てめえ焼き鳥にすっぞ

新巻へもん

大切なので4回言いました

「僕と契約して小説を書かない?」

 家に帰って缶ビールを開け、キムチと豆腐を肴に飲み始めたところだった。

 空中に浮かぶ何かのマスコット、たぶん鳥だと思われる何かが俺に問いかけてくる。

 ああ、働き過ぎだな。それともキムチに何かヤバい成分でも入っていたのか?

 目を閉じて、缶ビールを口に運ぶ。

 目蓋を上げても幻覚は消えなかった。

「僕と契約して小説を書かない?」

 しつこく同じ台詞を繰り返す。

「ネタ古っ!」

 思わず声に出てしまう。

「じゃあ、小説を書いてみんなを幸せにするっピ」

「やめろ。新鮮なナマモノは危険すぎるだろ」

「へえ、意外。最新の流行を押さえてるんだ。これは有望だね」

「お前なんなんだよ?」

「ボクはカクヨムの伝道師トリだよ。お兄さん有望そうだから、小説投稿サイトカクヨムで小説を書いてみない? 今開催中のイベントに参加するだけで500円相当のポイントが貰えるんだ」

 俺は腹が立ってくる。空になったビールの缶をトリに向かって投げつけた。

「おわっ。何をするのさ?」

「うるせえ。俺はもう既にカクヨムで書いてるよ。全然読まれないし評価もされないけどな。おめえユーザーも把握してないのか?」

「あ……」

「あ、じゃねえよ」

「えーと、それじゃあ、皆勤賞を目指してガンバロー。ほら、更に300円相当のポイントも付くし、ボクのキャラグッズも貰えるし」

「うるせえ。換金は3000ポイントからじゃねえか。どうせ有効期限が切れて使えねえんだ」

 トリは空中で羽を動かす。空中をじーっと眺めた。

「うん。確かにお兄さんじゃ無理そう。ゴメンね」

「この野郎。焼き鳥にすっぞ」

「換金ポイントの下限を下げることを検討してるからさ。カクヨムを盛り上げるために、じゃんじゃん書いちゃってよ」

「なんか投げやりだな。こういう非常識な登場するんだから、必ず注目の作品に乗るとか、☆が100倍になるとかのチート能力を付与するとかねえのかよ?」

「そんなのあるわけないじゃん」

「使えねえな。じゃあ、何ができるんだよ?」

「後ろから応援するとか」

「だああ。マジ使えねえ。本当に焼き鳥にしてやろうか? トリに応援されて嬉しいやつがどこにいるんだよ。せめて美少女化するとか……。そういや、カクヨムのキャラクターなら姉ちゃんいただろ?」

「ああ。バーグさんですね」

「どうせ応援されるなら、バーグさんの方がいいなあ」

「うわあ。ロリコンだよ」

「うるせえ。マジで焼き鳥にすっぞ」

「そればかりじゃないですか。あのですね。バーグさんはやめておいた方がいいです」

「なんでだよ。ちょっと可愛いじゃねえか」

「あの人は毒舌なんです。今まで何人も廃人にしてます。髪の毛が真っ白になったり、キーボードが打てなくなったり、それはもう……」

 ボンという音と共に女の子が現れ罵倒した。

「うっさいわね。焼き鳥にするわよ」

 バーグさんと意気投合した俺に追い詰められたトリは哀願する。

「や、やめて。ボク美味しくないし、腹壊すよ。代わりにコンビニで買ってくるんで許して」

 一本80円の焼き鳥を10本買って来たので許してやることにする。


 後日、俺には800ポイントのリワードが付与されなかった。

 ちゃんちゃん。

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