KAC20226 焼き鳥事件

ちょせ

はじまり

その日東京の気温は38度で、まだ1月だというのに温暖化による異常気象もここまできたかという感じだ

世界中の科学者がこぞって叫んでいた温暖化、聞けば終末時計なるものも既に残り1秒といった有様だということだ


だけど17歳の僕の日常は大して変わりはない

1月の気温が一桁だったのはもう5年も前の事で、子供だった僕は最初暖かいならいいじゃんなんて思っていたくらいだ

それが毎年どんどんと気温があがっていって今ではもう40度に迫ろうとしている

この調子では来年あたりはそうなっていてもおかしくないなと僕は思う



西暦204X

世界は加速度的に滅んで行っている

僕が生まれた時は、その気配はあったそうだけど親もまさかといった感じだったらしい

物心ついた時には北極とかの氷ももうほとんど残ってなかったし、その溶けた氷から大量のメタンが出て温暖化が加速したとかそういうことを学校の授業で聞いたくらいだ

その結果気候変動はとどまることを知らないとみえる


僕はいつもの様にリュックを背負って、その上から冷房服を羽織る

これがないと外にでるのもつらい

厚底の、これまた冷房機能付きの靴を履いて外に出るとそこら中から大きな音が響いてくる


元東京都の片隅、そこが今の東京だ

直下型大地震が襲ったのは10年前だった。僕はとにかく怖かった事を覚えている

都内の大半は破壊と津波でぼろぼろになった。神奈川や千葉も当然その影響を受けて日本という国の中枢はどうにかなってしまっていたのだがなんとか復興を始めている

それでもこの地に、東京にとどまり続けるというのは冷静な判断を下しても実行することができないという事なんだろうと思う。


簡単に言えば地震が来る前に首都移転とかしておけばよかったのに。と、本当に簡単な話なんだろう

でもその地にある既得権益を離したくない連中の思惑通りに、結局首都移転は成されていないしその結果被害を被ったのはただの一般人だった


ああ、本当にばかばかしいと僕は思う

今行われている都市そのものをドームで包むという計画もどうにかしていると思う

西日本の温暖化はそこまでではないので、そちらでこの計画をすればいいと思う

だけれども意地でもこの地を離れたくない人間が大勢いる

だからこの地を大きな日傘で囲ってしまおうとしているのだろう



学校へ通うことも、今では年に4度だけだ

リモート授業でほとんどすんでしまうから、家から出ることも無い

それでも学校に通わないといけないというのは本当に理不尽だ


年4回の学校はそれなりに楽しみだったりするのだけれどね


今日の登校はなんでも去年から始まった高尾山掘削計画の視察、だそうだ

東京の地下はもうぼろぼろなので掘り進めることも危ない

地震の後地下鉄だとか、そういった施設はすべて埋まってさらに地盤沈下も相当起きた

だから山をくりぬいて使おうなんてどうにかしている


学校へ通うまでの間、南国にしかいなかったとされる虫だとか植物がそこら中にある

まさに東京は今、ジャングルの様になっている

それでも手入れされた道は歩きやすいし、その景観も嫌いじゃない


全身を覆う様な冷房服もかなりの高性能になっているから、熱いのはほとんど感じないしね。周りにもおしゃれなデザインの冷房服を着て歩いている人も大勢いる。

これが今の当たり前なのだ


ピピッと警告音がなる

そうか、もう30分歩いたのか。

僕は冷房服の温度調整のつまみをまわして少し温度を下げた

そして大きな合羽型の冷房服の中で、ポケットから水が入ったペットボトルを取り出して水を飲む

これは冷房服の機能の一つで、昨年から冷房服に義務化された機能だ

だんだんと外の温度に慣れてくると知らない間に温度が上がっていることに気づかない。そして汗をかいてもわからないため、水分補給も必要だ


駅に着くと、そこには冷房服のバッテリーの交換を行うところがある

一度屋内に入ると今度はその冷房服を脱いで、いつもの様に肩の部分に付いているバッテリーを取り外し、充電ボックスに入っているバッテリーと入れ替える

ちなみにお金はかからない。今や水と同じくらいの必需品だ、それゆえに国はバッテリーの配布は無償とした

冷房服を丁寧に折りたたんで、リュックの中から取り出した袋に詰める

重たいので、背負っていたリュックと交換するように背負う

早く軽量型の冷房服が実用化されないかなぁと今朝見たニュースの軽量化冷房服を思い浮かべた


駅の構内を歩いていると、大声で笑う女の子のグループが居た


なんでも、日本で一番暑い北海道の札幌で見つかったという「焼き鳥」事件の事だった


その「焼き鳥」は車の屋根の上にいたのか、死んで落ちてたまたま車の上にいたのかはわからないがビルの反射が偶然集中するポイントがあってそこに置かれた車が炎上したそうだ

炎上はすぐに収まったものの、屋根に百羽ほどの鳥がいてそのすべてが焼かれていたという謎の事件


偶然にそんな数の鳥がそこに集まるだなんて考えられない…まるで自殺するように集まった鳥達に何が起きたのか、僕は物凄く興味をそそられた


だけど北海道なんて学生の僕は行くことができないからネットにアップされるニュースを読みふける

だれかがその謎を解いてくれるのを、待ち続けるだけだった




だけれど、高尾山で待ち受けていたのは

まさにその焼き鳥だった


数百羽の鳥たちがまるで鉄板の上で上手に焼かれたように、香ばしい匂いを放ちながら僕らの乗っていた電車ごと燃えていたのだ





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