私のおなかは、焼き鳥が食べたいって決めちゃったし?
ムツキ
◆ 手料理でドキドキすればいい。 ◆
「ねえ、焼こう」
私の発言に婚約者は愕然とした顔で固まった。
愕然とした顔といってもカエルの顔なので、普通の方には分かりづらいかもしれない。ちなみにこの国の王子だったりもする。
まさに呪われし王子だ。
そして本来のカエルが肉食なのかは知らないが、このカエル王子は草食寄りだ。
肩にはペットもどきの鳩がいる。
これも天使の落とし物だか、神の贈り物だかの大層な
しかも偉そうだ。
「鳩、あんた王子の守護者みたいな立ち位置らしいじゃない! だったら、飢え死にしそうな王子のために、火の中に飛び込みなさいよ! そんな昔話あるでしょ?!」
鳩はツンと顔を反らす。
ここは見渡す限りの大海原。
色々な事情が絡み合って、海に船出している。事情はもうどうでもいい、現在の遭難状態に比べれば些細な話だ。
私とカエル王子は孤島に置き去りにされている。
そう、船は行ってしまったのだ。
なぜか? こっちが聞きたい。
「ち、チャーリー、気持ちは分かるけど、きっと誰かが捜しにくると思うし」
「誰がよ!? 誰がどうやって私たちを見つけるっていうのよ! もうこの上はその鳥を今夜の晩餐にして、おなか一杯であんたと殺し合うしかないわ! 餓死はごめんよ!」
「焼き鳥が食べたいなら食べてみるがいい、小娘!」
鳩が怒鳴ると羽ばたき、私の周囲で燃え上がった。ゴウゴウと凄まじい炎でとびかかってくる。
「いやーーっ!!!!」
慌てて距離を取り、砂浜の砂を引っ掴んで投げる。
追う鳥、逃げる私。
「いや、ほんと落ち着いて……二人とも」
警護対象のカエルの傍は安全だろうと走り込み、その背に隠れる。
「クッソ鳥がっ、覚えてなさいよ!!!!」
「こっちの台詞だ、ニンゲンめ」
カエル王子は困ったように鳩に手を伸ばす。
「モリガミ様も落ち着いてください。チャーリーが無礼なのはいつもの事じゃないですか」
全然フォローになってない。
「それにチャーリー、しゃべる鳥なんて食べたいの?」
「食べられたら、何でもいいわ」
「大丈夫だよ、まだ一時間も経ってないじゃないか。きっと探しにきてくれるよ。ボクは王子だし、君も侯爵令嬢じゃないか」
呑気な事をいうカエルを睨みつける。
言いたい事は分かる。王子と侯爵令嬢が消えたなど大騒ぎになるだろう。だがもしコレが誰かの陰謀でわざと置き去りにされていたとしたらどうするのだ。
逃げ道のない餓死の道。
残酷すぎる所業に、拳を握りしめる。
「そうだ、果物を探してみるのはどうかな?」
「馬鹿なの! サバイバル素人の王子と令嬢が自然をなめんじゃわよ! 絶対無理、更なる地獄よ、最悪ヤバい生物に捕食されるんだわっ、いやその前に雑菌が入って病気になるかも、そうよ、足とか怪我して、……そうだわそうよ……そういう死のパターンだわ、これ……」
「うん、チャーリー落ち着こう」
腹が立つほど冷静なカエル王子。
なぜ、お前はそこまで冷静なんだとツッコミを入れる直前で、彼は頬をかく。何か隠し事があったのだとすぐに分かった。
年齢一桁台から十六歳までの付き合いを舐めないでいただきたい。
こいつの癖と表情は知っている。
「なに? 言いなさいよ、なんかあるんでしょ?!」
「う、ん。えっと……うん、言い辛くなってきたんだけど、この間、観劇して怒らせたって話が君の御父上に届いていて……。吊り橋効果だとかで、仲直りってココに……」
あんのクソお父様!!!!!!
「いや、ごめんね? ボクもそんな事じゃどうにもなりませんって伝えたんだけど、あの方も人の話を聞かないから。あと1時間もすれば船も戻ってくるから安心して?」
カエルは申し訳なさそうな顔で私を見ている。悪いのはお父様だというのに、このカエルはイイ奴すぎる。
だがそれはそれ、これはこれだ。
「仲直りならディナーとかで良かったわ。サバイバルも吊り橋うんたらも興味ないわ。充分、私は人生綱渡りしてるんで」
今までの出来事が走馬灯のようによぎり、慌てて頭をふる。
やばいやばい、過去が悲惨すぎてマジで昇天しかけるわ!
「じゃ、船が戻ってきたらディナーに行こうか」
カエルの言葉に頷く。
過去を思い出した事もあり、私の心は決まっている。弓を借りて、海鳥を射落とそう。
そうして、今日のディナーはやっぱり焼き鳥だ。
仕方ないから、婚約者にも私がシメる所からの野性的な料理でもふるまってやろう。きっと草食ぎみの心優しい王子はドキドキするだろう。
それが吊り橋効果ってもんでしょう。
「いいわ。仲直りに、私がごちそうしようじゃないの!」
何も知らないカエルは嬉しそうに笑った。
私は先の展開が楽しみで、ニヤリと笑った。
(了)
私のおなかは、焼き鳥が食べたいって決めちゃったし? ムツキ @mutukimochi
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