空気清浄機
結騎 了
#365日ショートショート 075
「なあ母さん、俺は言ったよな。部屋に入る時はノックしろって」
「だから何度も謝ってるじゃない。ごめんね」
夕食の席には、気まずい空気が流れていた。
父はいたたまれないのか冷ややっこを箸でつつき、娘は怪訝な表情で白米を口に運んでいる。
「ねえ、お兄ちゃん。もうやめなよ。お母さんも悪いと思ってるんだから」
「でも、これ何度目だよ。俺だって一度や二度じゃこうは言わないって」
「本当にごめんね。私が悪かったの」
息子は勢いよくコップに麦茶を注ぎ、母は謝りながら遠慮がちに味噌汁をすする。
ぱちん、と娘は箸を置いた。
「もう、いや。いい加減にして。お兄ちゃん、空気清浄機のスイッチをつけてよ。出力は『中』でいいから」
「……わかったよ」
兄がテーブルの横にある白い機械を操作すると、ほどなく、心地よい稼働音が響きわたった。
息子はゆっくりと箸を持つ手を降ろし、口を開く。
「母さん、俺も言いすぎた。ごめんなさい。でも、分かってほしかっただけなんだ」
母はほっとした表情を浮かべる。
「大丈夫。あなたの気持ちは伝わってるから。ごめんね、私も気をつけるわ」
その様子を見た父がガハハと笑った。
「いや〜、さっきまでは空気が悪かったなあ。まさに、空気が冷ややっこ〜!……なんちゃって」
沈黙の末、娘が吐き捨てるように言った。
「お兄ちゃん、『強』にして」
空気清浄機 結騎 了 @slinky_dog_s11
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