第4話 ほんとうの…
なんだか勢いで、佑の家に乗り込んでしまった。
おばさんに洗面所を借りようとしたら、いなかった。
「6時までパートに行ってるんだ。」
「そっか…。」
佑の家は母子家庭だ。
「じゃあ、洗面所と洗剤借りる。」
「そのまま洗濯機に放り込んでもいいのに。」
「シミになったら嫌だもん。」
洗面所で洗剤をつけ、下洗いしてから、洗濯機に入れて回した。
「これで、落ちるだろ。ごめんね、佑のシャツ。」
「何、シャツに謝ってんの。」
佑がまた笑った。
それにしても、佑の家は久しぶりだ。
「なんか変わってないね。懐かしい。」
つい、ぐるっと見渡してしまう。
「ね、ね、佑の部屋、突撃していい?」
「おい、こら、待て。」
「お。思ったより綺麗にしてある。」
「お前なあ。」
「何だよ〜。」
「男の部屋に、そんなに無防備に入んな。」
「あはは。佑の部屋だからだよ〜。」
そう笑った次の瞬間、佑は私を抱きしめていた。
「油断しただろ。」
油断した。無防備にもほどがある。びっくりして、力が抜けて、ストンと座り込んだ。
「ごめん…」
佑が隣に座って言う。
「そんなに…驚くとは…ごめん…」
「びっくり…するよぉ。」
涙が一粒落ちる。
びっくりしたのは、抱きつかれたことだけではなかった。自分の本当の気持ちに気付いてしまったからだった。
「ごめん…」
「いいよ。…佑だから、大丈夫だよ。」
「…なんていうか…今日の…お前が、晶が綺麗で。いや…あの…」
「何言ってるんだよ、もう。」
佑の不器用な言い訳に笑った。涙は相変わらずこぼれていた。
「ごめん、晶。」
そう言うと、佑は優しく私の髪をかき上げ、おでこにキスをする。
「幼馴染みのキス。な。さっきのは、幼馴染みのハグ。ごめん。」
嫌だ、そんなの…
「やだ…。」
「え?」
「幼馴染みの、じゃないのがいい。」
言ってしまった。
佑が私をそっと抱き寄せる。
そっと。そっと…
ギュッと。抱きしめる。
互いに。
佑がそっとキスをする。
優しく頬に、
そして優しく唇に。
止まることなく。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
佑のことが、こんなに好きだったんだ…
智紀の時とは全然違う。こんなこと思っちゃいけない。…でも…。
信じられないくらい嬉しかった。途中で何度も泣いた。溶けてしまうくらい嬉しかった。
私を送ってくれながら佑が言う。
「…智紀に謝るよ。」
「…私が謝るよ。」
「一緒に謝るか。」
「同罪だもんね。」
智紀に、正直に話した。そしたら、
「馬鹿だな、お前ら。気付いてなかったの、自分たちだけだぞ?」
智紀に、笑い飛ばされてしまったのだった。
美術館 緋雪 @hiyuki0714
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