甘い泥にまみれても
おくとりょう
この通り、
いつも妬いてる。
先日のことです。つい春の陽気に誘われて、最寄駅のスーパーへと寄っていました。最近忙しくて、その日も疲れてくたくただったのですが、やはり陽の出てるうちに、家に帰れるのは良いものですね。
……さて、今夜は何を食べようか。
ペコペコお腹と、今夜の献立の相談をします。
お肉が欲しいが野菜も食べねば……。できれば料理はしたくない。懐具合は寂しくて……。
はぁ、私の春はいつ来るのやら……。
悶々と悩みながら
「おネギ……。みったん、おネギ切った!」
振り向くと、小さな男の子がひとり。おかあさんとはぐれてしまったのでしょうか。ひとりでポワンと突っ立っています。
幼児らしいポコンと突き出た可愛いお腹と、オムツで膨らむモコモコお尻。何だか微笑ましく思えてしまって、ついつい彼を見ていると、
「昨日ね、お手伝いしたの」
と、私に話しかけてきました。
「みったん、おネギ切ったの。とんとんとんって」
まるい瞳をクリクリさせて、私に言います。通りすがりの疲れた顔をした私に!あぁ、
「鶏肉と一緒に焼くの……。甘くてトロトロになるの……。
ボク、お野菜は嫌いだけど、白いところは……」
ピタッと黙った彼は青い野菜の山に近づき、その中の泥つきネギをじぃっと見つめます。
「……泥ついたまま焼くんだよ」
ふと思い出したように呟く様に、私はどうすれば良いか分からなくなって……。
「みっちゃーん、何してるの?」
「……ママ?!」
不意に現れた彼のママに、私はびっくりしてしまって飛び上がりました。ついつい彼に気を取られていたもので……。
取り繕うように掠れた声をあげながら、黒い翼をはためかせます。
「……わぁ、大きいカラスさんね」
羽音に気づいてそう言うママと、ぼんやり空を見上げるみったん。彼のまるいお目目には私は映っているのでしょうか。それはいつまで映るのでしょう。
甘い泥にまみれても おくとりょう @n8osoeuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます