カクヨムのトリを焼いた

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話

 奴を焼いた。

 そのためだけを目的に生きてきた。

 奴をこんがり焼かなければ俺は次に進めなかったのだ。

 避けることができない運命だった。

 奴がまとう雀の衣を剥ぎ取り、白い本体を絞め、部位ごとにバラして、串刺しにしてこんがり焼いた。

 できれば「美味しく焼けました」のコールが欲しかった。

 だがそれは望みが過ぎる。

 人生なんていつも物足りないものだ。


 先の見えない暗闇の中で藻掻き続けた。

 光なんて見えなかった。

 この暗闇を迷うことなく進んでいく人も多い。

 一度置いて行かれたら二度と追いつくことはできない。

 その暗闇も全て奴が生み出したのだ。

 今も多くの人が奴が生み出した暗闇にとらわれている。

 だから!

 だからもっと多くの人が奴は焼かなければいけない!


 奴は「トリ」を名乗っているがその正体は謎だ。

 まともな設定などありはしない。

 だが騙りの類なのは間違いない。

 見た目からおかしいのだ。

 雀を模した外装は明らかに脱着可能に見える。

 ファスナーを隠す気すらなかった。

 顔の上のフードの目のようなものすらある。

 完全に喧嘩を売っているとしか思えない。

 世界を舐めきってやがる。

 あんなの許せるはずがない。


 奴をばらしてみたが俺にその正体がわからなかった。

 肉は臭みがなく淡泊で鳥類に似ているように思えた。

 だが肉質では鳥類と断定できない。

 爬虫類や両生類も鳥肉に似ているからだ。


 奴を焼き鳥っぽく調理したことに罪悪感は皆無だ。

 一羽か一匹か一頭かもわからないが奴は複数個体であることが確認されている。

 しかも知らぬ間に増える。

 一羽(?)間引いたところで奴らは気にも留めないだろう。

 仲間が殺されても気にしない血も涙もない連中だ。


 それにしても今回の題材を投稿した人は天才だと思う。

 まさに深謀遠慮と言うしかない。

 その方も俺と同じように奴を憎み、運営に不信感を持っていたに違いない。

 テーマが「焼き鳥」でないことからそれは明らかだ。

 ただ「焼き鳥」をテーマにしたならば創作の幅が広すぎる。

 だが今回のテーマは「焼き鳥が登場する物語」だ。

 当たり前だが「焼き鳥」を登場させなければいけない。

 だから俺は奴を焼いた。

 串焼きにした。

 俺と同じような結論に達して奴を串焼きにした人は他にも多くいるだろう。

 ネタ被りなんて知ったことか。

 むしろ光栄ですらある。

 その方が俺が求める答えに近くなるからだ。


 俺が手に持ち、今食べているのは奴の串焼きだ。

 タレをつけてこんがり焼いたのは鳥類ではなく奴だ。

 俺にはこれが「焼き鳥」かはわからない。

 なぜなら奴が本当に鳥類なのか不明だからだ。


 だが答えを出そうとしない運営ならば判断できるだろう。

 もしもこの話が「焼き鳥が登場する物語」だと運営から認められた時に始めて奴が鳥類だと認可される。

 運営が「これは焼き鳥ではなく焼肉なのでテーマから外れている」と判断すれば奴は鳥類でなかったことになる。

 俺としてはどちらでもいい。

 奴の正体が鳥類か否かがハッキリしたときに初めて俺は先の見えない暗闇から抜けられる。

 そんな気がするのだ。

 だから俺はカクヨムの「トリ」をこんがり焼いた。

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