がんばれカトリーヌ
葛瀬 秋奈
お使いは大変
いつかの未来、政府は少子化対策の一環として共働き家庭にお手伝いロボットを1体ずつ配属させるようになった。
カトリーヌは最新式お手伝いロボットだ。見た目こそ
今日も彼女は配属先である佐藤家の両親に代わり、子供たちを連れてお出かけした。長男・長女・次男・次女で構成された4人兄弟である。
出かけた先は長女ご希望の桜祭りだ。桜が満開になった公園にずらりと屋台が並んでいる。綺麗な桜と美味しそうな屋台飯の数々に長女と次男は大興奮。
もうすぐ中学生になる長男は少し退屈そうにしていたものの、妹には甘いのかちゃんと一緒についてきてくれた。そして未就学児の次女をベンチに座らせるとカトリーヌにこう言った。
「俺たちはここで待ってるから食べ物を買ってきてくれ。とりあえず焼き鳥ね」
「
カトリーヌはすぐに承知した。優秀なお手伝いロボットである彼女にとってはお使いなんて朝飯前だ。そう思っていた。スーパーマーケットでしか買い物したこともないのに。
「ラッシャイ、安いよ!」
駆動音を響かせて意気揚々とやってきたカトリーヌはいきなり
いつも使っているセルフレジがない。屋台とはそういうものであるという知識はあったが、自分がそこで買い物をするという認識が欠けていたらしい。
落ち着いて、カトリーヌはもう一度その店をよく見た。屋台上部には「やきとり」と確かに書いてある。その下では中年男性がグリルの上で鶏肉を一口大に切って串に刺した料理をじゅうじゅうと焼いている。
間違いない、ここが焼き鳥屋だ。ならばメニューと数を伝えれば買い物ができるはず。簡単ではないか。
カトリーヌはさっそくメニュー表を探した。しかし何度見ても「1本80円」の張り紙しか見あたらない。恐る恐る店員と思しき男性に聞いてみた。
「この店にメニュー表はないんデスか?」
「うちは焼き鳥屋だから焼き鳥しかないね」
「ではそれを4本お願いしマス」
グリルの上で焼かれているのも
「タレとシオどっちにする?」
「マ!?」
メニュー表もないくせに味付けの指定はできるようになっていたのだ。食べる人には便利かもしれないが自分で食べるわけでもないカトリーヌには迷惑でしかない。店に文句を言っても仕方ないが。
カトリーヌは子供たちの好みを考えた。だけど答えは出なかった。佐藤家に配属されてから一週間、家での食事には焼き鳥なんて出さなかったからだ。情報が足りない。
ひとしきり悩んだあと、やむなくカトリーヌは苦渋の決断をした。
「オススメで……お願いしマス」
「じゃあ半々にしとくね!」
店員の笑顔が妙に眩しかった。
「お待たせデス!」
「どこまで行ってたの?」
「もうお腹ペコペコだよ〜」
想定よりだいぶ時間がかかってしまったが、子供たちは最初の場所に全員揃って待っていてくれた。みんなでゲームをしていたようだ。
「こちらが焼き鳥になりマス」
「うん、ありがとう……あ」
「あ?」
紙の箱を開けた瞬間、長男は笑顔で固まってしまった。まるで重大な取りこぼしに気づいたかのように。
「だ、大丈夫大丈夫。串から外してみんなで分けて食べればいい。な、そうだろ」
「そしたらみんなタレを食べられるもんね」
「カトリーヌは悪くないよ」
上の3人が一生懸命かばってくれたが、カトリーヌが選択を間違えたことは明白だった。どうやら全員タレ派だったらしい。
「次こそはきちんと
名誉を挽回したいカトリーヌだったが、彼女はまだ知らない。このあともタコ焼きの個数や焼きそばにマヨネーズをかけるかどうかで同じような試練が待っているということを。
がんばれカトリーヌ。明日も負けるなカトリーヌ。佐藤家の平穏と明るい未来のために!
がんばれカトリーヌ 葛瀬 秋奈 @4696cat
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