウ(佐久間亮一)の三回忌だった。更に二人の結婚記念日だった。
# # # # # #
-貴方を殺して満二年経つのね-
チャコと出会ったのは、七年前の大学のキャンパスでだった。チャコが一人で芝生をはったキャンパスの木陰で、座って本を読んでいると、
”やあ、何の本を読んでるの? あれ、君たしか同じクラスの娘だよね? 三学年経済学部の経営科三クラスだろ"
"はい、そうですが。貴方もですか?”
”そーだよ、俺は佐久間亮一ってんだ、みんなはリョウって読んでるけどね"
"そーなんですか。私の名前は影山久子です。友達のみんなからはチャコって呼ばれてます。今私は岳山ゼミの経営学論を読んでました”
”へー、岳山ゼミに入ってるの。あそこの教授は厳しいだろ"
何て意味の無い、他愛もない話をしながら時を過ごすうちに次に会う約束をした。これって -付き合う- ってことなのかな? 良く解らないうちに彼のペースに乗ってしまった。スマホの番号やメルアドを交換した。結構遊び人と言う噂で、新しもの好きで、面白い人だったハンサムでも無し、スニーカー履きで、細身で色の白いちょっとロン毛で、ジーパンに黄色い半袖のポロシャツを着ていた。私は美人でもないし、身体も小さくてとてもモテるタイプの女ではなかったのにリョウはどうして私に声をかけてきたのだろう。今まで声をかけられたこと等無かったので、少し慎重に構えてしまった。
それこそ何となくリョウと付き合いが続いて、色々なところへ遊びに行った。二人のなかも深くなり。好きと言う感情を初めて異性に持った。そして、三ヶ月目のデートで初めてのキスをした。更にその年のクリスマスの夜遂に身体を許してしまった。初めての事で恥ずかしかったし、痛かった。私の初めての男となった。そして卒業の年を迎え、リョウは練馬区の職員に受かり、私は池袋に本社があるフローラル化粧品会社に就職が決まった。二人の交際は続いていた。二人とも就職して一年ほど経ち、リョウから電話があり、
"今夜会えないか?”
”今夜ね、良いわよ。待ち合わせはどこ?"
"午後の六時にTVの前でどうだい”
★(TVの前とは、JRの改札口を出て少し西口よりに歩くと、壁一面に普通のTVが嵌められてあって、よくみんなの待ち合わせ場所となっている)
私は会社の近くなので、十五分ほど前に待ち合わせ場所に着いたが、リョウは西武鉄道に乗っていくらも待たないうちにやってきた。
”やあ、チャコ! 待ったかい"と手を振って駆け寄ってきた。
"ううん、私も来たばっかりよ。どこ行くの?”リョウは、
”まぁ一緒に飯でも食べようぜ"と言って、私の真横に立ち手を引きながら東口へと連れていく。そして、東口の通りを挟んだところにある洒落たビルに入っていった。そのビルの中のレストランは高級店ばかりで、
"リョウのやつ、無理したな”そう思うと、苦笑いが出た。
”このビルの二階にフランス料理店を予約してるから、高級店だぜ"と得意気にリョウは笑った。店にはいるとリョウは得意気に、
"予約している佐久間って言うんだけど”そう言うと、ボーイはかしこまりました。と言って、二人を窓際の席に案内した。
”予約してあった料理を運んできてくれる"とボーイに言った。ボーイは直ぐに引っ込み、後は女性のウエイトレスに代わった。
前菜に始まり次々と料理が運ばれてきた。チャコもリョウも、旨い旨いって言って全てのコースをたいらげた。
"あー、お腹いっぱい。もう食べれない”
”俺もだよ、こんな旨いもの食ったのは初めてだよ"リョウがお腹をさすりながら言った。ワインも少し入っていたので、
"ねえ、チャコもう少し飲んでいかないか。最上階に夜景のきれいなラウンジバーがあるんだ”私も酔っていたので、
”そうね、少し飲み足りないわね"
"じゃあ、行こうよ”とリョウはチャコの腕を掴んで、最上階のラウンジバーに行った窓際に席を閉めると、
”俺、バーボンのダブルを下さい。チャコは何を飲む?"
"そうね、わたしはウイスキーの水割りでいいわ”と、二人でのみ始めた。二杯目を頼んだとき、リョウは急に真面目になって、
”チャコ! これを受け取ってくれ"と宝石箱を差し出した。チャコは躊躇ったが、
"わ、私でいいの? 本当に。うれしいわ”
”そうかい、有り難う! ホッとしたよ"本当にリョウは嬉しそうだった。
と言うことで、私たちは結婚した。これが五年前の今日だった。ただ、婚姻届を二人で区役所に提出し、そして、これが殺意の始まりとなるとは、この時誰も考えなかった。
二 動機?
