エピソード,3 魔法“創造”を可した少女

 ……結局、私は隣の席に座っていたエリネとペアを組むことにした。もちろんさまざまな人から勧誘は受けた。だが、気にしすぎかもしれないが、エリネ以外は裏がありそうに感じた。

 だから、エリネを選ぶことにした。そして、私はエリネを極力守ってあげようと思った。数人から妬みの視線が飛んでいた気がしたから。

(ごめんね、エリネ。私のせいで、ちょっと波乱な学院生活になるかも)

 3人班は作られることはなかった。もしエリネがいなかったらどうしようかと思うと少し寒気がしつつある。

「……よし、ペアを作ったな?なら、ペアで戦ってくれ」

「——何を言っているのだろう……」

 正直に言えば、私は先生の意図は理解したつもりだ。両者の戦闘バランスをお互いが理解するための配慮だろう。だが、あんな言い方だと、多少なりとも本気の戦闘が起きると思うのだが……。

「とりあえず、クロシエとエリネの班。模擬戦をしてみてくれ」

「……わかりました。やりましょう。

「「「「「「……え?」」」」」」

 私は杖を後ろにざっと下げる。そして、不壊領域を展開する。

「それじゃ、始めようか。エリネ

「え、ここで?」

「え、ここでやるんじゃないの?」

「……闘技場に行くぞ」

 どうやらここでやるわけではないらしい。どうせならここでやったほうが楽なのに……。と思いつつ、闘技場に向かう——。


 ——校舎内の入り組んだ廊下を進んで、闘技場にたどり着いた。

「ここなら存分に暴れていいぞ……ただし、クロシエだけは加減しろ」

「私だけひどいですね……もちろん初めからそのつもりですよ。私の本気は、まずあまり見せる機会ないので」

「……先生、グループ内での戦闘が終わったら、クロシエ対全員で戦ってみたいです」

「いや、流石に“あの”クロシエでも無理だr——」

「良いよ。受けて立つよ」

 彼の話は正直興味をそそられた。私対大人数。今の今まで【師匠】としかちゃんと戦ったことがなかったから、初めて【師匠】以外とでちゃんと戦えそうなシチュエーションだと思った。

「ま、まぁ。とりあえずはペアでの戦闘をしろ。話はそれからだ」

 ……それもそうか。私はエリネと戦うことにした。能力は、全く使わない状態でいこう。

「なら、始めよ?クロシエ」

「そう……だな。始めよう」

 エリネは私の話し方の違和感を即座に気づいたようだった。私は今、戦闘モードに入っていた。普段は主に聴力と視力、そして演算能力を底上げしていたが、戦闘中はそれらの大半を触覚に回す。理由はもちろん風の動きに対応するためだ。

 どんな攻撃も時空を超えない限り空気を通る。その微弱かつ繊細な動きを把握できれば、予測していたかの如く避けることが容易くなる。だから私は触覚を底上げしまくる。ついでに残りで運動能力補正をかける。一応両親から習ってはいるが、まだ身にあっていない。体格の個人差と、そもそも元が難しすぎるからだろう。

 演算能力が自分の普通に戻ったため、口調が昔の状態になっていた。それはあまり気にしていない。どうせ戦う時に口調なんて気にしないだろうし。

「それでは、クロシエ対エリネの模擬戦を始める!」

 その声に私は誰にも聞こえない高さで詠唱を始める。

「戦闘開始!」

「間に合わないか……【千の棘をも別れさしこの盟約 運命の定めに従うことなき一つの旋律 一つの概念は今ここに砕け散る!】」

「え、詠唱魔法っ?なら先に撃たせてもらうよ!『フレア・レーザー』!」

 そのレーザーを詠唱しながら避ける。まだ私の詠唱は、終わらない。こうして詠唱をするたびに効率が悪いと思ってしまうが、仕方がない。それくらいの代償を支払ってこそ発動されるべき禁忌の魔法なのだから。

