第56話 なぜそうなった?
魔術師団がいる建物は王宮の横の建物らしく、王宮内からもいける通路でそちらに向かった。
ルーク曰く魔導師団は王族の護衛、有事、王宮の見回りや王宮と王都の結界を張ったり細々とやる事があるらしいが、後は魔導師団の本拠地で訓練や魔法の練習や研究をしているそうだ。
そういえばルークは仮団長と言っていた気がして歩きながらルークに質問した。
「なんでルークは仮団長なの?」
「ああ、俺は冒険者メインだからだ。
団長はずっと魔導師団の本拠地に居ないと行けないから断ったんだが、陛下にどうしてもとしつこく懇願されてな…。面倒だからたまに覗くくらいの仮ならいいと言ったんだ。」
「なるほど。そういう事ね。」
(なんだかんだ言いながらもルークは陛下に弱いね…。)
顔がにやけてしまいそうなのを必死に抑えて歩いていく。
王宮から魔導師団の本拠地へ続く廊下を進んでいくと1人の魔導士らしき人が扉の前で門番をしている。
その人が私達に気付くと私達が近づくまで頭を下げて待っていた。
すぐ近くまで来て止まると頭を上げ門番は微笑みながら私達に言う。
「ルーク団長、お久しぶりです。古代竜交渉戦お疲れ様でございました。それにロティ様、いらっしゃいませ。サイラス様より連絡を承っておりましたので、中にどうぞ。」
女性の魔導士はにこにこと笑って中に私達を招き入れてくれた。
中はすぐにホールのようなところに出た。
ホールから廊下がいくつか伸びているが、どの廊下の入り口も同じような作りで迷いそうだ。
ルークはその廊下の一つに入りずんずん進んでいく。
王宮とは違い、煌びやかさはなく素朴な白い廊下だ。
また扉が見えてきたがその扉の方から歓声が聞こえ、近づくにつれてその歓声が大きく聞こえた。
石造の重たそうな扉の目の前にルークが立つと手を翳し、右に手を動かすと石の扉はゴリゴリと音を出してゆっくり動く。
「うわ。広いっ。」
石の扉の中は円形の闘技場のような場所になっており天井は開いていて空が見えている。
観客席にはあまり人がいないものの、闘技場の方には結構な人数が見えた。
練習場とはここの事だったのだろう。
特徴的な赤髪の人が剣を構えている。
アレックスだと気付き、よく見ると何も持っていない方の手でこちらを振り返って手を振っていた。
その向かいにはリニが短剣を両手に持ち戦闘姿勢をとっていたが、アレックスの様子を見て私達に気付き構えを解いて手を挙げてこちらを見ている。
ルークが私から手を離して軽く手を広げて柔かに言う。
「ロティあそこまで飛ぶから抱き抱えるよ。」
「…徒歩では行けないの?」
チラッと見る闘技場にはざっと数えても30人近くいる。
そんな所にルークに抱き抱えられたのまま突っ込んで行く勇気など持ち合わせていない。
懇願するように見つめるもルークは困ったような顔をしていた。
「ここは宮廷魔導師団の練習場だからな。
階段はあるが徒歩で行くとかなり遠回りになる。皆魔法が使えるからその方が早く闘技場に行けるからな。待たせているのもある、俺に捕まって?」
「わかった…。よろしくね…。」
納得し、私は抱き抱えやすいよう手を広げた。
ルークは私をひょいと抱き抱え地面から浮かび上がると、そのまま下に行くのかと思いきや少しだけ高度を上げた。
「っっ。」
見慣れない高さに怖くなりしがみつく手に力が入ってしまい、怖くて目を閉じてルークの首に縋る。
しがみついたからかルークは私の耳元でいつもより少し低めの声を響かせた。
「こうしてくれるなら、毎回この移動がいいな。
しがみついてくるのが可愛くて仕方ない。」
吐息が耳に掛かり体がぞくりと震える。
だが、こんな地面から遠い場所の移動はいくつ心臓があっても足りない。
「た、高くて、こ、こ、怖いから嫌…。」
「くすっ。高さがあるとこうなるの?今は目を閉じて、こうやってしがみついていれば怖くない。絶対落とさないから。」
優しさを含ませた余裕のあるルークが羨ましい。
確かに何も見えてなければ、感じるのは風とルークだけだ。ルークにしがみついていれば安全だろうけど、怖いものは怖い。
ルークが地面に降りたのか私を抱く腕に力が少し抜けたようだ。
縋っていた首元からそっと離れ目を開けると周りには沢山の人がいて私達を色々な目で見ていて、咄嗟に私の顔は紅潮した。
「ルーク、降ろして…。」
そんな訴えも虚しくスルーされ、真面目な顔をしたルークは辺りを見回しながら話す。
「皆、久しいな。元気そうで何よりだ。
中には初めての者もいるが、話はチェドから聞いているだろうからこのまま話を進める。
ほぼ全員近くいるようなのでここで言うが、以前から言っていたロティが見つかった。
