第三話 狐娘・オブ・ザ・デッド

「ん……っ!」


 時雨は目が覚めるや否や飛び起きる。

 少しだけ眠るつもりが、完全に爆睡してしまったからだ。


「当り前だけど、結構疲れていたみたいだな……というか、今って何時だ?」


 時雨は重たい体を引きずり、窓の方へと近づいていく。

 すると。


「外の雰囲気からして、もうすぐ昼ってとこか」


 昨夜、眠るのが遅かったとはいえ、いくら何でも――。


 コンコン。


 と、ふいに聞こえてくる扉を叩く音。

 自慢ではないが、時雨には友達がいない――数少ない友達も、先の作戦で全員が死んでしまった。


 であるならば、時雨の部屋を訪ねてくる人物など一人しか考えられない。


「亜紗音さんですか? 今開けます、ちょっと待って――」


 コンコン。

 コンコン。


 と、時雨の言葉を遮るように、猛烈な勢いで繰り返されるノック。

 明らかに異常だ。


「…………」


 ここは研究所の中。

 あり得ない事だが、時雨は自らの勘に従いサイドテーブル上のハンドガンを手に取る。

 そして、その瞬間。


「こやーん」


 そんな声と共に、大小様々な破片となって吹き飛ぶ扉。

 同時入ってくるのは、学生服を着た狐娘である。


「っ!」


 飛んできた扉の破片を避ける際に態勢を崩し、倒れてしまう時雨。

 しかも、彼はその衝撃で銃を取り落としてしまう。

 さらに――。


「こやん。こやーん」


 狐娘は時雨を見てチャンスだと考えたに違いない。

 狐娘が時雨の上へ、覆いかぶさるようにして乗ってきたのである――しかも片手で時雨の喉を、もう片腕で時雨の左手を、足で時雨の下半身を抑えるおまけつきだ。


 時雨は自由に動かせる右手で、何度も狐娘の脇腹を殴る。

 しかし、彼の必死の抵抗は全く効いている様子はなく――。


「お、ごぇ……ごややぁあああん!」


 狐娘は口からビチビチとした尻尾――寄生体Kを吐き出し始める。

 狐娘はこの態勢のまま、時雨を宿主にしようとしているに違いない。


「ふざ、けるな!」


 時雨は右手で狐娘の頭を掴み、なんとかどかそうとするがまるで動かない。

 続いて彼は、銃へ手を伸ばそうとする。けれど、それは明らかに届きそうにない位置に転がっている。


「ごやあああん」


 ビチビチ。

 ビチビチビチ。


 と、そうこうしている間に時雨の口へ近づいて来る寄生体K。

 このままではやられる。

 だが。


「あんまり人間舐めるなよ、狐娘!」


 時雨は咄嗟に転がっている扉の破片を手に取り、それを狐娘の目へと突き立てる。

 すると。


「こやぁあああん」


 と、一瞬狐娘が時雨を押さえつける力が弱くなる。

 チャンスは今しかない。


「っ!」


 時雨はすぐさま狐娘を跳ね除け、銃の元まで走り――。


「終わりだ!」


 狐娘と、寄生体Kへ順に銃弾を叩き込むのだった。

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