どうも、今まであなたに食べられた焼き鳥です

川木

どうも、今まであなたに食べられた焼き鳥です

「どうも、今まであなたに食べられた焼き鳥です」

「は?」


 休日、朝からだらだらとしていたけれど、昼寝をして起きたら夕方を過ぎていた。そろそろお腹がすいてきた。何を食べようか、と考えているとピンポンがなり、玄関ドアを開けたところそんな訳のわからないことを言う少女がいた。

 身長は自分の半分くらい。小さい子供。赤いショートカットと白い肌が印象的で、どこの外人さんだろうか。とても可愛らしくて初対面だけど撫でまわしたくなるほどだ。


「あのー、すみません。人違いだと思うんですけど」

「天野蝶子さんですね」

「あ……はい」

「とりあえずいれてください」

「えぇ……いやちょっと、これから出かけるところでして」

「今ならビールをお付けしますよ」

「……しょ、しょうがない。ちょっとだけですよ」


 めちゃくちゃ可愛い子供だけど、発言がやばすぎるので家にあげたくはなかったけど、少女はどこからともなく段ボールのビールを2ケースだしてきた。それもプレミアムなケースをだ。私が一番好きだけどお値段的にたまの楽しみにしてるやつだから、仕方なく迎え入れる。

 私の半分くらいしかない小さな少女だ。何かたくらんでもすぐやれる。と言う油断もあった。


 少女を入れて背を向け、ガチャ、と玄関に鍵をかけた瞬間、世界が反転した。


「うおお!?」


 気がついたら私は倒され、何かで縛られ、雑に運ばれてさっきまで転がっていた自室に転がされていた。


「え? な、なに?」

「くくく。愚かな人間です。私が正体を明らかにしているにも関わらず、無警戒に背を向けるなんて」

「しょ、正体!? お前は何者だ!?」

「え? いやですから、あなたに食べられた焼き鳥です」


 正確にはその概念です。とかワケわからんこと言われた。縛られたまま座り、自称焼き鳥の話を聞いたが、余計にわけのわからない話をされた。

 全ての生き物が死んですぐ消えるわけではなく、残酷にも調理されると恨みつらみの呪いの力が沸いてきて、しばらく食べた相手にとりつくらしい。しかしそれもわずかな力で、普通なら一定時間で消えていく。

 だが私が狂ったように毎日焼き鳥を食べ続けたことにより、同じ調理をされた怨念同士が合体し、ついには実態をもって復讐しに来たらしい。同じ食材でも調理法が違うと恨みの方向性が変わり合体できないので、こんなことは滅多にないらしい。人類への恨みをまとめてはらしてやる、とか言われた。


 なんてことだ。一人暮らしで料理が面倒だからひたすら鶏肉を焼いていただけなのに。あと単純に焼き鳥が好きで無限に食べられるだけだけど。


「ふ、復讐って、何をする気?」

「それはもちろん、お前を食べるのです!」

「ええっ!?」

「もちろん、しょせん霊のような私が、肉を食べられるはずもありません。ですが、性的に食べることはできます!」

「ん?」


 あれ、何だか話の流れが変わった。私は怯えたふりして後退して得物をとろうとしたのだけど、一旦隠したままもう一度近寄って話を聞くことにする。


「と、言うと?」

「これから一晩中あなたをいじめて、もう二度と焼き鳥を食べませんと宣言する前で、徹底的にお前を食ってやるのです」

「ほうほう。ところで君、女の子に見えるのだけど?」

「残念ながら基本的に食用肉と言うのは雌か、雄でも去勢されているものばかりですから、生前の力に左右されるこの姿ではオスとしてあなたを犯すことはできません。ですがただの鶏だった昔とは違うのです。今の私には知恵があります。あなたが泣くほど食べるくらい、余裕なのです」

「なるほど。ちなみに雌なの?」

「そこ大事です? たまたまですが、雌の恨み数が多かったので、雌ですね」

「よっしゃ」


 全然ありだった。食肉になる気はないけれど、ロリっ子も全然守備範囲な私としては、むしろ合法ロリっ子がやってきてやったぜ。としかいえない。


「ん?」

「いやいや、なんでもないよ。ただ、焼き鳥ちゃん可愛くて美味しそうだなって思っただけ」

「!? な、な、な……、ま、ま、まだ私を、た、た、食べるつもりなのです!?」


 全然OK、むしろ嬉しい。と知られると、じゃあやめるとなっては困るのでかるーいノリで怒らせようとしたのだけど、何故かめちゃくちゃ怯えだしてしまった。

 がたがた震えて、さっきまでの強者感はない。あれ? と思ってから気付いた。焼き鳥の怨霊みたいなこの子、ようは一度、と言わず何度も私に食べられた記憶があるのだ。つまり私はこの子の天敵であり、恐怖の対象なのではないだろうか。


