残り物には福がある?

里岡依蕗

KAC20226




 「……あ、鶏肉食べたい」

 残業で疲れた体は、何故かよくわからないが、無性に鶏肉を欲していた。

 突然、何故かあのパリッとした鶏皮と、ジューシーな肉の繊維を噛みちぎりたくなってしまった。


 歩き疲れた足に鞭を打ちながら、なんとか近くのスーパーに行ってみると、惣菜コーナーは割引シールだらけになっている。割引率が高い物から次々と売れていくので、俺が行った時には、ほとんど毎回目新しい物はない。


 「……はぁ、遅かったな」

 コロッケ、弁当、おにぎり、サラダ……今日もいつものメンバーだ。鶏肉を焼く気力はない、洗い物すらしたくない。何か、他に残ってないものか……


 「お……? 」

 辛うじて焼き鳥のパックが余っていた。珍しい。ねぎまと鶏皮とモモのタレが二本ずつ、これでいい。いや。これがいい。

 まだ連勤は終わらないんだ。たまには惣菜に頼っていいじゃないか。


 ついでにコロッケも買った。野菜も摂らないといけないから野菜コロッケにした。ネギもちゃんと刺さってるからな、ついでに。



 家に帰って冷凍庫にあったご飯を温めて、割り箸を割ってコロッケに齧り付く。

 ……そういえば、もう長くこういう手間のかかる料理はしていない。頑張って炒め物、カレーくらいだ。

 「ありがてぇな、そう考えたら」

 コロッケも焼き鳥も、食べるのは簡単ではあるが、手間のかかる料理だ。惣菜を作るのだって大変なはずだ。有り難く味わおう。

 「……美味っ」

 ねぎまを食べながら、テレビをつけると、野球で推しが打席に立っていた。

 「……無理に打つなよ、塁に出られたらいいんだからな」

 レンジで温めておいたご飯を取りに行こうと、席を立ち、テレビから遠ざかった。

 ラップの端を摘み、ゆっくり机に戻ろうとすると、テレビから歓声が起こった。

 「うぇっ? ……ぅあっちっ! 」

 推しはあろう事か、ホームランを打った。ご飯ラップ越しではあるが、床に落ちた、あぁ、よかった。よくないけど。

 

 「……うっし、いただきました、ホームラン」

 気をつけてラップご飯を摘み、机に避難させる。こいつはもう少ししたら食べよう。今は熱すぎる。

 野球観ながら焼き鳥食べれるなんて、最高だ。


 ……このまま勝ってくれたら、更にな。




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