【KAC20226】鳥系魔獣専門の焼き鳥屋で
宮野アキ
鳥系魔獣の焼き鳥屋
とある国に、エルデルと呼ばれている街があった。
その街には、冒険者ギルドと呼ばれている組織の支店があり、冒険者ギルドは街の住人が依頼を出せば何でも、代わりに仕事を担ってくれた。
家の掃除や街のゴミ拾いなどの清掃雑務から、他の街に行く時の護衛や危険生物の魔獣討伐などの荒っぽい仕事まで何でも受け付け、その仕事を冒険者ギルドに所属登録しているクラン、又はチームに依頼を出す。
そんな冒険者ギルドの奥の席で冒険者風の恰好をした黒髪、細目で腰には、長物の刀と短刀を腰のベルトに差している男性がいた。
その男の名前はレルン・アイストロ。
レルンは今日も困っている人は居ないだろうかと探していると外から鐘の音が聞こえて来た。
ギルドに設置してある時計を見ると18時が回っていた。
「……さて、そろそろ行くか」
そう言うとレルンは立ち上がり、ギルドから出ようとした時――
「あれ、レルンさんどうしたんですか?今日は随分と早く帰るんですね。いつもはギルドが閉まる時間まで居るのに」
「……たまにはね」
レルンが振り返るとそこには、額に親指程の大きさの緑色の宝石が眉間にある
クララはこの冒険者ギルドの受付嬢をしており、よくレルンの依頼などを担当していた。
そんな彼女にレルンは、何処か落ち着きない様な口調で説明する。
「それにこれから旧友と会う約束があるんだよ」
「旧友?……あっ、マースさんですね。そういえば二週間前からサーカス団の公演をするためにこの街に来てましたもんね」
「そういう事。じゃあ、俺は行くね」
レルンがそう言うとスキップでもしだしそうな、軽い足取りで冒険者ギルドから出て行った。
◇ ◆ ◇
「夕食には早い時間でもここは人通りが多いね」
レルンは今、商店街の一角に来ていた。
ここは特に食事処が多く、一日中人通りが絶えない通りだった。
ここには店以外にも屋台が多く並んでおり――
「いらっしゃい、いらっしゃい。今朝入荷したばかりの普通の兎、普通の豚の串焼きだよ」
「どうだい兄ちゃん。普通の牛と牛系の魔獣の串焼き両方取り揃えてよ!買って行きなよ」
「焼いた鳥系魔獣の入りのスープはどうだ!美味しいぜ!!」
とそれぞれの屋台から威勢のいい掛け声が聞こえて来る。
その光景や空気感を楽しみながら、レルンは【鳥系魔獣専門 焼き鳥屋 炎の翼】と書かれた看板の店へと入って行った。
店の中に入るとまだ夕食時でない事もあって客は居らず、カウンター席から見える厨房には、四本の腕を巧みに使って、仕込みをしている
その
「やぁ、アルス。元気にしてたかい?」
「レルン、久しぶりじゃねぇか。まぁ座ってくれよ」
レルンはアルスの言葉に促されるままにカウンター席に座ると、楽しそうに話しかけてくる。
「それにしてもレルン久しぶりだな。どうしてまたうちに来たんだ?」
「久しぶりにアルスの焼き鳥を食べに来たって言うのもあるけど、アルスに会わせたい奴がいるんだよ」
「会わせたい奴?誰だよそれ」
「それは――……噂をすれば」
レルンが何かを言いかけた時、丁度店の入り口が開いた。
そこには、レルンに比べてかなり小さく、パッと見では少年にしか見えない外見をしているが、顔には年齢相応の皺や髭があり、成人している赤髪に茶色の瞳をしている男性が入って来た。
「おぉ、マースじゃねぇか久しぶりだな」
「やぁ久しぶりだねアルスくん。焼き鳥屋の経営上手くいっているみたいでよかったよ」
マースと呼ばれた男性はアルスと軽く挨拶を交わしながらレルンの隣の席につく。
「やっぱりあの広場のサーカス団はマースのだったんだな。昨日、観に行ったぜ」
「そうなのかい、ありがとう。……それにしても驚いたよ、昔は屋台だったこのお店がしっかりと店舗を構える様になるなんてね」
「あはは、当たり前だろ!!店舗を持つのは俺の夢の一つなんだぜ?……それで二人共何を食べる?まさか旧交を温める為に来たんじゃないんだろ?」
「……そうだね。アルスのお任せにするよ」
「じゃあ僕もそれでお願いしようかな」
