88歳

 縁側の肘掛け椅子に座って、ゆかりはお茶を飲んだ。


 向かい合うように置いたフレームに飾られた写真に話しかける。


「ようやく、あなたの年齢に追いつくことができましたよ」


 今日は、ゆかりの88歳の誕生日である。

 夫を亡くしてから、長い月日をこの家で一人で暮らしてきた。


 陽の光の中、庭を眺める。


「あなたを亡くしてから長かったわ。でも・・

 一緒に過ごした20年は本当に幸せだった」


 夫との月日は、本当に素晴らしい物だった。

 その記憶を思い出すことで、穏やかで幸せな気持ちになることができた。


 思い出に浸りながら、庭を眺める。



 やがて、家の外で車が止まる音が聞こえてきた。

 

「そろそろ孫たちが来たようよ」


 息子や孫やひ孫たちがやってきたようだ。


「今日はにぎやかになるわね」


 フレームを持ち上げ、写真に話しかける。



「本当にありがとうね・・・・先生」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

作家先生とお手伝いさん (Side.ゆかり) 三枝 優 @7487sakuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