第三話の二

「絶望的状況……か」


 時雨が部屋から一歩外に出ると、そこには地獄が広がっていた。

 数多くの人間の死体――そして、その近くにポツポツといる狐娘たちである。


(この事態の原因は亜紗音さんのところの寄生体Kか?)


 時雨が持ち込んでいた時には、確かに死んで居た寄生体K。

 しかし、奴らの未知数の生命力を考えると、蘇生した可能性も大いにある。


(だとするなら、さっき寄生体Kは今度こそ確実に殺した。これ以上の狐娘化拡大の心配はない……問題は今いる狐娘の数と、生存者の数だけど)


 前者はハッキリしないが、後者は最悪に違いない。

 なぜならば。


(この研究所には各部屋に警報装置が付いている。何かあったら、すぐさま助けを呼べるように……なのに、それが全く鳴っていない)


 これはつまり、夜の内。

 皆がまだ眠っている内に、寄生体Kによる狐娘化がすすめられた事を示している。


 実際、時雨だってあと少し遅ければ、そうなっていたに違いない。

 つまり、生存者はいない可能性が非常に高い。


「いや……」


 まだ諦めるのは早い。

 ひょっとすると、警報機に触れられない場所にずっと隠れて居る人が居るかもしれない。

 まだ可能性はあるのだ。


(いずれにしろ、俺一人じゃどうにもできない。近くの基地に連絡して、助けを求めてないと)


 時雨はそう判断し、一人連絡設備のある部屋目指し、歩を進めるのだった。


      ●●●


「っ……」


 結果から言うのならば、状況はやはり絶望的。

 そう言わざるをえない。


「なんだよ……これ」


 たどり着いた連絡設備のある部屋。その中にある連絡設備は、なんと破壊されていたのである。


 といっても故意に破壊されたわけでないのはわかる。

 誰かがここで狐娘と戦ったのだ――なんせ、部屋中に銃痕が刻まれているのだから。

 そして運の悪い事に、それが通信設備にも刻まれてしまっているというわけだ。


(どういう状況だったんだ、これは……他の基地への通信は出来たのか? それとも、その前に狐娘に襲われて設備が壊れたのか?)


 わからない。

 今となっては、時雨にそれを確かめるすべがない。

 となれば方法はただ一つ。


「実際に俺が他の基地に、助けを求めに行くしかない……か」


 時雨はこの部屋に来る間に、すでに殆どの銃弾を使ってしまった。

 他に使えそうな武器はナイフくらいである。


「…………」


 正直な話、この装備で脱出は不可能だ。

 時雨はもう少しで狐娘の仲間入りをするに違いない。

 けれど。


「ここに引きこもってやられるのを待つのは、絶対にごめんだ。まだ居るかもしれない生存者のために俺は――」


「こややーん」


「こやこや」


 と、時雨の声を遮り聞こえてくる狐娘達の声。

 見れば、部屋の入り口には二匹の狐娘が、尻尾をもふもふ立っていた。


「上等だ……やってやるよ」


 時雨はそんな二匹を前に、ナイフを構えるのだった。

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