「へいへい、分かったよ。つまり、いつも通りって事だろ。とりあえずこれでも飲んどけ」
アルスがそう言うと二人の前に並々と注がれたエールが置かれた。
「ありがとうアルスくん」
「ありがとうアルス。……マース乾杯!!」
「乾杯!!」
二人はそう言うとお互いに杯をぶつけるとエールを一気に飲み干す。
それを見たアルスはその光景を懐かしむ様に笑う。
「相変わらずだな、ほい」
アルスはそう言いながらおかわりのエールを出し、二人に一本の焼き鳥を出す。
「先ずはコカトリスの胸肉だ。タレはレルンは塩、マースは魚醤だよ」
「おお、さすがアルス」
「旨そう!!……さて」
二人は胸の前で手を合わせて、それぞれの神に祈りを捧げる。
そして、祈りを捧げ終わった二人はコカトリスの胸肉の焼き鳥を食べ、二人は満足そうに微笑む。
「はぁ、旨い。流石アルスだな」
「ですねぇ。普通食べられないコカトリスを下処理で食べれるようにするだけじゃなく、こんなに美味しく調理するなんて……流石アルスさんですね」
「これもお前達との冒険のおかげだよ。ただ食べれる部位を仕入れるだけだった昔だったら絶対に出来なかった料理だよな」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいね。無理やり冒険に引きずり込んだかいがあったよ」
「あはは、あの時のアルスさん――」
二人はアルスが出す焼き鳥を食べながら話しを楽しむ。
ロック鳥とフェニックスとサンダーバードの食べ比べ。
鳳凰の部位の食べ比べなど、普通の屋台や店などでは絶対に食べられない鳥系の魔獣専門店【炎の翼】らしい料理を食べていった。
三人は昔の話しをしながら盛り上がるがそう長くは続かなかった。
アルスの店は他では食べれない料理を出すだけあってかなりの人気店であり、夕食時のピークになると席のほとんどが埋まり始め、アルス以外の店員も慌ただしく働いていた。
そんな状況にレルン達も流石にこれ以上邪魔をする訳にはいかないと思い、話しを切り上げる事にした。
「……アルスもうそろそろ帰るな。長いしたよ」
「そうかい?いくらでも居ても構わないのに」
「そんなわけにはいかないよ、アルスさん。何時までもアルスさんを独占する訳には行かないので帰りますよ」
「そうか……まぁ、いいか。また来いよ、これは土産だ。クランのメンバーやサーカス団の団員にも食わせてやってくれよ」
アルスがそう言うと二人の目の前に両手で抱える程の大きさの紙袋が置かれる。
「……ありがとうアルス」
「ありがとうございますアルスさん!団員も喜びますよ。それじゃあ二人分の会計を払いますね」
「何やってるんだよ。自分の分は払うから――」
「レルンこそ何を言ってるんだ。昔は良く僕達を奢ってくれたじゃないか。だから、今日はそのお礼だよ。奢らせてくれよ」
「……あぁ、分かったよ」
そう言うとマースはレルンのその言葉に機嫌よく笑い、ウェートレスを呼ぶと金と銀の効果を渡して立ち上がる。
「それじゃあアルスさん、ご馳走様でした。それにお土産もありがとうございます」
「ごちそうさん、また来るよアルス」
「おう、二人共今日はありがとうな。いつでも来てくれよ」
アルスのその言葉に二人は笑顔で手を振って答えると、店の外へと出て行った。
「レルン、今日はありがとう。いい店を教えてくれて、楽しかった」
「いいって、これぐらい。マースこそ奢ってもらってわるいな。今度またサーカスを見に行くよ」
「そうかい?それは嬉しいね。来るんだったら、最終日に来なよ。特別な演出をする予定があるんだ」
「そうか?それは楽しみだな……またな」
「うん、またな。レルン」
二人は別れの挨拶をすると鳥系魔獣の焼き鳥が入った紙袋を両手に抱えてそれぞれ帰る場所へと帰って行った。
「……帰りに酒でも買って帰るか、シオンは喜ぶかな」
レルンはそう呟きながら、何処か寂しそうな背中を見せながら帰って行った。
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