思い出の焼き鳥
るるあ
本編
昔、世話になった礼だ。受け取れ。
そして焼き鳥を売ってくれ。
うん?利子だ。使い易いよう、ちゃんと金貨は崩してある。少々重いが勘弁してくれ。
理由?礼には礼を尽くせ、倍返しで!
シスターと恋女房の教えだ。間違いない。
え?生い立ちから?…長い話は面倒だ。
だが、話せば受け取ってくれるんだな?
…うーん、大した話でもないんだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私が気が付いた時には、国境沿いの孤児院にいた。戦争の煽りで、この国ではない所から沢山の子供達がここへ集まる。褐色の肌である私も恐らくそうだったのであろう。
幸いここでは見た目からの差別もなく、貧しさから皆で身を寄せ合って生きてきた。愛する女房とは、ここで出会ってからずっと、一番大切な家族だった。
生きていく為には金を稼がなければならない。幸い私は体格に恵まれていた為、近隣の獣を狩ったり、近郊の森で採取をするのに向いていた。
最初は、孤児院出身の先達に教わって食料調達を目的としていた。しかし、同じ年頃の孤児仲間でそれなりに狩りが出来るようになると、売り物に出来る程度の収穫を得ることが可能になった。
私達は自分たちが満たされたので、森や街もついでに見守るようにして、結果的に孤児院は、狩りを教える簡易的な学校のような機能も持ち始めたのだった。
ある日、いつもの様に孤児仲間で狩りに行くと、森で見慣れぬ団体を見つけた。
身なりは薄汚れ、顔や頭には布を巻いていて、明らかに不審な奴らだ。
私達にとって森は今や庭と言える程の場所なので、奴らに気が付かれないように鎮圧するなど容易いことだった。
仲間うちて一番耳のいいやつが聞き耳役、身軽な奴がいざという時の伝令役を請け負い、一番体格がいい私が先陣を切った。
なんてことはない、国境沿いの揉め事関係だ。いつも獣を捕えるのと同じ様に、歩けなくしてから簀巻きにし、皆で引き摺って持ち帰った。
とりあえずその汚い奴らは、領内の警邏隊に引き取って貰った。
何か言われたような気がしたが、細かい事は頭のいい仲間に任せ、私は今夜の食料を得るため、森へと急いだ。
数日後、領主様から何やら呼び出しかあった。先日の狩りの件?らしい。
着慣れない上等な服を着せられ、先日の狩りの仲間達と共に連れて行かれた。
あの簀巻きにした汚い奴らは、領主様を暗殺に来たらしい。
私は難しい話は頭に残らない性質なので、まぁ悪い話ではなさそうだったし、何か言われたらとりあえず神妙に頷いておいた。
すると、あれよあれよと祭り上げられ、領主様に謁見、何故か気に入られ王都へお供する事となり、数日後、恐れ多くも、この国で一番尊いお方に拝謁する事となっていた。
人払いをされた一室に通され、「面を上げよ」とのお言葉に、恐る恐るご尊顔を拝する。
そこには威厳のある、恰幅のいい王様と、私と同じ褐色の肌を持つ美しい王妃様が私をジッと見ていた。
私が産まれた時から持っていたらしい、翡翠のペンダントをお見せした時、瞳が潤んでいたような気がしたが気のせいであろう。
そしてよく解らないが、気がつけば私達には騎士の爵位が与えられ、王都にほど近い田舎の土地を拝領していたのだった。
それからは、分からないながらもとにかくがむしゃらに働き、今や騎士伯の狩り仲間達と連携し、なんとかやってきた。
しかし、孤児院のある土地から私に付いて来てくれた、考えなしの私に尽くしてくれた恋女房には病気で先立たれてしまった。
やっと落ち着いて、二人で過ごせると思ったのに…。
すぐに後を追いたかったのだが、女房が残してくれた子供達を路頭に迷わせる訳にはいかず、歯を食いしばって生きてきた。
今やそれぞれが所帯を持ち、かわいい孫も産まれ、全てを安心して任せられるようになった。立派になった。
もう私が出しゃばる事はない。
さあ、自由になったが、今更どうしていいものか…と思った時、唯一心残りだった、嫁の“一番美味しかったもの”の話を思い出した。
病でやつれてしまったが、それでも美しい顔に笑顔を浮かべて、私に言ったのだ。
「うふふ!そうねぇ…初めてあなたと一緒に行った街中で、一本の串焼きを二人で食べたでしょ?あれかな。」
二人ともお財布をスラれてしょんぼりしてたら、見かねた屋台のおじさんがくれたのよね!嬉しかったし、美味しかったわ…
今度は全部買い占めるくらいして、あのおじさんをびっくりさせましょうね!
…って、約束した。
それなのに、女房は数日後、私を置いて逝ってしまったのだ。
ああ、そうだ。それを叶えに行かなくては、と、閃いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
…そういう事なんだか、分かって貰えただろうか?
大丈夫か?これで涙を拭いてくれ。鼻も
私はもう泣けなくなってしまったから、代わりに涙してもらえたようで嬉しい。
…??
いや、約束が違うではないか。
生い立ちから全て話せば、この金を受け取ってくれるのだろう?
あなたに渡すために、女房と二人で貯めた金なんだ、頼むから納めてくれないか?
それとだな、その…
貴殿には謝らねばならんのだ…。
これなんだが…。
うん、そうだ。貴殿の焼き鳥の形を、誠に勝手ながら我が家紋にさせてもらったのだ…。
あなたが私達にくれた焼き鳥は、かけがえのない物だったから。
無断て使用する事となり、申し訳なく…。
…うん?いやいや、だから、金は受け取ってくれ頼むから!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、その焼き鳥屋台には
焼き鳥を模した家紋の看板が置かれるようになったとか
孤児院に定期的に焼き鳥の差し入れをするようになったとか
やたらと威厳のある高貴な方が、よくお忍びで焼き鳥を買いに来たりとか
まぁ、色々あったらしい。
思い出の焼き鳥 るるあ @ayan7944
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