シュ……なんとかの缶詰
真偽ゆらり
賞味期限切れの焼き鳥缶
「開けるべきか、開けざるべきか」
男は一つの缶詰を開けようか悩んでいた。
彼が今いるのは無人島。船旅の途中、彼は空を飛ぶ海鳥を見て焼き鳥にしたら美味しいのだろうかと想像を膨らませていたら海に落ちて流れ着いた。幸いにも船旅に持ってきていた荷物も無事な状態で一緒に流れ着いており、既に遭難信号を出して救助を待つだけとなっている。
救助が来るまで暇だと思った男は島の散策をして漂流物の缶詰を発見した。
発見した二つの缶詰はどちらもラベルが剥げた銀色の金属缶。片方は金属の缶詰にもかかわらず膨らんでいた為、男は危険物だと判断して膨らんでいない方を拾うことにした。
拾った缶詰を遭難信号を出した地点まで持ち帰ってかれこれ三時間、男は中身の分からない缶詰を開けるべきか悩み続けている。
一緒に流れ着いた荷物で飲み水の確保はできているが荷物の中に食糧品は無く、この拾った缶詰が今のところ唯一の食糧であった。
救助は遅くとも明日には到着する。
無理にこの賞味期限も分からない謎の缶詰を食べる必要はない。
しかし、男は無類の焼き鳥缶好きであった。
男にはこの缶詰が今までに食べたことのない未知の焼き鳥缶に見えて仕方がない。
未知の焼き鳥缶……食べてみたいが救助を待ってからでは救助の人に止められる。食べるのであれば救助が来る前のこのタイミングをおいてほかにない。
賞味期限の分からない缶詰……果たして食べて大丈夫だろうか。せっかく無事に帰れるのに食当たりを起こすリスクを負うべきではない。
未知の味か身の安全かで揺れる男の天秤。
「……腹が減ってきたな」
たぶん、よくない方に傾いている。
ところでこの缶詰は本当に焼き鳥缶であっているのだろうか。缶詰を持ち上げて眺めていた男の脳裏に今更ながら当然の疑問がよぎった。
いつも食べている焼き鳥缶と形が似ている気がする。いや、缶詰なんてどれも形が似ていて形状から中身を判断できない。でも焼き鳥缶っぽい気がするけど……と、考える男。
開ければ分かる——この缶詰を開封してしまえば結論は出る。だが、もし焼き鳥缶でなかったら? 食べるか悩んでいた三時間は一体なんだったのか。いや、それよりも危険なのは焼き鳥缶であった場合だろう。未知の焼き鳥缶を前にした空腹気味のこの男が耐えられるだろうか、いや耐えられるはずがない。
男の天秤は激しく揺れている。
食べたい。
我慢するべきだ。
食べたい。
が、我慢……味見だけなら?
食べたい。
開けるだけなら?
食べるか。
そういえばもう一缶あった……っ!?
男の天秤が完全に傾く直前で止まる。
男が拾った漂流物の缶詰は生物兵器レベルの危険物と思しき膨らんだ缶詰と一緒にあった。
男が手に持つ缶詰が焼き鳥缶でなかった最悪の場合、危険物と判断して放置した缶詰と同じ缶詰である可能性がある。むしろ、その可能性の方が高いかもしれない。
缶詰が生物兵器である可能性が男の天秤に束の間の調和をもたらした。
未知の焼き鳥缶か生物兵器か。
「可能性は二つに一つ」
いや、もっと色々な可能性があるだろうに。
男の中では可能性は二つに絞られていた。
「開けるまでは焼き鳥缶である可能性は50%もある」
そんなことは無い。缶詰の中身など製造の段階で決まっているのだから。男が缶詰を開けようが開けまいが、中身が変わることはない。
「って、缶切り無かった……」
シュ……なんとかの缶詰 真偽ゆらり @Silvanote
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます