第四話 狐娘ハザード

 目の前に居る狐娘。

 可愛らしい少女が二体と侮ってはならない。

 その身体能力は、遥かに人間を凌駕しているのだから。


 しかし、恐れから狐娘に先手を取らせるのは愚の骨頂だ。

 時雨はチラリと壊れたデスクライトに目をやった後。


「しっ!」


 それを片方の狐娘へと投げつける。

 そして同時、時雨はもう片方の狐娘へと駆ける。


(狐娘は人型でありながら、その思考はどこか獣じみてる! だからこうすれば――)


 時雨は走りながらも狐娘達を観察する、

 すると、彼の予想通り。


 デスクライトを投げつけられた狐娘は、すぐさまそれを迎撃。

 もう片方の狐娘はそれに気を取られ、時雨から視線を外している。

 

 つまり、今現在。

 時雨はノーマークなのだ。

 故に。


「所詮は狐畜生――」


 時雨はすぐさまよそ見をしている狐娘の喉をナイフで切り裂く。そのまま続けて、その個体を廊下側へと蹴り飛ばす。

 次はライトを投げつけた個体……だが。


「こやややーん」


 と、その個体が時雨への反応を始める。


「ぐっ――かはっ!?」


 時雨の腹部に襲い来る圧力。

 直後、訪れる背中への圧倒的衝撃。


 時雨は狐娘に蹴られ、壁まで飛ばされたのだ。

 彼がその事に気が付くやいなや――。


「こやぁああああああん」


 狐娘は猛烈な速度で床を蹴り、時雨へと組みついて来る。


「く、そっ!」


「こや、こや、こややん」


 寄生体Kを宿していない故、当然の如く時雨への殺意しかない狐娘。

 奴は鋭利な牙を剥き出しにし、時雨へと噛みつこうとしてくる。


 時雨はそれを何とか左腕で受け止めるが。


 パキ。

 メキキ。


 呆気ない音を立てて、左腕が折れる感覚。

 このままでは確実に左腕を食いちぎられ、喉をも食いちぎられる。


「こ――のっ!」


 時雨は全力で狐娘へと頭突き。

 すると。


「こや」


 狐娘は怯むことは怯んだが、それは一瞬にすぎない。

 奴はすぐさま牙を剥き出しに――。


「一瞬あればお前なんか――!」


 時雨は態勢を立て直し、迫って来る狐娘の眼をめがけ、ナイフを突き入れるのだった。


      ●●●


「はっ……はっ……」


 時はあれから数十分後。

 時雨が狐娘を避けて行動したというのもあるが、幸い狐娘とはあれ以来交戦していない。

 だが。


「出血が酷い……な」


 左腕だけではない。

 時雨は時折口からも血を吐いてしまっていた。

 きっと、先の狐娘の腹部への蹴りで内臓がイカレタに違いない。


「…………」


 残る銃弾はあと二発。

 ナイフが一本。


「はっ……はは――」


 車がある地下駐車場はもうすぐ。

 歩かなければ死ぬだけだ。

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