貧すれば鈍する
定食亭定吉
1
都内に移転したものも、無職となった鈴木正吉。移転先の都内某市のゴミ袋は有料だ。
移転した理由も、都内に行けば、きっといい事があると、友達から言われた安直な理由だ。だが、都下とはいえ、家賃も六万円と正吉にとっては決して安くない。貯金も移転資金で、ほぼ飛んでしまう。
ある日、ゴミ袋が有料なら、ゴミを燃やすことを思い付いた正吉。
そして、アパート敷地内の庭で燃やす。それが惨事を招くとは思わなかった。
風もなく、順調に燃焼される紙類。子供が悪さをしている感じだが、正吉は二十六歳。だが、燃え跡がブロック屏に付着する。しかし、それを蔑ろにする。
ある程度、紙類を灰にし、ゴミ削減が出来た。そして、部屋に戻る正吉。求人誌を見ながら、コーヒーを飲み、リラックスしていた。
(コンコン)
ドアのノック音。それに応答する正吉。それに応答する正吉。素直にドアを開ける。
「こんにちは。何か、ブロック屏が黒いけれど、心当たりない?」
大家の日垣。たまに物件の見回りに来る。中年女のヒステリックな感じだ。
当然、シラを切る正吉。日垣は半信半疑に退散した。
これに危機感を覚え、自転車であてなく逃亡する正吉。取り敢えず、一時間程すれば、事なきを得られると思った。
その時、携帯の着信音がする。知らない番号だったのでスルーしようと思ったが、さっきから、一分ぐらいコールしているので仕方なく、覚悟して出る。日垣からだ。アパートの庭に、不完全燃焼した紙切れに、正吉のフルネームと、電話番号の記載があったようだ。
日垣より、アパートへ戻るよう命令された正吉。血が抜けたような身体で、アパートへ自転車をこぐ。しばらくして、アパートに戻ると、目を伺うような光景だ。
警察、消防と現場へ来ており、燃え跡を撮影している。まるで、刑事ドラマを目にしたようだ。
「鈴木君?」
「はい」
「大家さんに謝りなさい!なぜ、やった?」
刑事から詰められる正吉。
「ゴミ袋を買う、お金がなかったので」
「みんな、お金を払っているのだ。一緒に謝罪してやるし、この件は始末書で済ませてやるから」
その後、所轄警察署宛に始末書を書く正吉。
そして、刑事と一緒に警察、消防、大家と謝罪に回る。
「こんな事で追い出すのも残念だからね」
お金がないのなら、ウチの会社で稼がせてあげるから、それに家賃も天引きにすれば、お互いメリットあるしね」
予想外だった正吉。
「どんな仕事ですか?」
「それは言えないは。あなたもシラを切ったのだから」
その言葉に反論出来ず、日垣の会社の仕事を甘受するしかなかった。
貧すれば鈍する。自らの愚かさを憎んだ正吉。
「今から支度して行けるかしら?」
「今ですか?」
心の準備が出来ない正吉。
「嫌なら、退去してもらってもいいのよ」
弱味を握られ、仕方なく了承する正吉。
「では、部屋に戻って、外泊出来るようにして!ここで待っているから。交通費の心配は不要だから」
さすがに怪しくなり、逃亡しようにも、部屋のすぐ前に隣アパート。逃げ口は一箇所しかない。
これは自分の犯した罪を償うべきか?貧すれば鈍する。せめて、最初から嘘を付かなければ良かったのかも知れない。
社用車はカーナビがない。
貧すれば鈍する 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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