魔法少女キリカ

にゃべ♪

トホホ、焼き鳥になってしまったホ……

 ごく普通の少女の麟翁寺キリカは、地元を侵略しようと襲ってきたジドリーナ帝国の侵略生物バエンナーに襲われる。その時に助けてくれた魔法生物のトリの力を借りて、彼女は地元を守る戦士、魔法少女キリカになった。

 魔法少女キリカは、今日も帝国の魔の手から地元を守るために戦うのだ!


 その日は朝から快晴だったのに、突然暗雲が空を覆い始める。この天候の変化に違和感を感じたトリは、隙を見てキリカの家を出た。


「これはジドリーナが出てくる前兆かも知れないホ!」


 その小さな羽で急いで異常を強く感じた場所に着くと、まぶしい光が地上に向かって弾けるように瞬いた。


「うおっまぶしっホ!」


 普通、ジドリーナが出現する時にこんな現象は発生しない。それに、光っただけでそこには何も出現していなかった。悪い予感のしたトリは、すぐに顔を左右に振って周囲の様子を確認する。


「あの光は一体何だったんだホ?」


 実はこの時、既に出現していたのだ。ジドリーナ帝国四天王の1人、ガングロギャルのパリピーナが。彼女はその超スピードで様子をうかがうトリの背後に移動していた。

 背後を取ったパリピーナは、トリの背中に向かってケリを入れる。


「せいっ!」

「わわっホ!」


 修行して力をつけたトリはこの不意打ちに間一髪で気付き、避けた上で適切な距離を取る。パリピーナは空中に浮かぶ彼をにらみつけた。


「避けるとか生意気じゃん」

「ボクだって少しは強くなったんだホ」

「でも、あまぁ~い!」


 強がるトリを見た彼女はケリをした足の先から電撃を発生させる。隙を与えぬ二段構えの攻撃だったのだ。この流れまでは予想出来ていなかったトリは、あっけなくこの攻撃を受けてしまう。


「ぎゃわわホホー!」

「キャハハ! 丸焦げ~。焼き鳥じゃん受ける~!」


 電撃を受けてこんがりと焼けたトリはそのまま地面に落下、体をピクピクと痙攣させる。それを見たパリピーナはお腹を抱えて大爆笑するのだった。

 そこに、トリの知らせを受けたキリカが到着した。彼女はこの状況をひと目で理解して、相棒のもとに駆け寄る。


「トリィィィーッ!」

「ぼ、ボクは大丈夫……キリカ、変身する……ホ」


 トリは最後に力を振り絞り、キリカを魔法少女に変身させる。魔法少女衣装になった彼女を見たパリピーナは、笑うのを止めて舌打ちをした。


「ちっ、変身するとかマジありえない」

「パリピーナ、どうしちゃったの?」

「は? 雑魚があーしに文句?」

「え?」


 前回のバトル時、彼女は正々堂々と戦う騎士道精神に溢れた振る舞いをしていた。なのに、今目の前にいるパリピーナは勝つためにはどんな卑怯な手も使う外道な戦い方をしている。

 キリカはその戦闘スタイルの変化に戸惑っていたのだ。


「前は正々堂々と戦ってくれたじゃない」

「あーしが義理を守んのは同等な相手だけだし。雑魚だと分かったら関係ねーわ」

「じゃあ、私があんたより強ければ文句ない訳ね」


 キリカはそう言うと指をポキポキと鳴らす。修行でレベルアップした今の彼女は、自信に満ち溢れていた。

 しかし事情を知らないパリピーナは、それを単純な煽りと受け取って呆れ果てる。


「あんたバカァ? もうボコボコにされちゃったの忘れたの? 雑魚だから一日経つと忘れちゃう系?」

「パリピーナこそ、実力差を知っても私がここにいる事に違和感を覚えないの?」

「あーうざ」


 対話を煩わしく感じた彼女は、予備動作を見せずに超速移動。前回のバトルで見せた得意のスタイルでキリカに迫る。


「またワンパンっしょ」


 パリピーナは思いっきり振りかぶって自慢の一撃を撃ち込む。けれど、その超スピードで繰り出した拳は手応えを全く感じ取れなかった。殴ったはずのキリカの姿がゆらりと消える。


「嘘じゃん?」

「残念、それは残像」


 パリピーナの背後を取ったキリカは、ニヤニヤと笑いながら腕組みをしてふんぞり返る。前回と全く違うこの展開に、パリピーナは頬に一筋の汗をたらりと流した。


「確かに、少しはヤルようになったみたいじゃん?」

「私、まだ全然本気じゃないんだけど?」


 キリカは挑発的な笑みを浮かべると、手を前に出して彼女を煽る。このジェスチャーにパリピーナは激高。体に高出力の魔力をみなぎらせた。


「舐めんのもいい加減にしなァ!」


 叫んだ後に彼女はまたしても姿を消す。本気を出した彼女は音速を超えた。そしてキリカに向かって本気キック。足の先には炎を纏わせていた。


「これで終わりだしィ!」


 空を切り裂く本気キックをキリカは軽く片手でキャッチ。この想定外の展開に、パリピーナは目を丸くする。


「嘘? あんたいつからバトルスタイルを変えたのよ?」

「変えてないよ。私は魔法少女だよ」


 キリカはそう言うと、パリピーナを空高くに放り投げる。なす術もなく投げられた彼女は、まだ現実を受け入れられないのか困惑する表情を固めたままだった。

 そしてここでやっとステッキを具現化させたキリカは、空中に浮かぶパリピーナに向かって狙いを定める。


「シン・ファイナルアロー!」


 ステッキの先から発現した魔法の光は、けれど今までの攻撃魔法と同じように見えた。それを見たパリピーナは、余裕の笑みを浮かべる。


「は、その攻撃はあーしには効かんし!」


 以前の攻撃の記憶のある彼女は全く避けようともしなかったため、魔法は見事に直撃。その瞬間に大爆発が発生する。高濃度に圧縮された魔法力が対象物を何度も何度も蹂躙。その破壊力は、パリピーナが耐えられる限度を遥かに超えていた。

 気付いた彼女はとっさに防御態勢を取るものの、時既に遅し。ダメージを受け続けながら、パリピーナは空の彼方に吹っ飛んでいったのだった。


「嘘でしょおー!」


 彼女の姿が見えなくなったのを確認して、キリカは変身を解くとトリの側まで駆け寄る。まっ黒焦げになった姿を見て、力なくポツリとつぶやいた。


「焼き鳥になっちゃったね……」


 彼女は焦げ焦げのトリを拾い上げると、ギュッと強く抱きしめる。その瞳からは一筋の涙がポロリと流れ落ちた。


「ごめん。もっと早く来ていれば」

「苦しいホ!」


 キリカの腕の中で復活したトリは、ポンとその場から飛び出す。そうして空中で体を小刻みに震わせて、焦げた自身の皮を弾き落とした。

 この予想外の展開に、キリカは思わず目を見張る。


「あの程度じゃボクは死なないホ」

「良かったーっ」


 修行の成果をその身で実感した2人は、ハイタッチをして勝利を喜び合う。キリカは晴れ渡った青空を見上げながら、もう二度と負けないぞと改めて意気込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女キリカ にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