すずめ

緋雪

すずめの丸焼き

 道路の拡張工事に伴って、今は消えてしまったけれど、実家の斜向はすむかいに、焼き鳥屋さんがあった。


 私達姉弟は、小さい頃、そこの子供達と時々遊んだが、周りの大人たちは、いい顔をしなかった。隣の家の前に、凄く獰猛どうもうな犬を飼っていて、誰にでも激しく吠え、今にも噛みつきそうな勢いだった。それが危ないからかなあ。と思ったり、うちの生まれたばかりの子猫を隠されていたりしたからかなあ、と思った。


 子供ながらに、近所付き合いを余りしていない家だなとは思っていた。


 それでも、そこの焼き鳥は、抜群に旨く、父が「行くか?」と言うと、子供たちは大喜びでついて行った。ただ、父方の祖母は行きたがらなった。

 店のおばさんは普通に喋っていたが、おばあさんは、ちょっと外国人みたいな喋り方で、それが凄くキツく聞こえて怖かったので、おばさんとしか喋らなかった。


父が、

「スズメ」

と頼んだ。焼き鳥にそんな部位があるのか、と思っていたら、本当にすずめの丸焼きみたいのが出てきてびっくりした。

「お父さん、すずめって、あの、すずめ?」

「おう。チュンチュンの雀だ。旨いぞ、食うか?」

恐る恐るかじったが、味はわからなかった。ヒヤッとした感じが体を走って、食べられなかった。

「いらない。好きじゃない。」

そう言って、歯型をつけただけのそれを父に返した。

「旨いのに。なあ。」

父が店のおばさんに言うと、おばさんも笑っていた。

 そこからは、ひたすら、焼鳥に一緒についてくるキャベツだけを食べ続けた。

 

 私は子供心に、あの可愛い、ふわふわして、まんまるの雀を食べてしまったことを、凄く後悔した。でも、鶏だって、ふわふわしてるよなあ。鶏を食べてる時は感じない気持ちを、雀を食べようとした時に凄く感じたのか、その気持ちが何なのか、私にはわからなかった。


 うちに来る雀は、次の日の朝も、チュンチュン鳴きながら、ピョコピョコ、庭や屋根や電線で跳ねていた。まんまるで、ふわふわで、ちょっと首を傾げる時にマヌケに見えて可愛かった。

 洗濯物を干しにきた祖母に、

「昨日、お父さんが、すずめ食べた。」

と言うと、祖母は嫌な顔をして、

「そうかい。」

と言って、それ以上何も言わなかった。 

「ああ、ばあちゃんも、すずめ食べるのは嫌なんだろうなあ」と思った。



 理由はわからなかったけど、その家の子供たちは、私達と同じ学校には通っていなかった。でも、帰ってくる時間は同じくらい。


「じゃあね、バイバイ。」

家の前で手を振ると、隣の玄関を開けた子の

「オモニ、ただいま〜。」

という声が聞こえた。




 世の中に様々な事情があることを知ったのは、ずっとずっと大人になってからのことだった。

 私には未だ、是非はわからないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すずめ 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説