「……くくく。焼き鳥ちゃんが、まさかこんなに食いでがある姿で帰ってくるとはね。いやー、ありがとう」

「や、やだやだ。わ、私は、強くなったんですよ!? 鶏何十羽分の力に、人間がかなう訳ないのです!」

「所詮鶏は人間に食べられる運命なんだよ。てことで、いただきまーす」

「ひいぃっ!」


 さり気なくほどいていた縄を放り投げ、焼き鳥ちゃんにとびかかる。焼き鳥ちゃんは素の力は確かに強いのだけど、がぶりと噛みつくふりして甘噛みをするとそれだけで硬直してしまうヨワヨワっぷりだったので、めちゃくちゃ簡単に食べられた。

 途中から物理じゃなくて、焼き鳥ちゃんの目的と同じ食べ方と気が付いてやり返そうとして来たけど、焼き鳥ちゃんの体が美味しいと言うとその度あわあわしてくれたのて逆転の目があるはずもなく、一晩中美味しくいただいた。


 たっぷり食べられた焼き鳥ちゃんは、翌日快楽により無事昇華されていった。

 これに味を占めた私は、牛、豚、と雌肉を意図的に摂取することでデリバリーシステムを堪能していたのだけど、魚を食べたことで大きなミスをしてしまった。


「お前の悪行はすでに食料界で知れ渡っているのだ! お前が女しか食べないことはわかっている! 今度こそお前の負けだ! 俺は男だからな!」

「いや、雌じゃん」

「お前の敗因は、鯛の多くが性転換能力を持っていると知らなかったことだ!」

「な、なんだってー!?」


 という訳で、自称焼き魚女は男になり、私は食べられた。

 こうして調子に乗って悪逆の限りをつくした私は成敗された。これに反省した私は、一つの食べ物を一つの食べ方で食べるのではなく。まんべんなく好き嫌いせず食べるようになったのだった。









「……で?」

「え? 好き嫌いはよくない。って言う話?」

「違うでしょ!? なんでそんな話したの!? 私は、父親のことを聞いたんだよ!?」


 ずっとシングルマザーの母に育てられてきた娘は、高校生になったので何となくいい機会かなと思い、今までずっと触れずにいた父親について尋ねたのだけど、まさかの初手に焼き鳥が登場して最後に魚に犯されるわけのわからない物語をされた。


「あのねぇ、こっちはほんと気を使ってたけど、もう私も働ける年齢だし、子供じゃないんだから、例えば単純に別れたとか死別じゃなくて、その、望まずに私が生まれたのだとしても、それも受け入れて、お母さんを支えていきたいって思って、心の準備して聞いたんだよ? なのになんなのその話は。しかも子供にするにはきわどすぎるでしょ、ネタとしても面白くないし」

「そんなに私を思ってくれてたなんて……感激! 可愛い! 好き!」

「やめて! 撫でまわさないで! もう!」


 娘はぷんぷんして抱きしめてきた母親を振り払う。そして席から立って、腰に手をあてて座っているけど同じ高さにある母親の顔に向かって指をさす。


「いつまでも子供扱いしないで! もし万が一、その話が全部嘘じゃなかったとしたら私が魚との子供とでも言いたいの!? 泳ぎも苦手で魚要素全然ないけど!?」

「さすがに魚は駄目だった?」

「駄目に決まってるでしょ!」


 もー! と地団太を踏む姿はとても高校生に見えないほど幼くて、母親はにんまりと微笑みながら、自分も席をたってそっと娘の頭を撫でる。


「ごめんね。でも、本当のことはまだ言えない。高校を卒業して、大人になったら言うから、もうちょっと待っててくれないかな?」

「……ん。わかった。でもその時は、子ども扱いしないでよね」

「もちろん。大人として、可愛がってあげる。じっくりたっぷりとね!」


 言いながら抱き着いてお尻を撫でてくる母親に、娘は身をよじって嫌がる。


「んん、ちょっと、変な触り方しないで! もう。お母さん、ちょいちょいセクハラするよね、やめてよ。娘だからって、そう言うのよくないよ。まさか本気で実の娘をそんな目で見てるわけじゃないよね?」

「はいはい。ごめんごめん。いくら私だって、お腹をいためて生んだ実の子にそんな目を向けるわけないって」


 笑顔で抱き着くのをやめる母親に、娘はジト目になりながらも本気で疑っている訳ではないので、体をはらってからふんっと顔をそむける。


「ならいいけど。とにかく、私が大人になったら、父親のこと教えてよね。約束だからね!」

「わかってる。約束ね」

「ん!」


 小指をつきだしてした宣言に、真面目に小指をからめて応えてくれた母親に、娘は綺麗な赤い髪を揺らしながら笑顔で頷くのだった。

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