「【さぁ、今こそ集え 幾多の罪 代償の連り 今ここで世界を覆さん】!」

 私は詠唱を完了させ、高らかに“それ”を告げる。

「【創造を今ここに『オリジン・マジカリティー』】!」

 そこで一瞬目眩が走る。一気に情報が押し込んでくる。それをなんとか耐えて、対峙する。

「さて、これで私は準備万端。早くかかってきなよ」

「魔法戦闘では両者が撃ち合うものでは……」

「魔法ならもうかけ終わったさ。だから存分に私に打ち込めばいい。ま、私も魔法を放つけれど」

「なら……お構いないしに行かせてもらいます!『アイスランス』『プロミネンス・フレア』『サンディングクロー』!」

 なるほど……三属性での攻撃か……私みたいに合成するわけではないが、普通の人ならこれでも完璧と言えるだろう。

 ——私が、相手でなければの話だが。

魔報書庫アカシック・レコード

 その名を告げる。魔報書庫アカシック・レコード。それは知っている魔法や、一度攻撃に使われた魔法は全てそれで吸収し、跳ね返す魔法。つまり私に魔法を打つと——。

「帰ってきたっ!?」

 そう、自らの攻撃で自らを焦がすのだ。だから私は親に《反魔法要塞アンチ・マジカリティー》と言われたこともあった。

「これで私の勝利、だね?」

「うん……まさか魔法が跳ね返されるとは思ってなかったよ……」

「ま、それが私の……魔法だからね。これでも魔法の才能が買われて国王に貴族にしてもらった親を持ってないよ」

 そんな会話を交わしていると……、

「ねぇ、クロシエ、だったけ?君は」

「え、あぁ……はい」

 よくわからないが急に絡まれた。誰だ、こいつ。

「僕の名前はモナ・F・アリセティア。君にふさわしい男さ」

「……は?」

 敬語で話していたのがもはや馬鹿らしく感じてしまったのだが、それをグッと抑え込んで一言のどす黒い疑問の嘆息で済ませる。

「えーっと、よくわからないんですが」

「僕こそが君と結ばれる運命にあるものだ、と言うことだよ。それは覆ることのない事実d——」

「丁重にお断りします。どうせ自分の家の力を誇示、そして後世にとても強い血を残すためですよね?正直下心が丸見えすぎるんですよ。もう少し取り繕ってみたりしたらどうです?」

 最後まで聞いているともはや洗脳にかけられてしまうのではないのか、と考えてしまうようになり、即座に断ることにした。ついでに言えば思い出した。

 モナ・F・アリセティア。王家直属の公爵家であり、魔法の才が群を抜いて高い貴族と知られている。今では魔法はアリセティア、魔導はエリステインと呼ばれるほどなのだが。だからしょっちゅう縁談を持ち込まれて厄介だった記憶がある。

 その中でもモナ・F・アリセティアは特段にやばかった。中等学院の頃は問題児と呼ばれていて、生徒はおろか教師さえもその言動を止めることは極めて困難と言われたほど問題児っぷりを極めたような奴だ。

「何故だ!?君には僕しかいないじゃないか!?」

「……まったく。自己解釈がどれだけ過ぎれば気が済むんですか?今まで散々貴方からの縁談を断ってきました。なのにまだ私に貴方への好意があるとお思いで?」

「うぐ……だ、だが君のその魔力量といい魔導技術といいそれらはもはや王家が有する技術に匹敵する。それを守れるのは僕だけだろう?だから僕の手をとって——」

「ならまずあ貴方は女性に対しての態度を改めてから来て下さい」

 そう淡々と告げる。アリセティアは歯噛みをしていたが、諦めたようで私から離れて言ってくれた。

「あ、あの……」

「ん、あぁ大丈夫。変に公爵様から話かけられただけだから」

「ままままさか縁談ですか!?」

「全く違うね……申し訳ないけれどあいつとは婚約なんてしたくないよ……」

 若干周りにざわめきが走ったが、私の否定の言葉でその声は一掃された。そういえば次の試合は誰がやるんだ?

「先生、次は誰が出るんですか?」

「お、そうだな……レシィディア、次はお前が対戦相手だ」

「は、はい!」

 ……おいおい。流石にまた公爵って先生何か企んでいるのか……?


後書き

すごい中途半端ですが、この作品はこれで終わらせていただきます。よんでいただいたかた方有難う御座いました

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魔導世界の魔概改変 神坂蒼逐 @Kamisaka-Aoi1201_0317

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