だから俺は仮団長を降任する。チェドとゼラはいるか?」
一斉にざわつきの声が響く。
私を降ろす素振りもなくルークはその場の人達に尋ねると、2人の人が人の合間を縫って出てきた。
青い髪でルークよりも少しだけ背の低くそうな柔かな垂れ目の男性と、黒い長い髪に赤のメッシュが入った目力がある女性が私達の目の前に来た。
何故か女性の人は私を鋭い目で睨んでいる。
「ルーク団長、お久しぶりっす。古代竜の交渉お疲れ様でした。ロティさんも見つかって何よりっすね。」
青髪の男性は垂れた目を細め、ルークを見て微笑んだ。
一方女性の方はずっと私に睨みを効かせながら話す。
「ルーク団長、古代竜交渉戦、本当にお疲れ様でした。
サイラス様から内容をお聞きましたが、とても素晴らしかったです。
古代竜も大満足だった事でしょう。それで…その方がロティ様ですか?魔法はお使いになられないのですね。ルーク団長のお相手様ならさぞ、素晴らしい魔導師なのだと思っておりました。
勝手な勘違いのようでしたね?」
女性の皮肉と棘たっぷりの発言に私は居た堪れなくなる。
しかも私はルークに横抱きされたままだ。
もともと言い返すのが得意ではない上、この体勢からでは格好が付かない。
とりあえず降ろしてほしくてルークを見ると言葉を詰まらせてしまった。
はっきりと見える青筋を立て、眉間には深く皺が寄りとんでも無く冷たい目をしていた。
その目で見つめられた、男性からヒュッと喉が鳴る音がした。
「チェド、部下の躾がなってないな。
ゼラ…副団長とはいえ、俺に楯突くとはいい度胸だ。
先程からロティに向けての視線に敵視を混ぜるものが数人、それと嫌らしい目で見る輩も。
気付いていないと侮るなら容赦無く1週間は動けなくしてやる。
俺を侮辱するのは構わない。
ロティに対しての悪意には一切俺は手加減しない。」
ルークから漏れる殺気に、場が凍り付くように誰も動かなくなった。私だってこのルークは怖い。
チェドと呼ばれたその人は顔面蒼白になりながらも手を挙げて首を横に振っていた。
「ルーク団長…。ホントに申し訳ないっす…。今後は気をつけますので…どうか容赦願いたいっす。なぁ…みんな?」
チェドの言葉にすかさず首が折れるほど縦に頷く人達。
だが、ゼラと呼ばれていた女性はルークの言葉に怖気付いた様子もなく私を睨み続けていた。
「私はその女性を認めておりません。
私を納得させたいなら団長、私と勝負して下さい。
1対1の対人で。私が勝ったら団長を辞めず、寧ろ正式に団長へ就任して下さい。
私が負けたらルーク団長の言う事を聞きます。」
グニーを思い出してしまうセリフだ。
私はなんとも認められない事が多い。特に同性に。
初対面でこんなに敵意剥き出しの人も中々いないだろうが、彼方からすれば私の話はルークから聞いているだろうからどんな人物だろうと想像するわけだ。
で、ルークに抱えられた私が来た事に想像に反していたので怒っている、と言ったところなのだろう。
少なからずこの人はルークに好意があるように見えて仕方がない。
ルークは睨み続けたまま怪訝な面持ちでゼラに尋ねた。
「ゼラはどちらも得などしないだろう。
負ければ俺の言う通りにし、勝てば俺が団長、チェドが副団長。ゼラは一般団員になる。」
ルークの言葉を聞いた後に、チェドから鳩尾を突かれたような声が漏れた。気不味そうな顔をしてルークから目線を外し答えにくそうに口を開く。
「あー…ルーク団長、言いにくいんですが…。最近俺ゼラに負けっぱなしで…。次の対人戦で負けたら団長交代になるかもしれないんす…。
で、ゼラが団長に…。」
「そういうことなので、そこは大丈夫です。勝っても今の地位なら問題ありません。ですので一戦お願いします。」
勝機があるのだろうか、ゼラはルークに挑戦的な目を向けている。
一歩も引かない姿勢にルークは顰めた顔を辞め、無表情になった。
「なら受けよう。どちらが負けても文句は無しだ。
被害が及ばぬよう皆客席に。ロティもそこに。」
「ルーク…。」
私を降ろさないまま、ルークは私を離すと風魔法で先程通り過ぎた観客席へと私をふわりと浮かせて移動させた。
心配で離れたくないが、いた方が邪魔になるのは間違いない。
先程は2人でも宙に浮かぶのが怖かったのに、今じゃルークの戦いを見る事の方が怖い。
一番前の席に降ろされると、闘技場全体がよく見えた。
手すりから乗り出しルークを見つめると優しい顔で微笑むルークに今触れたい気持ちが溢れてしまったのだった。
生まれ変わってでも結ばれたいっ!〜前世を覚えていませんけどっ!?〜 宮沖杏 @miyaokianzu
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