ワンルーム晩酌男爵

譚織 蚕

第1話

「はぁ……」


都内の片隅。

ワンルームで1人ソシャゲをしながら酒を呑む。

いつも通り仕事は9時まで続き、家でほっと一息つこうとすればもう12時に近い。


近所のスーパーで買ってきた冷たい焼き鳥と発泡酒を喉に流し込む。


いつの間にかできていたルーティーン。


彼女だって居ない、休みなんてない俺にとって唯一癒される自分だけの時間だ。


黙々とダンジョンを探索しつつ、ビールを1口。


パズルをこなしつつ、ビールを1口。


スマホの画面には給料の1割をつぎ込み引き寄せられた運の塊達が並んでいる。


「寝みぃなぁ……」


焼き鳥を1口。

ほどよいタレが冷えて固まっている。


レンジに入れれば良かったんだろうけど、それすら面倒くさくって。


再び発泡酒を流し込む。


こちらは翻ってぬるい。

多分同じ温度だけど、適正があるんだろう。


黙々と呑む。

黙々と食べる。


テレビは付かなかい。


薄明るい部屋に、俺とソシャゲとビールと焼き鳥の串。


一人暮らし。

串の根元に付いたタレを舐めて注意する奴もいない。


独身貴族のお通りだ!

言いたい所だが貴族ほど裕福でもない。


やっすいツマミにやっすい酒。


それすら体に染みるのだけれども。


マイルームに1人だけ。


「……やべっ」


ツマミは切れたのに、チビチビ呑んでいた酒が缶の半分残る。


本当はこんな飲み物好きじゃない。

安く酔えるから胃に入れてるだけ。


ツマミのない半分のビールは苦く、1円でも払いたくない味がした。

味がしたけど酔いがきた。


酔いが来て、今日もいつも通り布団の前で沈没する。

いいのだ。布団まで行ったら眠くなる。

明日の朝起きられなくなる。


俺は静かに眠りにつく。

ワンルームで晩酌。


明日もまた生きる。

そして恐らく酒を呑む。


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ワンルーム晩酌男爵 譚織 蚕 @nununukitaroo

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