リョウが練馬区の職員であり、チャコが池袋にある化粧品会社の社員ということで、西武鉄道沿線の石神井公園に住むことになった。練馬区役所の本庁は練馬駅に有り、リョウが通勤するのは、石神井公園の支庁であった。そこで石神井公園の賃貸マンションを借りて住み始めた。リョウは休みの日にドライブするのだと中型の車を買った。
さて、新婚の時はよかったが、暫くすると、相手の悪いところが目立ち始めた。リョウの女癖の悪さが出始めたのだ。区役所の職員には若い女性が沢山いて、勿論愛らしい娘、綺麗な娘と、沢山いる。役所の中は不倫関係が他の組織と比べて異様に多いと言われている。あまりにも職員数が多くて、職員の間でも見たこと無い人もいると言う噂で、勿論、定期的に異動はあるのだが、それだけ職員が多いと言うことであり、セクション別の行事も多く、不倫をする下地が出来ているのである。例えば、セクションごとの歓迎会や送別会などの飲み事、またセクションごとの慰安旅行等。その機会は多い。
更に、リョウは酒が入ると暴力も振るい始めた。まだ結婚して、半年あまりと言うのに、リョウのスマホには矢鱈と電話やメールが多く、車にたまに乗ると、私と違う香水の匂いがすることもあった。明らかにおかしい。人のスマホを覗き見るのは、人として出来ないし、リョウに詰め寄っても違うよ、とか勘違いするなよとシラを切られた。不倫をしているのは間違いないだろう。チャコにも限界があり、離婚を申し出ると、
”イヤだよ、公務員にとって離婚すると言うことは将来に響くからな。絶対に別れない!"
"だったら、浮気は止めてよ❗”と泣いて頼んでも、
”馬鹿だな。結婚してるから、浮気をするスリルを味わえるんだよ"って吠えていたよね。
そして、言い合っていた時、チャコに高校時代の同窓会の通知が来た。
"懐かしいな~、高校の時の同窓会の通知だ。チャコは群馬県の公立高崎高等学校と言って、男女共学校の卒業生だった。関東周辺にいる同窓生に通知を出しているみたいだ。
”来週の金曜日じゃない。しかも場所は原宿のホテルだ。絶対に行きたい"
と思い、リョウにも同窓会に行くことを話した。
"そうだな、チャコも暇だろ。友達に会ってこいよ”と言うことで、その日、着飾って原宿まで出掛けた。ホテルの会場に受付があって、懐かしい友達が沢山来ていた。
”ちゃこ~、元気にしてた"と高校時代の親友と懐かしくて、会話が止まらなかった。意外と独身も多くて、
"えっ、なに、チャコは結婚してるの、しかも新婚さんじゃない”
チャコは顔を赤くして、
”まだ半年程度だけど、もう話が合わないのよ"と不満ばかりを喋り始めた。と、その時高校時代の憧れの君が来ているのに気が付いた。
"あっ、徳重康男君だ! 相変わらずかっこいいわね”チャコはうっとりしていた。
”チャコ! 新婚さんがいいの? チャコは徳重さんに夢中だったもんね~、彼はね東京の大一商事会社に就職してて、原宿に会社があるらしいわよ"
と、肘で親友の智子がつついてくるのを無視して、徳重さんから目が離れなかった。
そして、同窓会も打ち上げの時が来て、
"はい、みんな集合! 写真を撮るわよ”と、幹事の智子が言った。みんなが雛壇に登り、写真屋さんがカメラを構えている。チャコもみんなと並んだがなんと隣に徳重くんが立っていた。しかも誰にも判らないように、チャコの手を握ってきた。チャコはドキドキキュンキュンして手が汗でじっとりとして来た。
”な、何で! 徳重くん誰かと間違えてるよ"と、ドキドキしながら徳重くんを見上げると、徳重くんはチャコを見てウインクをした。えっ、えっ、夢なら覚めないで、と顔が真っ赤になった。
”さて、それでは二次会はにまいりま~す"智子が言った。何人かは用事があると言うことで、人数は少なくなった。残ったのは十人くらいかな。二次会はカラオケ店で、生ビールを飲み、みんなは歌に夢中だった。徳重くんもいて、しかも私の横に座っていた。チャコは心臓がバクバク鳴っていた。しかもチャコの左手を握りしめ顔を寄せてきて囁いた。みんなは歌に夢中で、うるさくて叶わない。でも徳重くんは何とか聞こえるような声でチャコに寄り添い言った。
"合いたかったよ! 影山さん。実は俺、高校の時から君に注目してたんだよ。今日は最後まで付き合ってよ”って言って、再度手を強く握り締めた。結局、三次会まで付き合って最後は二人で渋谷の飲み屋で飲んでいた。
”いいのかな、こんなに酔っぱらって、あの~、徳重さんは帰らなくていいの? 奥さんが待ってるんじゃない"
"俺? 俺は独身だよ。そろそろ出ようか?”と言われ、一寸足下が覚束なくてフラフラと徳重くんに連れられて、歩いていると、いつの間にかホテル街を歩いていた。
