エピローグ ドーン・オブ・ザ・狐娘

「っ……は――」


 時雨は大きく息を吐き、猛烈な痛みに耐える。

 少しでも気を緩めると、意識を持っていかれそうだからである。


 あれから数十分後。

 場所は駐車場。


 現在、時雨はそこにある車内へ到着することに成功していた。


 残っている銃弾はゼロ。

 ナイフも喪失。

 体に至っては、左腕どころか右足の調子もおかしくなっている。


(途中、狐娘と鉢合わせた時は終わったと思ったけど、何とか倒せた。それに最後の最後でついてた……っていうと、語弊があるな)


 時雨の言う最後の最後。

 それは車のキーである。


 時雨はそもそもキーを持っていなかった。

 故に強引に扉を開け、強引にエンジンをかけるというのがそもそものプランだった。


 けれど、時雨が駐車場にたどり着いた時、車のキーを持った死体が倒れていたのだ。

 結果、時雨はそのキーを借り、彼が乗ろうとしていた車に乗ったという訳である。


(余計な音を立てなくて済んだのは、本当によかった……名前も知らない人、助けられなくてすみません。車も鍵も後で絶対に返します……ありがとう)


 時雨は目を瞑りながら心の中でそう呟く。

 そしてその後、車のアクセルペダルを踏むのだった。


      ●●●


「…………」


 運転する車から見える景色。

 辺りはまだまだ明るいにもかかわらず、人っ子一人おらず静まり返っている。

 居るのはせいぜいが狐娘。


 そんな景色を見ていると、人類が狐娘に負けた事を痛感させられる。


「ごや」


 時雨はそんな事を考えながら、また一匹狐娘を車で跳ねとばす。

 バックミラーでその狐娘を確認すると――。


「くそっ、化け物が!」


 手足が折れているに違いない奇怪な動き。

 けれど、狐娘は立ち上がり動き始めたのだ。


 狐娘の生命力は高い。

 頭部を破壊――もしくは首と胴体の切断をしなければ、あの様に生き続ける。

 と、そう亜紗音が言っていた。


「亜紗音さん……」


 亜紗音はもう狐娘になってしまったに違いない。

 それでも時雨は思わずにはいられない。


(亜紗音さんの無念のためにも、俺は絶対に助けを呼んでみせる)


 亜紗音はもういない。

 けれど、その研究資料などは全てあの部屋にあるのだ。


 時雨が無事に助けを呼べれば、亜紗音の成果を次に繋ぐことが出来る。

 彼女の死は無駄ではなくな――。


「こやーん」


 すぐ近くから声がした。


「…………」


 時雨は恐る恐るバックミラーをもう一度見る。するとそこに居たのは――。


「こやーん」


 狐娘だ。

 奴は寝起きなのか、「こやぁ」とあくびをした後、時雨をじっと見てくる。

 そんな狐娘に対し。


「は、はは……嘘、ですよね? 亜紗音さ――」


 時雨がそう言おうとした瞬間だった。

 白衣を纏い、馴染みあるネームプレートを付けた狐娘――奴が時雨へと襲いかかってきたのは。

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ゲートK~よくわかる狐娘ハザード~ アカバコウヨウ @kouyou21

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