鳥谷の焼き鳥コレクション
砂漠の使徒
ねぇねぇ、これとかどう?
俺の親友に
そして、ここにはもう一つ名物が。
「おっ、今日も来てくれてありがとうー!」
お店の制服とエプロンを付けた鳥谷が皮を運んできた。
どれも好きだけど、これが俺の一番の推し焼き鳥だ。
「ん、まあな。ここは俺のお気に入りだから」
とりあえず一本口に入れる。
今日もおいしい。
「じゃあ、そんな常連の田中には今日もオススメを紹介しちゃうよー!」
ごそごそとエプロンのポケットからなにかを引っ張り出す鳥谷。
今日はどんな面白い本だろう。
「今日はこれ! 『串で人は殺せるか』だよ!」
暗い色調の表紙。
そして、タイトルも不穏だ。
予想では、ミステリーとかサスペンスとかかな。
「あらすじは、焼き鳥店の店主がとあるクレーマーのせいで売り上げが落ちて、お店がつぶれちゃったから、復讐するお話だよ」
「なるほど」
やっぱり。
結構重めだな。
「で、タイトルから察するに、最後は……」
「ふふふ、それはお楽しみ!」
にっこり笑顔で微笑む鳥谷を見ていると、同性なのにときめいてしまいそうだ。
「じゃあ、そこの本棚に置いておくからいつでも読んでね! それとも、今読む?」
「うーん、そうだな。今日は時間もあるし読んでいくよ」
「了解! 読むときはちゃんとお手拭き使ってね!」
「わかってるって」
そう、これがこのお店の名物。
名付けて「鳥谷の焼き鳥コレクション」。
店の片隅に置かれた本棚には、あいつのオススメがいっぱい詰まっている。
しかも、なにがすごいって。
全部焼き鳥が登場すること。
よくもまあ、あんなに焼き鳥関連の本を集めたものだ。
中には、有名な漫画……の焼き鳥がでてくる巻だけ置いてあって話が全然わかんねー……w(でも、あいつが選んだだけあっておいしそうなのは伝わる)。
―――――――――
「今日のオススメはこれ!」
おっ、今日はかなりでかい本。
エプロンのポケットにも入らないから、両手で持っている。
文庫本やコミックスのサイズじゃないな。
表紙は焼き鳥の写真だが、中身は……。
「『焼き鳥写真集』だよ!」
「す、すげぇ……」
中を開くと、まじで焼き鳥の写真しか載ってない。
こう言っちゃなんだが、来たらすぐ食べるのでここまで真剣に焼き鳥を見たことはなかったな。
かなりいいカメラで撮られているようで、タレの光沢が美しくも見える。
さらに、調理過程の写真も見ごたえがあり、炎の中であぶられる焼き鳥はなんだか見ていて興奮する。
「僕のお気に入りはこれ!」
鳥谷が指さしたのは……。
「豚バラじゃねーか!」
鳥じゃないんかい!
「だって、この輝く胡椒を見てよ!」
そう言われると、白っぽい豚肉に黒い胡椒のアクセントは魅力的だ。
この写真集、焼き鳥の外見的よさについて再発見させてくれる。
それはいいんだが……。
「やっぱ、本物食べてーな」
「あはは、それじゃあ、おかわり持ってこよっか?」
―――――――――
また別の日。
「俺もさー、異世界とか言ってみたいよね」
「今流行りだもんねー」
そうそう。
ラノベもアニメも異世界よ。
「そんな田中にはこれ! 『異世界転生したらスキル<焼き鳥マスター>だったので、王都で焼き鳥屋を営むことになりました~俺の焼き鳥を食べたら不老不死になるって噂が出回って大繁盛です~』!」
な、なげー!
まさにウェブ小説にありそうなタイトル!
なのに、焼き鳥!!
「でも、異世界で料理する系って結構出てるよな……」
正直もう何番煎じされてるんだって感じ。
「ノンノン! この作品のすごいのは、焼き鳥に焦点を当てているところ!」
「へー」
ぶっちゃけ鳥谷がオススメしてきたんだから、そうだろうなとは思ってた。
「なんと主人公は焼き鳥を作ったことがない、焼き鳥初心者!」
「焼き鳥初心者……?」
聞いたことない単語だし、その理屈でいくなら俺も初心者なんだが。
頭にはてなを浮かべる俺を置いて、話は進んで行く。
「そんな彼が王様に認められ、敵である魔王さえも買いにくる絶品の焼き鳥を作るまでの成長を見守るのがすごく楽しいの!」
「なるほど……」
興味が湧いてきた。
最初から能力で無双するわけじゃないのが、好感を持てる。
それに、異世界でどうやって焼き鳥を作るのかも気になる。
「ちょっとネタバレになるけど、僕はこのドラゴン焼きがすごく好きでさ!」
見せられた挿絵には、超巨大な焼肉が描かれている。
ん、ドラゴンは焼き「鳥」なのか?
気にしたら負けだ。
「こんなにあったら、お腹もいっぱいになるだろうな」
「ねー! 食べてみたーい!」
―――――――――
そんなこんなで、俺は今日も焼き鳥を食べる。
親友のオススメを読みながら。
明日はどんな焼き鳥に出会えるか。
楽しみだ。
(完)
鳥谷の焼き鳥コレクション 砂漠の使徒 @461kuma
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