”なぁ、チャコ! いいだろ"半分強引にラブホテルに連れ込まれた。そしてやっぱり、相手が憧れの人だったので一緒に入り、身体を許してしまった。ほてった身体でシャワーを浴び、何とも言えない満足感に痺れていた。
"あ~あ、やっちゃた。"でもその新鮮さに満足していた。もう徳重さんを忘れられない身体になってしまった。もう嫌われたくない。私だけの徳重さんにしたい。彼は独身だと言ってた。
"ねえ、もう私貴方を離したくない。私と結婚して”
”なに言ってるんだい、チャコは結婚してるんだろ"
"直ぐに別れるわ。離婚する。そしたら良いでしょ”
”………そうだな……そうなったら考えても良いな"と言われて、戯れ言とも判らず、ヨシッ! 絶対に離婚してやる。と決意した。そして、連絡先を交換して。ホテルを出てからお互いに別れた。帰りの電車の中で考えた。
"リョウは、絶対に離婚しないだろうし、・・・でも梶山くんは諦めたくない。ん~~~ん、そうだリョウがいなくなれば良いんだ。でもどうやったら”と悩みながら、結論は出ず。家に着いた。
それからどうすれば居なくなるかと考えていた。その間もたまに梶山くんから連絡があり、逢瀬を半年以上重ねた。リョウも言ってたスリルというものが判ってきたように感じた。もう手段はあれしかないわね。チャコは決意を固めた。
-女は惚れた男のためだったら何でも出来るんだから❗-
三 殺人交差
チャコの結論は、リョウを毒殺することだった。ナイフなんかで刺すと出血が激しくて、後が面倒だ。それよりも、毒殺して、遺体を何処か見つからないところに隠せばいいのだ。そして警察署に行方不明届けを出せば良いんだ。これがチャコの決意だった。
一方、リョウもチャコの様子がおかしいのは気づいていて、
”チャコの奴、俺を裏切ってるのは間違いないだろう。このままでは、俺が殺られかねない"と二人とも同じことを考え実行することにした。リョウは裏サイトで錠剤の毒薬を手入れ、チャコはやはりサイトで粉状の毒薬を手に入れた。リョウは決行日をもうすぐ来る結婚記念日にしようと決めた。
"おい。チャコ! 明日は俺たちの結婚記念日じゃないか!”
”それがどうしたのよ、リョウ!"
"明日、俺がシャンパンとケーキを買って帰るからお祝いをしようぜ”と言い出した。チャコはチャンスだと思った。
”そうね、分かったわ。料理でも作って待ってるわね。ローソクは三本よ"
リョウはOKサインを出した。
-よし、明日が勝負だ!-
チャコは気持ちを高めた。
そして、翌日夕方、リョウがシャンパンとケーキを買って帰ってきた。
”もう少し待ってね、料理が出きるから"と言いながら、ケーキにローソクを三本立てた。リョウはワイングラスを二つ取り出し、向かい合わせにセットした。チャコは出来上がった皿を食卓に並べ、真ん中にケーキを置いた。
"リョウ、出来たわよ。ろうそくに火をつけて”
”あぁ、判った”その前にシャンパンを開けようとシャンパンの詮を開けるとシュポんと大きな音がして、詮がテーブルの下まで転げて落ちた。リョウは二人のグラスに半分ほどいれると、リョウはライターを取りに上着を置いた隣の部屋に取りに行った。チャコはチャンスとばかり、小さな袋をちぎり中の毒薬をリョウのグラスに入れた。
”おい、チャコ! テーブルの下のシャンパンの詮を取ってくれよ"チャコは身体をよじるとテーブルの下に潜った。今だ! リョウはポケットから錠剤を一つ取り出しチャコのグラスに落とした。
"では、ローソクに点火! ”そして部屋の電気を消して、少し眺めたあと一気にリョウが吹き消した。そして電気をつけ、
”三年目を記念して、カンパーイ"と二人は軽く手を上げかチャリとグラスをならし、二人で一気に飲み干した。
# # # # #
マンションの管理人から警察署に変死の死体があると言う通報を受け、石神井書から一課強行班の刑事が飛んできた。刑事はリョウの部屋の前まで来ると、既に鑑識が部屋の中を調べていて、終わるのを待っていた。暫くして鑑識係長が、
「終わりました。入って良いですよ」と言われて、部屋にはいると二人の男女が死んでいた。その様子を見て、
「こりゃ心中かな?」しかし、鑑識係長が刑事に言った。
「それが少し変なのですよ。これは二人のポケットに入っていたんですが、二人とも違う毒薬が入ってたんですよ」それを聞いた刑事は、両腕を組んで、首を捻った。はて?・・・・
★
今まで読経をしていたお坊さんが、急に読経を止めた。リョウの両親は何事かと、お坊さんを見ると、
「二人の位牌が怒って震えている、まだ成仏出来てないみたいだな」そう言って、更に大きな声で、読経を続け始めた。
(了)
殺人交差 淡雪 隆 @AWAYUKI-TAKASHI
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