まねき猫パ~ンチ! 😸
上月くるを
まねき猫パ~ンチ! 😸
いまどき、こんなにレトロなお店があるんだね。😚👽
昭和というより戦前の雰囲気なんですけど……。👺🤡
だれもがそう思うにちがいない小さな酒店は、表通りを入った抜け道にあります。
むかし栄えた商店街はどこもとっくに店仕舞いしているので、ぽつんと1軒だけ。
いつも渋滞する場所なので、退屈したドライバーの目は自然に店内へ導かれます。
発酵食品といえど酒にも賞味期限があるだろう……そんな懸念に駆られて。(笑)
*
店主は清潔好きと見え、引き戸の硝子は曇り一つなくピカピカに磨かれています。
ついでに赤い郵便受けも拭いているらしく、屋号入りの几帳面な店名がくっきり。
そこから吸い寄せられるように視線を店内へ泳がせれば……おやおや、これはまたなんとしたことでしょう、酒店だというのに、入口付近には動物の小物がびっしり。
たとえば「開運」の襷を掛けた笑顔の猿、腹筋100回を強制されたあとのように顔もお腹も萎んでいる狸(笑)、折り紙の兎と亀、正体不明な置き物……そんなものが大吟醸の3本セットの箱入や焼酎の紙パックの前に、堂々と鎮座しているのです。
なかでも圧倒的な存在感を放っているのは、むっちりとよく肥え、眼光鋭く店内を
でも、これまた不思議なことには、だれひとりとして店主のすがたを目撃した人がいないので、わざわざまわり道するドライバーまでいると、もっぱらのうわさ……。
****
ある晩、回送の表示を出して脇道を通ったタクシー運転手はハッとしました。🚗
胡散くさげな男に太った招き猫が痛烈な猫パンチをお見舞いしていたのです。😾
タクシー運転手が見たのは、一方通行の信号待ちのほんの短いあいだでしたので、メイン通りの法律事務所の瀟洒な二階建てレンガ造り、その三角屋根の上の風見馬と風見犬が脇道の酒店の招き猫とひそかに交信していることには気づきませんでした。
70余年前の愚かな戦争の象徴として、高い場所から街を見守っている馬と犬は、若いころは評判の別嬪さんだったものの、現在はこぞって年老いて病気がちの姉妹が細々と営む老舗の酒店に怪しい客が近づくと、信号で招き猫に知らせていたのです。
*
そんな事情はまったく知りませんでしたが、10余年前の東日本大震災で被災し、家族を連れて見知らぬ地方に移住して来たとき、古い伝統の一方で異文化にも寛容な風土に歓迎された運転手さんは、ひどく愉快な気持ちになって車を発進させました。
まねき猫パ~ンチ! 😸 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます